十五日目 陽光に憩う
街や公園の木々がすっかり丸裸になってしまいました。でもそんな姿もまた趣がありますね
芒
「さて、と」
玄関口で秋斗さんを見送ったわたしは、伸びを一つして気持ちを切り替えます。秋斗さんは帰ってくるのはだいたい17時頃と言ってましたから、9時間ほど時間があります。さあ、どうやって過ごしましょうか。
「……確か、秋斗さんの本は勝手に読んでいいんでしたっけ」
わたしは秋斗さんの部屋に向かいました。ベッドと机、それから本棚があるだけの飾り気のない空間。ですが決して無機質ではなく、どこか温かみのある生活感が漂っています。
………そういえば、あの夜わたしが飛ばされたのもこの部屋でしたっけ。あの時は夜であまり部屋の様子は分かりませんでしたが。でも、どうして裸で飛ばされたのでしょう? 師匠なら服を着たまま転送することも可能なはずなのに………
「あれ。………裸で……ベッドに………――!?」
つまり、あの夜秋斗さんはわたしが裸で寝ていたベッドで一夜を過ごした、ということになるのでは…!
むぅ、これはいけません。なんだか顔が熱くなってきました。平常心、平常心が大切です……! 私は頭をぶんぶん振って雑念を振り払うと、改めて部屋を見渡します。
壁の一画を占める本棚には、一〇〇冊以上はあろうかという蔵書が大きさごとに理路整然と並んでいました。秋斗さん、けっこう几帳面なんですね。
まだ自分の好みもよく分かっていないわたしは、なんとなく目に付いた一冊を引っ張り出しました。表紙に書かれた題名は色褪せて読むことが出来ません。紙の質感からして、けっこう古い本のようです。ぱらぱらページをめくった瞬間、視界を埋め尽くす活字、活字、活字。むむ、これはなかなか読みごたえがありそうです。
わたしはその本を抱えてベッドに腰を下ろすと、一面に踊る明朝体を追い始めました。
* * *
秋斗
私立白檀高等学校。僕たちが通う学校の名だ。進学校と銘打っておきながらそこそこの就職率を誇り、「制服が可愛い」という評判も相まって毎年それなりの数の生徒が入ってくる。文化と伝統を重んじつつも自由な校風が特色で、その分かりやすい例は部活動だ。運動部・文化部合わせて数十種類の部活・同好会がひしめき合っており、更に毎年のように増えたり減ったりしているという。ちなみにこの僕は、学校創立当初から存在する由緒正しき部、帰宅部に所属している(人はそれを無所属とも言う)。
春仁と雑談しながら教室に入り、鞄を下ろすと僕はおもむろに読書を始めた。いつもなら机に突っ伏して休眠している時間だが、今朝はなんだかそういう気分ではなかったのだ。読みかけの本の続きが気になっていたというのもある。
「ね、ねぇ」
開け放たれた窓からは、柔らかい日差しと共にそよ風がカーテンを優しく揺らしている。うん、絶好の読書日和だ。
「ねぇってば、ちょっと」
うーむ、やっぱりこのキャラは可愛いな。三人目のヒロインという立ち位置的に主人公と結ばれそうにはないが、人気投票ではヒロイン2を抑えて二位の座を勝ち取っている。今後の活躍に期待大、といったところか。
「この……っ、返事くらいしなさいよ、綴樹秋斗!」
「えっ僕だったの?」
さっきから誰かに呼びかける声が聞こえると思ったら、どうやら僕だったらしい。刺々しい声の主に顔を向けると、そこに立っていたのは一人の女子生徒。
赤みの差した飴色のポニーテールが特徴的で、気の強そうな釣り目だがそれに見合う整った顔立ちをしている。彼女の名は久城恵夏さん。同じクラスの人だ。確か風紀委員を務めていて、教室や廊下でだらしない生徒を注意している姿を度々見かけたことがある。
「あなた以外いないでしょ! なんで一瞥もくれずに本に没頭してるのよっ!」
「いや、寧ろ没頭してたから一瞥もくれなかったって言うか……それで、僕に何の用かな、久城恵夏さん」
本に栞を挟んで久城さんに視線を向ける。彼女は何やら一大決心でもするかのように深呼吸をすると、ビシィッと人差し指を突き付けて一言。
「あ、あなたに話があるから……昼休みに屋上のところの階段に来てっ! あ、もちろん一人でねっ!」
「は、はぁ」
久城恵夏さんはそれだけ言うと、呆然とする僕を尻目に自分の席に戻ってしまった。なんだっていうんだ。追いかけて詳細を訪ねようとも思ったが、丁度そのタイミングで初老の担任教師が入ってきたので断念する。
「チャイム鳴るぞー席に着けお前らー」
「はーい」
「おはよーございまーす」
「はいおはよー」
それに、わざわざ呼び出すということは今行ってもそれ以上は話してくれないだろう。つまり、行けば分かる。僕は大人しく昼まで待つことにして、再び本に意識を集中した。
マフラー、手袋、セーター、コート、黒タイツ……冬服が可愛いので冬は好きです




