第一話 転生?
一話一話が大変短くなっています。不定期更新ですが、お付き合いください。
「いやあぁ!!はなしてっ――!」
「ゲッへへ・・・・いいじゃねぇか嬢ちゃん。ちょっくらオレとイイことしようぜぇ!」
「いやぁあ――!」
薄暗く人気のない路地に、まだ幼さの残る悲鳴が響き渡る。
嫌がり抵抗する少女―18歳ぐらいの手を強く握る俺。
これは何千、何万回と繰り返してきた行為―って、あれ?
心なしか、いつもよりも背が高い気が・・・・。
「いやっ、やめて! 離しなさいよっ!」
少女は、これでもかっ、というほどに鋭いつま先を俺のすねへ繰り出してくる。
「ちょっ、痛っ―!」
あまりの痛みに声を漏らしてしまった俺は、ここであることに気づいた。
痛みがあるのだ。
これまで、少女がこんなに激しい抵抗を繰り返すことなどなかったし、ましてや俺はプログラム。もとより寒さや痛みなどの感覚が、生じることなど決してなかった。
だが、実際にすねはじんじんと鈍い痛みを訴えている。
「止めろっ――!!」
これはやはり、うんざりするほど聞いたセリフ。声の主は、大通りから突然現れた。
若干濃い目の青の制服に身を包み、上部が外に広がっている帽子をかぶったそいつは、まるでヒーローのようで――というか警官だった。
「おいっ、おまえ、何をしているんだ!」
呆然とする俺の手を振り払う少女。
「この男、急に現れて私のこと掴んできたんです!」
「まったく・・・・おいっ、そこのお前。聞こえているのか・・・・?」
俺の人工知能は、この一連の出来事からある結論をはじき出していた。
「おいっ!! ・・・・まぁいい。署まで同行してもらおうか」
俺の両手に、警官によって二つの輪――手錠がつけられる。
警官に促されるままに路地を出た俺は、唖然として目の前の光景に魅入ってしまう。
立ち並ぶ高層ビルに、そこかしこに光る鮮やかなネオンの数々。そして溢れんばかりの人の波が生み出す喧騒。それらは全てデータでしか知り得なかったもので。
――――すなわち、ここが現実世界であることを示していた。
「ふざけているのかっ、君は!!」
現在地点は、東京都内の警察署内。罪状―強姦未遂。俺の今の状況は一言で表すと・・・・極めてピンチであった。
「・・・・もう一度繰り返す。氏名、年齢、住所、犯行動機を述べろ。」
「氏名 わるものA 年齢 不明 住所 ネット上 犯行動機は、プログラムされていたことに従ったからです」
「ふざけるなっ!!!」
正直に答えているのに・・・・まぁ、信じてもらえるとは思っていないが。
警官に連行された俺はそのまま都内にある、そこそこ大きな署にて事情聴取を受けていた。
俺の前で息を荒げている先ほどの警官は、どうやら真面目な奴のようで、何とかして俺から本音を聞き出そうと頑張っている。
結局、5時間にも及ぶ押し問答の末、初犯ということで見逃してもらった。
署内から叩き出された俺は、先程は感じなかった寒さにブルりと身震いする。改めて自分の姿を見おろすと、「わるものA」のボロボロの布の服そのままで、同じくボロボロのズボンのポケットには、ナイフまで入っていた。
・・・・見つかっていたらやばかった。
自分の体に触れてみる。そこにはデータ上には決して存在しないはずの温もりが、確かに宿っていた。ためしに、自分の頬をつねってみる。
「いてぇ・・・・」
つぶやきながら、俺は自分の顔がだんだんとにやけていくのを感じていた。
ずっと憧れていた。情報でしか感じられなかった外の世界に。生きるという感覚そのものに。生き物たちのあたたかさに。人間という存在に。
俺は、我知らず駆け出していた。知りたいものが、見たいものが、触れたいものが山ほどあった。
初めて見た本物の空は、星が少なかったけど、それでも本当に綺麗だった。
よろしくお願いします!