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2-3



 そう言った秋姫の表情が何かを諦めたような笑顔で、窓は思わず立ち上がり、秋姫の左手首を掴んだ。細い腕だった。


「……何、窓くん」


 秋姫が不思議そうに首を傾げた。窓は思わず掴んでいた秋姫の手首を放し、ごめん、と呟く。何に対して謝ったのか、窓にも解らなかった。


「その、椿姫って、日本刀のこと、だよな?」


 窓はどうして良いか判らなくなって秋姫の手首を掴んだ手で、秋姫が抱える刀袋を指差した。秋姫は窓を訝しむ様子もなく、そう、と肯定する。


「窓くんは〝九十九神〟って言葉を知ってるかな」


「つくもがみ?」


 知らないと同義の反応を返す窓に、秋姫はあのね、と説明した。


「物を長く大切に扱ったら魂が宿るって、聞いたことない? 椿姫は九十九神で、表には出てこなかったけれど、妖刀と呼ばれている物なの。

 椿姫は、元々は普通の日本刀だったんだけど、刀を打った人が椿姫と呼ぶ人に恋焦がれて作ったものらしいわ。魔性の女の椿姫との恋が叶わないと知ったその人は、自分の作った刀で自分が恋した相手を斬り殺した……愛を込めて作った刀で、憎悪と悲しみを込めて振るった刃には、この世のものではないものを見る力が備わって、以来、この刀を握った人は多くが発狂してしまったそうよ。それが、妖刀と呼ばれる所以なの」


 強すぎる想いが、物に魂として宿る。窓には何となく、それが有り得ないことだとは思えなかった。強すぎるほどの感情は、窓にも経験がある。それが恋慕でなくとも、思慕ではあったから、そう思うのかもしれない。


「あんたは発狂しなかったんだな」


 窓の言葉に、そうだね、と秋姫は微苦笑して言った。


「私はもうあの時に、少し壊れてしまったのかもしれないからね」


 秋姫の言うあの時が、親を亡くした時だということは、確認しなくても窓にも解った。黙り込む窓には構わず、秋姫は言葉を続けた。


「それに、椿姫は私の想いに呼応してくれたの。あの人は、『適合した』、と言ったわ」


「――あの人?」


 秋姫が先ほど話していた中にも出てきた気がして窓は遮って尋ねた。椿姫を持って現れたのも、秋姫の言う〝あの人〟ではなかっただろうか。


「私のバイト先の店長よ。私の親が殺されたのは変質者ではなくて未解決事件として扱われたから、興味を持って訪ねてきたって言っていたわ。私が親を手にかけた妖に復讐したいと言ったら、覚悟はあるか、と言って椿姫を渡した」


 先ほど秋姫がした九十九神と椿姫のいわくをその人から教わり、それでも妖刀を取る覚悟はあるかと問われ、秋姫は受け取ったと言った。窓は、もしかして、と考えながら秋姫にあることを尋ねる。


「復讐するって気持ちを、椿姫が受け入れたってことなのか?」


 窓の疑問に秋姫は微笑んだ。それを肯定と取って、窓は問いを重ねた。


「俺の気持ちも、もしかして受け入れてもらえるか?」


「それは、判らない」


 ぴしゃりと秋姫が言った。つい今まで微笑んでいた表情も何処へやら、ひんやりとした雰囲気さえ漂わせて秋姫は目を伏せる。何で、と窓が詰め寄る前に秋姫は説明した。


「基本的に今の椿姫の主人は私なの。それに窓くんは、骨女と出会った時も何もしないで見てた。それを椿姫が『強い想いがある』と取るかは判らない」


「だからって……っ!」


 そう言って窓はぐっと歯を噛み締めた。窓には秋姫のように妖怪と戦う術があった訳ではない。あの場で窓が妙な正義感を振りかざして骨女に向かっていったとして、骨女が標的にしていた男性も窓も、無事であった確証は何処にもないのだ。武器も策もなしに妖怪に突っ込むなど、そんなのは無謀すぎると窓は思う。

 だがそうは言わず、窓は納得したように秋姫に、そうだな、と返した。窓の瞬間的に燃え上がった気持ちは音を立てて萎んでいった。


「……ねえ、窓くん」


 窓の様子を見ていた秋姫が、慎重に声をかけた。窓が秋姫を見ると、秋姫が右手で刀袋を握りしめて左腕を伸ばしてくる。窓の肩に手をかけるような仕草だ。そのまま歩幅も詰めて、秋姫の猫のような大きな目が幽かに赤く光りながら窓に近づく。


「……っ、おい」


 窓が制止しようとしたのを逆に制し、秋姫は窓の首の後ろまで手を回した。秋姫のしっぽのようにまとめた髪の毛からふわりと女の子らしい香りがして、窓は一瞬くらくらとよろめきそうになった。


「とれた」


 秋姫の声が思っていたよりも近くで聞こえて、窓は秋姫から慌てて離れて距離を取る。秋姫はそれには気づかなかったように、何か摘んでいるような所作をしていた。窓はそれが気になって秋姫に一歩近づく。


「何だ、それ」


 秋姫は窓を見上げ、摘んだものを少し高く掲げるようにした。窓が目を凝らすと、それは一本の細くて長い髪の毛のようだった。


「髪の毛?」


 窓が呟いた疑問に、そう、と秋姫は答える。


「これ、〝後神〟っていうの」


「うしろがみ? あの、『後ろ髪を引かれる』とかのか?」


 秋姫は頷いた。正確には後神の一部、と付け加える。髪の毛と思しきそれは、ひとりでにうねうねと蠢いている。風に揺れているわけではない、まるで意思を持っているかのようだ。


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