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キヲク  作者: けせらせら
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エピローグ

   エピローグ


 どう訊けばいいのか迷いながら、早苗は再び『占いの館』の前に立っていた。

 ジャケットのポケットから、あの『世界』のカードを取り出す。

 昨日、香澄を助けたこのカード。早苗はあれが二葉のやったことだと確信していた。だが、こんな非現実的なことをどう訊けばいいのだろう。

 迷いながらも『占いの館』に近づいていく。

 今日は美麗の姿が見えない。すでに客を見つけて仕事をしているのかもしれない。

 早苗はなかに入るとゆっくりと二葉のいる部屋に向かって行った。

 ドアが開いている。覗き込むといつものように黒いマントを被った二葉の姿が見えた。

「いらっしゃい」

 二葉は顔を上げ、早苗に微笑みかけた。「そろそろ来る頃だとは思ってたけどね」

「……占ったの?」

 早苗はドアを閉めると二葉の前に座った。

「占わなくても早苗の行動はわかるよ」

「二葉が助けてくれたのね」

 早苗は『世界』のカードを二葉の前に差し出した。

「ボクにそんな力はないよ。ただ、早苗の願いが力になるようにお呪いをかけただけ」

「本当だったのね。本当に『魔女』だったのね」

「そう言ったじゃないか」

「だからって、そんな簡単に信じられるはずないじゃないの」

「そうかもしれないね」

 二葉は素直に頷いた。いつものようにタロットカードを手のなかで遊ばせている。

「説明して欲しいんだけど……」

「何を?」

「決まってるでしょ。今回の事件のことよ」

「ボクに説明出来ることなんてないよ」

「嘘よ。香澄はなぜあんなことになったの? やっぱりあのネックレスのせいなの? 二葉、知ってるんでしょ?」

 その真剣な口調に二葉はわずかに驚いたような目で早苗を見た。そして、ゆっくりと口を開いた。

「ボクが『魔女』の末裔という話と同じように、信じられる話じゃないよ」

 二葉は早苗を試すように言った。

「大丈夫。信じるわ……二葉が『魔女』であることも信じるし……」

「ある程度のことは予想してるんだろ?」

 二葉は早苗の顔をちらりと見た。

「それは……」

 早苗はどう答えていいか迷った。確かに二葉が言うようにある程度のことは想像出来ている。だが、それはあまりに現実的な話とはかけ離れていて、早苗にはそれが真実と信じきることが出来ない。それを信じるためにも二葉からの説明が欲しかった。

 そんな早苗の表情を伺いながら二葉は口を開いた。

「ボクが知ってるのはあのネックレスから読んだ記憶だけだよ。事件のことならたぶん警察のほうが知ってる。秋彦さんは何て?」

「新山響子さんを殺したのは松野真一だって。新山響子さんの同僚である川口玲子から彼女を殺すことを依頼されたらしいわ。松野の口座に川口玲子からお金が振り込まれてた記録が見つかったらしいわ」

「うん、それで?」

「川口玲子と松野とは中学校の同級生で、しかも、彼女はもともと熊谷幸人の愛人だったみたい。熊谷幸人は新山響子さんを使って会社の金を横領させてた。新山響子さんはそれに耐えられなくなって、全てを会社に話そうとして、それで殺されたみたい。それとね、彼女、一年前には熊谷の子供を妊娠してたこともわかった」

「それが事件の全てってわけだ」

 まるで初めて知ったかのように二葉は言った。

「それじゃやっぱりあれは新山響子さんの呪いだってこと? でも、なんかうまくいきすぎてるわ」

「どういう意味?」

「だって新山響子さんの呪いをあの指輪やネックレスが受け継いだってことでしょ? でも、それはたまたま松野真一がそれを盗んだからよね。もし、盗まなければ、あんなことにはならなかったじゃないの。恋人の太田沙織にプレゼントなんてしなければ、殺されることもなかったし、それに、香澄だってあのアンティークショップであのネックレスを手に入れることにもならなかったわ」

「彼が盗んだのはたまたまなんかじゃないよ」

 二葉ははっきりと言った。「それは必然な行為だったんだ。新山響子さんが殺された時、その後のことは彼女の意志で決められたんだ」

「何よ、それ……運命だとでもいうつもり?」

「そんなんじゃない。彼女の強い意志が、松野真一をコントロールしたんだ。いや……彼女の意志ではなく、その『物』の意志と言ったほうがいいかもしれない。彼女に大切にされ、彼女の『記憶』を持つ『物』が彼女の復讐をするために動いたんだ」

「そんなのって――」

「信じられない?」

「う……うん」

「『物』には『意志』があり、『記憶』がある。ただ、人間にはそれを受け止め、理解するだけの力がないのさ」

「なんだか……わかんないわ」

「いいさ。それで彼女はどうなったの?」

「今、病院で検査を受けてるわ。一連の事件を香澄が起こしたことは否定出来ないけど、まるで事件の時の記憶がないってことで責任能力は問われないかもしれないってお兄ちゃんが言ってたわ」

