十六日目 案ずるより一見に如かず
誰か私に暇な時間を売ってください。言い値で買います。
未読の本が溜まっていくんです……!
午前の授業が終わり、昼休憩の時間になった。友達同士で集まって弁当を広げだす者、購買へパンを買いに走る者、学食へ向かう者、etc……
そんなクラスメイトの多分に漏れず、春仁も自らの弁当を持って僕の席へとやってきた。
「秋斗―、飯にしようぜ、飯」
「ああごめん春仁、今日はちょっと先約があるんだ。先に食べててよ」
「先約だと?」
いそいそと机上を片付ける僕に、露骨に眉を顰める春仁。
「職員室か? それとも生徒指導室か? それなら早く行った方が良いぞ」
「なんでそうなるんだよ! お前は僕をどう思ってるのさ!?」
自分を清廉潔白だとまでは思わないが、昼休みに呼び出しを食らうような真似はしていない、はずだ。
「うちのクラスに久城恵夏さんっているだろ? ほら、風紀委員の。あの人に呼び出されたんだけど、何の用だと思う?」
「ほー、そりゃまた珍しいな。何か心当たりはないのか? 夜に校舎の窓ガラスを壊して回ったとか、盗んだバイクで走りだしたとか」
「うん、お前が僕を誰と勘違いしてるかは知らないけど、あてにならないのはよく分かったよ」
残念ながら僕はこの支配から卒業したいとは思っていない。というか、それこそ風紀委員より生徒指導室に呼ばれるだろう。
「じゃあちょっと行ってくるよ」
「おう。お国のために花と散って来い」
帽子を振る仕草をする春仁を後で殴ろうと決意し、教室を出る。久城さんの姿は見えなかったから、既に行ってしまったのかもしれない。淑女を待たせるのは日本男児の恥だ、僕も気持ち急ぎ足で待ち合わせ場所へ向かった。
それにしても、僕が女子から呼び出しを受けるとは一体どういう状況か。着いた瞬間に囲まれ「ちょっとジャンプしてみ?」とか言われるんだろうか。それとも、いきなり眠らされて黒い服のお兄さんたちに引き渡されるとか? うわ、その後どうなるんだろ。解体されて裏ルートで取引されるのかな。それとも目覚めたら手術台の上で、バッタの遺伝子を組み込まれて日夜ミュータントと戦う羽目になるとか……うへぇ、食事前に考えることじゃなかった。食欲失せそう。
などと益体もない妄想をしているうちに、目の前に件の階段が現れた。しかし、呼び出した当人である久城さんの姿が見当たらない。まったく、人を呼びつけておいて遅れるなんて。近ごろの若いモンは時間にルーズでいけないね。
「……あ。ごめん、ちょっと先生に頼まれちゃって……待ったかしら?」
所在なく階段に腰掛けていると、待ち人がやってきた。小走りの歩調に合わせてぴょこぴょこ動くポニーテールが微笑ましい。よーし、その尻尾に免じて許してあげよう。
「いやいや、僕も今着いたばかりだから」
「そう? なら良かった……」
まあ座りなよ、と僕が横にずれると、彼女は意外にも素直に隣に腰を下ろした。かと思うと、手に持っていたハンドバッグから包みを取り出し、膝の上で広げ始める。現れた物は――
「弁当? え、ひょっとしていつもここで食べてるの?」
「そんなわけないでしょ、今日は特別なの。勝手に友達いない人みたいに言わないでよね。 って、あなたこそお昼は?」
「あー、今日は購買で何か買う予定だったんだけど、先に用事を済ませようかと思って……」
あれ、もしかして「一緒に食べよう」的なお誘いだったのかな。それならそうと言ってくれれば、先に買って来たのに。
……しかし、どうしてこんなことを?
本人曰く友達はいるそうだから、その彼女ないし彼が休みで、誰でもいいから一種に食べたかった、とか? いや、でもそれだとわざわざこんなところまで呼び出す理由が分からない。僕個人に用事があると考えた方が自然だろう。仲の良い友達をさし置いて、ろくに会話もしたことないクラスメイトのために昼休みを使うだけの事情とは一体――?
――ぐるるるる~~
「…………………っ」
「……………………………」
不意に響く間の抜けた音。うん、僕の消化器官は今日も元気に職務を全うしているようだね。それにしても、まさか僕が我が家の腹ペコ狐っ娘のように人前でお腹を鳴らす羽目になろうとは。
「あの……よかったら、食べる?」
「!」
そこへ差し出された一筋の光明――もとい、一つの握り飯。その元を辿っていくと笑いをかみ殺したような表情の久城さんが。
「え、いいの?」
「うん……って、しっかり握り込んで言うことでもないでしょ。ダメって言っても返す気ないじゃないの」
おっと、遠慮を欲求が上回っていたようだ。しかし、くれるというなら有難く頂こう。いただきまーす。
お、明太子。ごはんも程よい塩加減が絶品でございます。空腹は最高の料理人とか言うけど、それを差し引いても美味しいおにぎりだった。
代わりに食後の眠気と倦怠感を叩き売りしますから




