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Fox Tail ‼ ー綴樹秋斗の他愛のない日常ー  作者: 三原色みたらし団子
第一幕
15/38

十四日目 口は災いの元、されど沈黙は禁なり

 お待たせしました! いよいよ第二章の開幕です! と言っても特別何かがあるわけでもないんですけどね。今まで通り、温くて甘い日常が続くだけです

 枕元でけたたましくベルが鳴っている。

 心地良い微睡みを打ち砕かれた僕は、少し不機嫌になりながらも手探りで目覚ましを黙らせた。のそのそ起き上がり、軽く柔軟体操をして体を解す。

 昨日は朝から、一日中歩き回って芒に街を案内した。そのせいで足に疲れが溜まっているが、そんなことはお構いなしに月曜日は訪れるもので、僕はその非情さにぼやきながら制服に着替える。ほんとに、なんで月曜日って来るんだろうな。一回ぐらいサボってくれてもいいのに。


「あ、秋斗さん、おはようございます! あの、さっきの音は何事ですか?」


 リビングに行くと芒は既に起きていて、朝食の準備をしてくれていた。頼んだわけでもないのにすっかり板についてしまって、感謝と同時になんだか申し訳なくなってくる。


「おはよう。さっきのっていうと……ああ、目覚ましの事か。あれは決まった時間に目を覚ますためのものだよ。うるさくしてごめんね」

「いえ、秋斗さんに何かあったのかと思いまして。何事も無くて良かったです。

でもそういうことなら、良ければわたしが起こしに行きましょうか?」

「え、いやそんな、悪いよ。朝ごはんまで作ってもらってるのに」


 そこまでしてもらったら最早どちらが同居人かわからなくなってしまう。使用人というくくりならそれもありかも知れないが。

 と思ったのだが、芒は何やら言いたいことがあるらしい。


「……じゃあ、せめてあの音はどうにかなりませんか? 狐耳に響いて……その、びっくりしてしまいます」

「あー……そっか、そうだよなぁ」


 意識していなかったが、狐の耳は人間よりも段違いに良い。長年使っている僕はもう慣れたものだが、いきなりあれが鳴り響いたら迷惑この上ないだろう。


「置いてもらっている身でこんなことを言うのは無遠慮かもしれませんが……」

「いや、それは気付かなかった僕が悪い、ごめん。でもアラーム音は変えられないし……それじゃ、悪いけど明日から起こしてもらえるかな? 僕もなるべく起きれるように頑張るから」

「ありがとうございます。任せてください! ばっちり起こしちゃいますよ」

「うん、よろしく」



 二人向かい合って食卓に着く。この光景も、四日目になれば慣れたものだ。


「昨日も言ったけど、僕は今日、ていうか金曜日まで学校があるから、夕方まで帰ってこれないんだ。だからその間の留守番を頼みたい」

「はい」

「と言っても、そうたいしたことをする必要はないよ。誰か来ても無視していいし、電話が鳴ったら時間と相手を記録するくらいで。部屋にある本は勝手に読んでくれていいから」


 人間の勉強にもなるからね、と付け足すと、芒は表情を引き締めて頷いた。まあ、そんなに気負わなくても僕の部屋には高尚な哲学書なんてものは置いてないんだけどね。本棚に並んでいるのはラノベと推理小説、あとは雑誌くらいなものだ。


「それじゃ、留守を頼んだよ」

「はい、行ってらっしゃい!」

「うん、行ってきます」


 玄関で手を振る芒の頭を軽く撫で、扉を閉める。空を仰ぐと、透き通る蒼穹をもこもこした雲がのんびりと流れていた。うーん、今日もいい天気だ。わくわくしてくるね。


「ふわぁ……なんか眠くなってくるなぁ」


 いかんいかん、週の初めなんだ。もっとしゃんとしないと、天国のばっちゃに怒られる。いや、僕の祖母は父母方ともまだ健在だけど。

 一つ深呼吸をすると、いつもの通学路を歩き出す。頭上では電線で雀たちが井戸端会議に花を咲かせていた。見慣れた風景、歩き慣れた道。そして――


「よう、秋斗。なんか機嫌良さそうだな?」


 聞き慣れた声。こんな声優に匹敵するハスキーなイケボの持ち主には、一人しか心当たりはない。


「おはようハルヒト。良い朝だね」


 彼は織部春仁おりべはるひと。僕のクラスメイトで、(数少ない)友達と呼べる人物だ。

 ツンツン跳ねた短髪に猛禽類(もうきんるい)を思わせる目つきが特徴で、柔道でもやってそうなガタイの良い体つきをしていながら華道部に所属している変わり者。しかし、なんでもそのセンスは部長も一目置くほどだというから人は見かけによらない。


「で、僕の期限が過ぎてるって? 失礼だな、僕はまだまだぴっちぴちの一六歳だぜ?」

「その言い回しが既に期限切れだろうよ……って、俺が言ってるのはその期限じゃなくてだな。つまりなんだ、今朝のお前はなんか嬉しそうに見えるってことだ。休み中良い事でもあったか?」


 あった。あったとも。なにしろ念願叶って狐っ娘と同居しているんだから。しかし、それをどう説明したものか。まさか「聞いてくれよ兄弟。僕の家に妖狐(美少女)が転がり込んできたんだ!」なんて言えるわけがない。


「え、僕そんなに分かりやすいかな?」

「おう。普段のお前は二限終わりくらいまで不機嫌そうな顔してるのに、今朝は朝から冗談まで言えるくらいだ。リトマス試験紙レベルで分かりやすいぞ」

「そこまで!?」


 そうか、僕は普段不機嫌そうに見えるのか。ただ眠気がとれず半眼になっているだけなんだが。


「それで、何があったんだ? 教えろよ」

「んー、どうしよっかなー……」


 果たして、言ってしまってもいいのだろうか。

榊さんからは特に口止めはされなかったが、言い振らすことでもない気がする。妖の存在が明るみに出てしまったりなんかすると、このご時世では一体どうなることやら想像もしたくない。


「……悪い、今は言えないんだ。まあそのうち教えられると思うから」

「ふぅん? まあいいけどな。どうせ大したことでもないんだろうし」

「えっひどくない!?」


 というか、冷静に考えればいきなり「狐っ娘と同居することになったんだ!」とか言い出しても信じられるわけがない。それどころかお医者に案内される羽目になるだろう。やっぱり下手なことは言えないね。


 最近めっきり寒くなりましたねぇ。こんな日は甘酒とか葛湯とか恋しくなりますよね。皆さんも温かくしてお過ごしくださいね

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