?日目 新しき光
あけましておめでとうございます!
本年も、秋斗と芒とゆかいな仲間たちをどうぞよろしくお願いいたします!
さて、大晦日に引き続き今回も特別篇として、今度は元旦の二人の様子をお楽しみください。
「初詣に行きましょう、秋斗さん!」
いきなり扉がノックされたかと思うと、開けるが早いかこの第一声。背後に「バァアアアン」とかいう効果音がつきそうな調子で芒が告げた。
「………また随分と急だね。ちなみに今何時か分かる?」
「あ、はい。午前6時7分ですね」
そう、午前6時。夏ならばまだしも、この季節の6時はまだまだ暗い。そして僕は普段、この時間はまだまだ夢の世界の中だ。つまり、芒にたった今たたき起こされた形になる。
「ほら、早く着替えて顔を洗ってください。初詣ですよ初詣」
「………昼からじゃダメなの? それか明日か」
寝起きの僕は基本的に機嫌が悪い。無理矢理起こされたとあってはなおさらだ。だから、可憐な狐っ娘に対して普段ならば絶対に向けないであろう視線を向けている。が、当の芒はそんなことはどこ吹く風で、再び微睡みに落ちていこうとする僕から布団を剥ぎ取った。なんて無情な。貴様それでも人間かッ‼ あ、人間じゃなかったわ。
「あーもうわかった、わかったから。着替えるから下で待ってて」
「はい! じゃあ朝食のご用意しますね」
ぱたぱたと階段を下りていく尻尾を見送り、寝間着を脱ぎ始める。流石にもう目が覚めて、二度寝しようという気は起こらなかった。
「ふぁ……あー……」
あくびをかみ殺し(きれていない)ながらリビングへ向かうと、既に食卓には朝食が並んでいた。しかし、そのメニューはいつもと些か趣が異なっている。
「あれ、なんか今日は簡単だね?」
こぶし大のおにぎりが二つと、インスタントの味噌汁。いつもならば味噌汁は手作りだし、これに焼き魚か何かが付くはずだ。ひょっとしてさっきの態度に怒っているのだろうか。
「すみません、あまり時間がないもので。さ、早く食べてしまいましょう」
「あぁ、うん。いただきます」
どうやら怒っているわけではなさそうなので一安心だが、いったい何をそんなに急いでいるのだろう。そんなに人気のある神社にでも行くつもりだろうか。
ものの数分で食事が終わり、片付けると時刻は午前6時半。少し休憩を挟んで、芒にせっつかれるように外に出た。
「うぅ、さむ……」
突き刺さるような寒さ。風が髪を撫でるたびに、身体の芯が震えるようだ。ああ、あったかい布団が恋しい……炬燵に潜り込みたい……。
「こっちです、行きましょう?」
しかし、芒は気にも留めない様子でずんずん進んで行く。うーむ、さすが狐。脆弱な人間よりよほど寒さに耐性があると見える。
それにしても、こうして芒が先に立って歩くのは珍しい。というか、初めてなんじゃないだろうか。どういう心境の変化か知らないが、よほど初詣に行きたいらしい。
だんだん寒さにも慣れてきて、二人並んで歩く。いつもはぽつぽつと見える人影も、今は全く影を潜めている。見慣れた街のはずなのに、まるで異世界に二人で迷い込んでしまったかのようだ。
そうして歩を進めるうち、森の中に紅い鳥居が見えてきた。芒の師、銀毛八尾・榊さんの棲む浮舟神社だ。なるほど、師匠に新年の挨拶をしたかったわけか。それならあれだけ張り切っていても納得できる。
と、思いきや。彼女は拝殿を華麗にスルーし、その奥の鎮守の森へ入っていく。
「あれ、榊さんに挨拶しないの?」
「ええまあ、本当はするべきなんですけど……師匠、いつも大晦日はご友人を招いて明け方まで呑んでいらっしゃるので。多分今はお休み中なのではないかと」
「……なるほどね」