「彼女が一番の被害者だろうしね」

「うん。ところで熊谷幸人と川口玲子はどこへ行ったの?」

 これは秋彦から聞いた話だが、殺された澤村義文の部屋からは川口玲子の指紋が発見され、昨夜になって意識を取り戻した住川日名子は自分を階段から突き落とした犯人の顔は見ていないと答え、突然、近所の主婦が川口玲子を目撃したと証言した。このことから警察は川口玲子と熊谷幸人の二人が事件の鍵を握っていると見て、指名手配する方針を固めたそうだ。だが、二人は21日の夜から姿を消し、今朝になって新宿にあるホテルの1室で二人の衣類だけが残されているのが発見された。そして、熊谷の持ち物からは新山響子の部屋のスペアキーも見つかっている。

 全ての状況証拠は二人が一連の犯人であることを示している。だが、早苗はそれがあまりにも出来すぎのような感じがしていた。まるで誰かによって、事件の全てが塗り替えられているかのようだ。

「さあ。ボクはわからないよ」

「二葉が何かしたんじゃないの?」

 早苗は二葉の目を見ながら訊いた。『物』の記憶を読むことが出来る二葉のことだ。人間の記憶くらい簡単に変えられるかもしれない。

「まさか」

「それじゃ、二葉に似た人が事件の被害者のマンションで目撃されてることをどう説明するの?」

「ただの人違いじゃないかな」

 小さく笑いながら二葉は言った。ほんの少しその口元がひきつっている。二葉にはまだ秘密があるのだ。

 ふと昨夜、秋彦が話してくれたことを思い出す。

――俺の大学時代の友人に趣味で『悪魔』や『魔女』について研究している奴がいるんだ。そいつに以前聞いたことなんだが、『魔女』の一族にはまれに男が生まれることがあるらしい。ただ、男であるゆえに一族とは認められず、ある一定の条件を満たすまで旅に出るんだ。その一定の条件っていうのが、『罪を犯した108人の心を食らうこと』なんだそうだ。ま、ただの古い童話の一つで、現実的な話とは違っているけどな。

 ただの古い童話。

 だが、二葉が『魔女』の末裔かどうかは別として、特殊な力を持っているであろうことは、すでに疑うことのない事実として目の前に存在している。

「まだ何か隠してるんでしょ?」

 早苗が追求しようとした時、ドアが開いて美麗が姿を現した。

「また来てたのぉ?」

 むすっとした顔つきで早苗の横に立つ。

「ええ」

「まったくぅ。二葉くんのお仕事の邪魔ばっかりしないでよね」

 そう言いながら二葉に顔を向ける。「ねえ、二葉くぅん。この前直してもらったとこ、イマイチなのよね」

「どれ? 見せてみなよ」

 二葉の言葉に美麗は黒い手袋を外し、右手を差し出した。その右腕を見て早苗は目を丸くした。

 白い艶やかな腕が手首の辺りから、まるで違う褐色の肌に変わっている。

「うーん、この前発注しておいたのが明日にでも届くと思うから、それまで我慢してよ」

 二葉はその手首の辺りを調べながら言った。

(発注? 届く?)

 早苗はますます困惑してその腕の辺りをじっと見入った。

「それってどういうことなの?」

「何がぁ?」

 手袋をはめ直しながら、美麗が聞き返す。

「だって、発注って……」

「私の腕のことよ。私のことを作ってくれたのは北海道に住む職人さんだから」

「作る……?」

「そうよ。何? 知らなかったの? 私、二葉くんに命を吹き込んでもらったのよ」

 それを聞いて、早苗はあの日、秋彦とが言っていたことを思い出した。

――転がってたのは人形の腕だけだったよ

「そんな……」

 早苗は唖然として美麗の顔を見た。二葉の部屋に行った時に見た黒い布で隠されていた人形の顔が頭に浮かぶ。

「なぁに? そんなにびっくりするようなこと? 二葉くんが『魔女』の末裔ってことはあなたも知ってるんじゃないのぉ?」

「それじゃあなたは――」

「あらぁ。鳩が豆鉄砲くらっちゃったような顔しちゃってぇ。面白ぉい」

「美麗、よせよ」

 二葉が声をかける。「おまえ、まだ仕事中だろ。腕はまた家に帰ってから見てやるからさ」

「はぁい」

 美麗はケラケラと笑いながら部屋から出て行った。その後ろ姿を見送った後、早苗は二葉に向き直った。

「二葉!」

「な、何?」

 早苗の声の勢いに驚いたように二葉が身を竦める。

「どうして話してくれなかったの?」

「美麗のこと? いや……話す必要もないかなって思って……でも、『物』にも『記憶』がある一番良い証明じゃないか」

「それはそうだけど……」

 思わずギュッと拳を握る。

(あなたは何者なの? あなたにはどんな力があるの?)

 二葉はその早苗の拳をじっと見つめた。

「殴る?」

 その表情は幼い時のままだ。

(そうよ……二葉は二葉)

 信じよう。ちょっと弱虫でいつも自分の脅しにビクビクしていた小さな二葉。あの頃と何も変わっていない。

「バカね」

 早苗は力を抜くと、静かに微笑んだ。「殴るわけないじゃないの」


      了


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