?日目 狐と僕と大晦日
今回は特別篇というわけで、大晦日の秋斗と芒の様子を覗いてみましょう
※あくまで「特別篇」なので、本編と時系列は関係ありませんし、パラレル的な物語と考えていただいて結構です。
まだ本編に登場していないキャラが出ます。本編に登場した際、一部設定が異なる可能性がありますが、それもパラレル的な物語と(以下略
それでは、まったりお楽しみください♪
「もう大晦日、かぁ……」
大掃除を経て小奇麗になった居間の真ん中、冬季の覇者・こたつ様に嵌ってみかんを剥きながら、ぽつりと呟いてみる。
「早いものですねぇ……」
応える声は、おこたの向かいに座る黒髪の少女。色々あって家族の一員となった狐の妖だ。名は“芒”という。
「早いものっていうけどさ、去年の今頃何してたかって意外と覚えてなくない?」
みかんの一房を芒の口に押し込みながら問う。とはいえ、この問い自体に何か大きな意味があるわけではない。ただ会話を続けるための質問だ。
「あむっ……そうですか? わたしは覚えてますよ。師匠とお蕎麦を食べながら一年を振り返ってました」
「まあ、毎年同じように過ごしてるから印象に残ってないのかもねー」
芒は今年の秋頃まで近所にある神社の鎮守の森に“師匠”と呼ばれる狐と暮らしていたのだった。彼女みたいに環境が急に変わったりすれば、覚えているものなのかもしれない。
しかし、一年を振り返る、か。たまにはそんな機会があってもいいかもしれない。
「色々あったねぇ……でもやっぱり一番の思い出は、芒が来たことかな」
「ふふ、わたしもです。それこそ去年の今頃は、こんなことになるなんて思いもしませんでした」
「そうだね。まあ僕は念願叶って、と言うやつだけど」
そして訪れる沈黙。しかしそれは、決して気まずい沈黙ではない。大晦日の夜特有の、心地良く弛緩した空気が漂っている。
「――お蕎麦、できたよー」
そんな静寂を破って入って来たのは、湯気の立つどんぶりを持った女性。僕、綴樹秋斗の母だ。
「お、待ってました」
「ありがとうございます。あ、お運びしますよ」
炬燵の天板に丼が載せられた瞬間、部屋中に出汁の匂いが立ち込める。我が家の年越し蕎麦は金色のお揚げが眩しいきつね蕎麦だ。そのせいか芒の五本の尻尾がぱたぱたと忙しない。……くそっ、モフりたい……! 目の前でこんなの見せられてモフらずにいられるか! いやダメだ、今は母さんがいる、我慢するんだ。鎮まれ俺の荒ぶる両腕……!
そうこうしているうちに二人とも腰を下ろし、尻尾をモフる機会が失われた。……くそう。
「「「いただきます」」」
三人揃って合掌。随分と久しぶりに見る光景だ。
母さんは一見してぽやぽやしているようだが、これでやり手のキャリアウーマンなのだ。しょっちゅうあちこちに出張に出掛けるため、こうして家で食卓を囲むことは珍しい。
ただ一つ残念なのは……
「父さんも帰れたら良かったのにねぇ。今何処にいるんだっけ?」
「仕方ないよー、雪文くんは忙しいから。先月届いた手紙だと、マケドニアの方にいるんだったかなー?」
僕の父は考古学者だ。権威ある研究チームに入って、世界中を飛び回って遺跡を調べているらしい。今頃はイキイキと神殿を探検していることだろう。
「ユキフミさん、とおっしゃるのですか、秋斗さんのお父様は」
「ああ、そういえば芒ちゃんは雪文くんに会ったことはなかったねー。まあすぐに気に入られると思うよー」
「まあ父さんも大概好き者だからね。妖怪とか大好きなんだ。会ったら色々質問攻めされるかもね」
「そ、そうなのですか……」
しばらく三人無言で蕎麦をすする。甘めの出汁がお揚げに染みこんで最高だ。口の中でじゅわっと広がるお出汁が何とも言えない。
「そういえば秋斗くーん」
「じゅるる……ん、なに?」
「芒ちゃんとはどこまでいったのー?」
「ぶふッ」
「げふっ――ごほっ! ごほっ!」
二人同時に咳き込む。い、いきなりなんてことを聞くんだ。酔っぱらった親戚のおじさんじゃないんだから。
「あ、あのねぇ母さん? 僕は芒とはそういうつもりはないから」
「そ、そうですよ! まだわたしたちには早いですっ!」
ん? 早い? まあ少し気になるがきっと芒も混乱しているのだろう。
「んー? いや、芒ちゃんを連れてどこか遠くまで行ったりしたことあるのかなーって思ったんだけど……なに想像したの? ねぇねぇ、なに考えたの、二人ともー?」
むぐぐ。してやられた。この人の場合天然でやってるのかわざと勘違いさせたのか分からないから恐ろしい。
* * *
「ふいー……」
お風呂から上がって、自分の部屋で一息つく。あ、もちろん風呂場を開けたら入浴中の芒と遭遇……なんてお決まりのラッキースケベは発生しなかった(逆もまた然り)。期待した奴、残念だったな! 言い夢見ろよ!
「おー……良い夜だ」
火照った身体を冷やそうと窓を開けると、澄み渡った空に半月が浮かんでいた。朧月夜というのだろうか、薄い雲のフィルターを通して柔らかな明かりを放っている。
『秋斗さん? 今よろしいですか?』
しばらくぼーっと空を眺めていると、ドアがノックされて黒髪狐っ娘が入ってきた。
「お邪魔します……む、なんだか寒いですね」
「ああごめん、湯上りなもので。今閉めるよ」
窓を閉めて椅子に座り、芒にベッドを勧める。
「で、どうしたのさ。もう夜中だよ?」
ちらりと時計を見やると、時刻は二三時五五分。もう少しで除夜の鐘が街に響く頃だ。
「いえ、何、というわけではないんですが、なんとなく寝る気になれなくて……わたしと一緒に年越し、しませんか?」
「ああ、いいよ」
僕もベッドに移動し、二人並んで座る。恋人のように密着することはなく、かといって他人ではありえない近さで。それが僕たちの距離感なのだ。それがとても心地良く感じる。
本当に良い相手とは、沈黙が心地良く感じる相手だと聞いたことがある。果たして、芒も同じように感じてくれているのかな……?
ちら、と傍らを盗み見ると、丁度視線が交差した。
「………? ふふっ」
「…………ふっ」
何故だか、自然と笑みが零れだした。きっと、これが答えなんだろう。
―――――ごーん―――――ごーん―――――ごーん―――――
「………あ」
時計の針は、二本揃って真上を向いていた。
「新年、明けましておめでとうございます、秋斗さん」
「うん、おめでとう……芒」
ところで、みなさん初詣ってどのくらいの時間に行かれるんですかね?
日付が変わると同時に参拝する人とか、元旦の昼頃行く人とか色々ですよね。
本来のやり方とかあるんですかね? 私は夜明け前に行こうと思ってます。
あ、みなさん、良いお年を~!




