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窓は絞り出すようなか細い声で、少女の疑問に自分が知る限りの答えを口にした。
「……俺はずっと小さい頃、物心ついた頃から、ああいった類は沢山見てる。正直な話、人間と見分けがつかない。流石にあれだけ妖怪然としてくれれば、人じゃないのは判るけど、あんたが人じゃなくて妖怪か幽霊でも、俺には判らない」
人には気味悪がられた。実の親にも気味悪がられた。窓には本当に、人とそうでないものの区別がつかないほどはっきりと見えているのに、他の人はそうではないと知ったのは、物心ついてからだ。それ以前はどうだったのか、窓自身にも判らない。
ふうん、と少女は何でもないことのように言った。
「無自覚なパターンかな。それとも元々の〝目〟が良いか。
……良いな」
「――っ!」
少女の不用意な言葉に、窓はカッとなった。窓がそれで幾度となく苦しんできたかも知らずに、彼女はそう言うのだ。窓がそのせいで孤独でいることも、命を奪われそうになったことも、人を失ったことも、知らずに。
「こんなもの……っ!」
窓は声を殺して叫ぶ。感情が昂りすぎて声にならない部分がほとんどだったが、そう言ってから窓の語尾はしゅるしゅると萎むように勢いをなくした。勢いを失った声で、窓は言葉を紡いだ。
「ないならどんなに良かったか。あんたには、羨ましがられる代物かもしれないけどな、これは、今までも、これから先も、俺をずっと苦しめ続ける……っ」
「――きみには、『これから先』があるんだね」
それなら苦しいかもしれないね、と少女は続ける。少女のあまりに乾いた言葉に、窓は目を見開き、怒りを忘れて少女を見つめた。彼女の言葉と同じく乾いた笑顔が、張り付けられている。
「きみも、何処かで苦しい思いをしてきたんだね。妖に関わる人は、皆そう。そしてそれは、誰にも解らないと思ってる」
窓は目を見開いたまま少女を見つめた。
何故そんな言葉が出るのだろう。それは、窓と同じような苦しみを味わったからこそ出る言葉ではないのだろうか。
窓が見つめる先で、夜風にそよそよと髪やタイ、スカートを揺らしながら少女は笑む。見ていて痛々しくなるほど健気な笑みだった。
「あんたも、誰かを亡くしたのか……?」
「きみも、誰かを亡くしたんだね」
窓が目を伏せると、少女は窓に右手を差し出した。窓が目を上げれば、少女が労るような目で窓を見ていた。
「柊秋姫、れっきとした人間です」
それが自己紹介だと窓が気づくのには数秒を要した。窓は小さく笑うと、秋姫の右手に自らの右手を重ねた。その手は温かく、確かに人間だった。
「獅倉窓、俺だってれっきとした、人間」
秋姫が笑った。それと同時に窓が握った秋姫の掌が少し震える。彼女の手は、思っていたよりも小さく、とても刀を握っているとは思えないほど華奢だった。