浮舟の森は芒の生まれ故郷、らしい。森とは言うがその実態は小山に等しく、かろうじてそれと認識できる程度の道が奥に続いていた。
「え……これ、行くの?」
「? はい、そうですよ」
えー。言うまでもないが僕はどちらかというとインドア派だ。少なくとも元旦から山に登るような趣味はない。しかし、この狐っ娘はお構いなしに行ってしまったので、僕もそのあとを追わざるを得なかった。
「おっ……ととと」
「だ、大丈夫ですか!?」
先述の通り暗い中の山道。しかも慣れない山歩きで、木の根っこ? か何かに蹴躓いてしまった。
「あーだいじょぶだいじょぶ。ちょっと躓いただけだから」
「すみません、わたしがちゃんと見ていなくて…… あ、そうだ」
何を思ったか芒は唐突に僕の左手を掴むと、形の良い白い指をしっかりと絡めてきた。少し冷えた、柔らかい人肌の感触に思わず心臓が跳ねる。
「す、芒……?」
「こうすれば大丈夫ですよ」
「また転びそうになったら、わたしが助けてあげますから」
そう言った彼女の表情は闇に紛れて見えなかったが、その声色からして、いつものようにはにかみながら微笑んでいるのだろう。
芒にエスコートされながら山道を進むこと10分ほど。空がだいぶん白み始めた頃、幸いもう躓くこともなく辿り着いた先は、ちょっとした広場だった。一軒家が建つくらいの土地の真ん中に、木製の鳥居と小さなお社が佇んでいる。傍にあった看板を見ると、かすれた文字で『桐壺大明神』とあった。
「はぁ、ふぅ……こんなところにも神社があったんだ」
「ええ、わたしも一度しか訪れたことはないんですけどね。幼い頃、師匠に連れられて来たのを覚えていて……まだあって良かったです。さ、お参りしましょう」
そうだった。このプチ登山の目的は初詣だったんだ。
お社には小さいながらも鐘と賽銭箱が設置されており、僕たちは二人でお賽銭を投げ込んだ。二礼、二拍手、一礼。今年もまったりと良い年になりますように。あと、芒がこのあとモフらせてくれますように。
「秋斗さん、こっちです、こっち」
狐の手招きに誘われて行ってみると、そこには木製のベンチが設置されていた。少し休憩ということだろうか。時刻は7時15分、そろそろ小腹が空いてきた。
「もうすぐですよ♪」
もうすぐって、何が? と思いつつもベンチに腰を下ろしていると、東の空が紅く色づき始めた。みるみるうちに紅い光が伸びていき、薄雲を絶妙な色合いに染める。
「これは………」
「わぁ……!」
夜を塗り替えるかのように紅色は徐々に広がり、金色に変わっていく。そして数分後、ついに「それ」はその威容を現す―――
「――――ぁ」
その瞬間、世界に光が満ちた。眩い清輝を浴びて、眼下の街が、木々が、そして空が黄金に煌めいているようだ。僕自身すらも、身体の内側から静かな力が湧いて来るような感覚を覚える。
俗に「初日の出」と謂われる新年最初のご来光、あまりにも神々しい太陽の顕現である。
「やっぱり綺麗ですね…… わたし、秋斗さんにどうしてもこの光景が見せたくて。どうでしょう、お気に召しましたか?」
「…………………」
そう言って微笑みかける狐娘の黒毛もまた、金糸の輝きを纏っていた。時間すら止まった様な一瞬。思わず言葉も忘れて見蕩れてしまう。視界の端で、光焔の五尾がゆらゆら揺れた。
……ああ。今年は、最高の一年になりそうだ。
ちなみにこの話は【前編】として書いており、私の頭の中には【後編】が存在します。今のところ近日中に公開予定ですが、時間及び私のやる気の都合で予告なく中止する場合もございますので、悪しからず。
「そんなことより本編はよ」という方、そういうことですのでもうしばらくお待ちいただけますでしょうか。
そういえば、狐は厳寒期に発情するらしいですね……(ぼそっ)




