8・鮎川早苗の章 (4)
結局、二葉は早苗が付き添っている間、目覚めることはなかった。
早苗は仕方なく、病院に二葉を残し自宅に戻ることにした。秋彦からは未だに連絡がない。
午後10時を過ぎた時、早苗の携帯電話が鳴り出した。
――俺だ。
秋彦からだった。
「お兄ちゃん、遅いよ。今日も遅くなるの?」
――それどころじゃなくなったんだ。
秋彦の声が緊張している。
「何があったの?」
――ちょっと事件があったんだ。
「事件って?」
――殺しだ。殺されたのは『澤村義文』。知ってるか?
「誰なの? それ?」
――それを聞いてほっとしたよ。まさかおまえがその男のことまで知っていたらどうしようかと思った。新山響子と同じ会社の男だ。アパートで刺し殺されていたのを、さっき訪ねていった母親が見つけたらしい。
早苗はギクリとした。新山響子と同じ会社ということは、香澄とも同じ会社ということになる。
「犯人は?」
――まだそこまでわからない。ただ、隣に住む大学生が、昨夜、澤村義文が女を連れて帰ってきたところを目撃している。
「……女」
――それともうひとつ。事件は一つじゃないんだ。
「まだ何かあるの?」
――やはり同じ会社に勤める住川日名子とという女性がマンションの階段で倒れているのが見つかった。
「やっぱり殺されたの?」
――いや、死んではいないが、意識は戻らないままだ。誤って転がり落ちたのかどうかははっきりはしてない。ただ、突き落とされた可能性が高いかもしれない。
「どうして?」
――一度4階から踊り場に落ちた形跡があるんだ。だが、実際に彼女が倒れているのが見つかったのは3階だ。転がり落ちたのだとしたら、踊り場まで落ちた後に立ち上がって、もう一度3階まで落ちたことになる。
「そう……」
――それと二葉君のことだが……
「二葉がどうかしたの?」
――彼、どこに行ったか知らないか?
「ええ? 私が帰ってくる時にはまだ病院のベッドで眠っていたわよ」
――さっき、俺のところに連絡があったんだ。どこに行ったのか姿を消してしまったそうだ。
「そんな……」
――おまえのところに連絡があるかもしれないと思ったんだが……自宅に戻ったのかな。もし、連絡があったら教えてくれ。
「わかった。ちゃんと叱っておくわ!」
――頼むよ。今夜は署に泊まりになる。もし、父さんたちに聞かれたら、そう答えておいてくれ。
「うん。ねえ、アルバムは?」
――ああ、そうだったな……明日、持って帰るよ
そう言って秋彦は電話を切った。




