2月14日
割と真面目に恋愛ものを書くのって初めてだから(その場ののりだけで書いた短編を除く)ちょっと緊張。
2月14日。とある学校の昼休みにて。
「どうしよう、これ」
私、蓮佛聖はそうつぶやくと自分の鞄の中にあるものを確認する。ピンクの包装紙に金色のリボンでかわいくラッピングされた箱。中身はもちろんバレンタインである今日のために作ったチョコである。
「聖ちゃんどうしたの?」
鞄を開けたまましばし固まっていた私の横から声がかかる。
「ううん。何でもないよ」
そう言って私はあわてて今日の昼食の入ったお弁当箱とタッパーを取り出し、声の主の方を向いた。彼女の名前は日吉シロナ。私の一番の友達だ。
「そう?何でもないようには見えなかったけど……」
「ホントに何でもないよ。これが教科書の陰に隠れてて家に忘れちゃったのかと思ってちょっと焦っただけだから」
そう言って私はお弁当箱と一緒に取り出したタッパーを持ち上げる。中身はやはりチョコである。ただしこれはあくまで友達に配るために持ってきたものだ。いわゆる義理チョコや友チョコと呼ばれるものである。
「わー。それはホントに一大事だったよぉ。聖ちゃんのチョコはとってもおいしいからすごーく楽しみだったもん」
そう言ってシロナは本当にうれしそうに満面の笑みを浮かべる。……この笑顔反則だ。
「別に私のチョコなんて普通よ」
少し照れてしまった私はついついそっけなく返してしまう。
「えぇー、そんなことないよ。聖ちゃんのチョコは特別だよぉ。私、今日は聖ちゃんのチョコのためだけに学校に来たといっても過言じゃないんだから」
「……それはさすがに大袈裟よ。さあ、チョコの前にまずはお弁当を食べてしまいましょう」
「ふふっ。はーい」
そう言って私たちはお弁当を食べ始めた。しかしお弁当食べながらも思考は鞄の中に入っているもう一つのチョコのこと考えてしまう。
―ホントにどうしよう、あれ。つい用意しちゃったけど渡したら絶対困っちゃうよね……シロナ。
そう、現在私蓮佛聖を悩ませている鞄の中のもう一つのチョコ。それを渡したい相手とは目の前の少女、私の一番の友達にして一番好きな人、日吉シロナなのである。
―結局何もできないままここまできてしまった。
現在放課前のホームルーム。先生が今日の連絡事項についてしゃべっている。
私は今日一日中シロナにチョコを渡すかどうか迷っていた。しかし結局一日かけても答えは出ず、もうすぐ今日の学校も終わろうとしていた。
「―それと日吉さんは世界史の有村先生が呼んでいたのでこの後職員室に来てください」
そう締めくくられた先生の言葉の後「起立。礼」という号令がかかる。これで今日も残すところ帰りの準備をして帰るだけだ。
「じゃあ私ちょっと職員室に行ってくるね」
そう声をかけてきたのはすでに帰りの準備が終わっているらしいシロナである。
「うん。じゃあ私は戻ってくるまで教室で待ってるから」
「ありがと。でもあんまり遅かったら先に帰ってもいいよ」
「大丈夫。時間がかかりそうだったら昨日図書室で借りた本でも読んで待ってるから」
「そっか。じゃあいってきます!」
「えっと、いってらっしゃい?」
そんな会話の後、シロナは教室を出て行った。そうして私は帰り支度を再開させた。
しかし再開してすぐに目についたのは鞄の中の例のチョコである。
「どうにかして渡したいところではあるんだけどね……」
そうつぶやいた時、ふと名案を思い付いた。
―そうだ、何も直接渡す必要ないじゃない。
そう思い至ったらすぐに行動に移した。
目標はシロナが学校に持ってきている手提げかばん。
「ただいまー」
「おかえり」
シロナは聖がかばんにチョコを入れた後しばらくしたら戻ってきた。どうやら提出した課題に名前を書き忘れていたらしくその確認のために呼ばれたようだ。
「じゃあ用も終わったし帰ろうか聖ちゃん」
「うん」
そうして私たちは帰宅するためにそれぞれ自分の荷物を持った。シロナは私がかばんに入れたチョコには……気付いてないみたいだ。
―シロナ、驚くかな?誰からだろうとか悩ませちゃうかな?
チョコを見つけた時のシロナのことを想像すると少しだけ楽しくなる。
あのチョコに差出人の名前は書かなかった。シロナのかばんにチョコを入れたのは放課後になってすぐのことだ。あの時間はまだまだたくさんの人が残っていたし、他のクラスの人も何人かいた。だからきっと誰が入れたのか特定できないはず。
結局私にはシロナのことを好きだって言う勇気はなかった。言ったが最後私たちの関係は絶対に何かしらの変化を迎える。それが私はとても怖かった。
―気持ちを伝えたいのに伝えたくない。我ながら矛盾してるな。
そんな矛盾した思いの結果が差出人不明のチョコという形になった。
―とりあえず私の思いだけは届けられたし。それが誰からのものかは……今は知られなくてもいい。
これはただ私の想いを届けたかっただけ。あなたのことを好きな人がいるということを知ってほしかった。ただそれだけ。
「どうしたの聖ちゃん。なんだか難しい顔して?」
「難しい顔?」
「なんというかね、うれしいそうなんだけど悲しそうでもあって、なんか満足してそうなんだけどやっぱり満足してないみたいな。そんななんとも形容しがたい感じ?」
「ふふっ、なにそれ」
そんな会話をしながら私たちは歩き出す。
こうして今年の2月14日は過ぎていったのだった。
後編『3月14日』に続きます。
大体昼ごろ投稿します。