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 窓が声をかけるとセーラー服の少女は窓を一瞥し、驚いたように目を丸くした。赤く見えた瞳は窓の錯覚だったのか、茶色の大きな目が窓を見てあわあわと泳ぐ。


「き、きみ、いつからいたの?」


「いつからって、最初から」


 窓は少女の様子が先ほどとは違うことに驚いた。先ほどの超人じみた少女の行動と、見られていたことにおろおろしている目の前の少女が一致しないほど差があったのだ。


「最初からって、きみ、何をどこまで見たの?」


 少女の問いの意味が解らず、窓は首を傾げる。何と言われても、本当に最初から見ていたのだから、そう伝えるほかない。窓の言葉を聞いて少女は流麗な眉を顰めた。


「きみ、人間、だよね?」


 窓はぽかんと口を開けた。


「でも今の私に見えてるなら、人間だし……」


 セーラー服の少女は窓の返答を待たずに疑問を口に乗せる。少女が仮説を次々と挙げていく中、窓は口を挟めずにいた。そうこうしている間に倒れていた男が呻いた。意識が戻ろうとしている。


「とりあえず、行きましょう」


 セーラー服の少女に促され、窓は少女について行った。夜の道を窓のスニーカーと少女のローファーが駆ける。とある公園まできて少女が立ち止まったので窓も立ち止まり、少女を改めてまじまじと見た。

 頭のてっぺんでひとつに纏めたくるみ色の髪は、毛先がふわふわとウェーブがかかっている。切り揃えられた前髪の下から覗く大きな目は、猫の目のような形をしており、夜ということもあってか黒目が大きくなっていた。白い陶器のように滑らかな肌は少女の人形のような整った顔立ちを一層際立たせており、背負った刀袋に本物の日本刀さえ入っていなければ剣道部の美人剣士かと思うほどの美少女だった。


「ねえ、きみ、中学生? こんな時間まで何やってんの、明日も学校でしょ」


 窓のまだ幼さの残る顔立ちに、少女は窓が中学生であることに気づいたようだ。セーラー服を着た少女に言われる筋合いはないのだが、窓は口ごもる。世間一般的に言えば、確かに(日付は変わっているが)今日は月曜日で、明日は火曜日だ。普通の中学生はこんな夜中に出歩いたりしない。だがそれは、彼女にだって言えることではないか。


「あんただって、明日は学校じゃないのかよ」


 む、と少女は唇を尖らせた。窓が言い返したからか、質問の答えを寄越さなかったからか。ふいと顔を逸らすと腕を組んでやや不機嫌な声で答える。


「私は高校生で、きみよりお姉さんなんだよ。ちゃんと私の質問に答えてよ」


「関係ない。乗り物はお互い大人料金だ」


 むう、と少女は頬を膨らませてむくれた。その姿に彼女の言う〝お姉さん〟らしさはない。高校生と言う彼女は中学生である窓と同じくらいに見えた。

窓は学校の話を極力避けておきたかったこともあり、少女に畳み掛けるように質問を繰り出した。


「さっきの、何だったんだ? あんたあれ、斬ってたよな? どうなってんだ?」


 少女が刀袋から先ほどの日本刀を引き抜き、窓の喉元に向けた。窓は突然のことになす術もなく、自分の喉がひゅっと鳴るのを聞く。少女の目は、赤く、宝石のように輝いていた。


「『好奇心は猫をも殺す』という諺を、知ってる?」


 少しでも動けば刃が喉に突き刺さる気がして、窓はうんともすんとも言えないまま、少女を見つめる。冷や汗がたらりと、背筋を通っていくのを感じながら、窓は少女の瞳が赤くなっていることに内心で首を傾げた。

 やはり先ほどのは見間違いではなかったのだろうか?


「うーん、違うわね」


 少女が日本刀を刀袋に収めた。窓は急に閊えが取れた気がして、大きく息を吸い込んだ。渦中にいる時よりも、恐怖から解放された時の方が何倍にもなって恐怖が返ってくる。窓はその感覚を久しぶりに思い出していた。


「やっぱり人間だね。ねえ、きみ。きみにはどうして、あれが見えたの?」


 窓が再び見た少女の瞳は茶色に戻っていた。人につい今まで刃物を向けていたことを忘れているかのように窓を見ている。何が何だか判らないまま、窓は少女が尋ねる〝あれ〟とは何かを訊いた。


「あれって何だよ」


「あれって言えば、あれよ。私が斬ったもの」


「ああ、骨の女のことか」


 窓の返事に少女の眉がぴくりと動く。考え込むように目を伏せる少女に、窓は意味が解らず口を閉じた。そのまま少女が話し出すのを待つ。


「……あれ、普通の人には見えないんだよ」


 少女がゆっくりと口を開いてそう言った。窓も目を伏せ、知ってるよ、と頷く。ずっとずっと以前から、窓には見えている。だからといって何度見ても慣れることはないし、できることならもう、二度と見たくはない。


「きみにはどうして見えるの?」


 少女の当然の疑問に、窓は口をつぐんだ。それは窓も知らない答えで、窓が知りたいことのひとつでもあるからだ。

 視線を泳がせて閉口する窓に、少女は言葉を続けた。


「私はこの、椿姫(つばきひめ)がいないと見ることはできないの」


 少女はそう言って刀袋を大切そうに撫でた。椿姫というのは、刀の名前かもしれない。聞いたことのない名前だが、刀メーカーに詳しいわけではない窓が知っている筈はない。 



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