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プロローグ

 チュートリアルというのを知っているだろうか。

「いやあぁ!!はなしてっ――!」

「ゲッへへ・・・・いいじゃねぇか嬢ちゃん。ちょっくらオレとイイことしようぜぇ!」

英語で書くと「tutorial」直訳すると「個別指導時間」。

 RPG―ロールプレイングゲームを始めるとき、大抵の人はチュートリアルをプレイするのではないだろうか。

「いやぁあ――! 誰かっ!」

薄暗く人気のない路地に、まだ幼さの残る悲鳴が響き渡る。

 嫌がり抵抗する少女―16歳ぐらいの手を強く握る()、とその仲間たち。

 これは何千、何万回と繰り返してきた行為。

「止めろっ――!!」

これもうんざりするほど聞いたセリフ。声の主は、大通りから何の前触れもなくやってくる。そう、まるでヒーローのように。

「なんだぁ? てめぇ。」

良いところを邪魔されて、苛立った声をあげる俺。少女は、現れた男をすがるように見つめている。

「やめろと言っているんだ。彼女が嫌がっているだろう? そんなこともわからない単細胞の持ち主なのか、お前は!?」

「・・・・ギャハハハハ!!」

突然笑いだす俺とその仲間たち。まったく、下品であることこのうえない。

「正義の味方気取りでちゅか~? ・・・・ムカついた。殺っちまおうぜ!」

なんて短気な。つーか「でちゅ」とかやめろよな・・・。

 俺の言葉に、男が背から剣を取り、構えた。

「やれるものなら――!」

その瞬間、

 

 『バトル開始!!』


視界いっぱいに、文字がきらめいた。

 『わるものA Lv.3 HP.25 MP.3』

ナイフを片手に構える俺の頭上には、そんな文字が。対峙する男の頭上には

 『剣士レオン Lv.1 HP.13 MP.10』

そんな文字が輝いている。

 レオン・・・これまた仰々しい名前付けやがって。

 相手のレベルは1・・・・加えて俺には二人の仲間がいるため、3対1。勝てない戦いではないはずである。

 そしてそれはその通りで、俺の振り回したナイフがぎこちない回避を繰り返していた男の腹に突き刺さる。瞬く間に奴のHPゲージが1まで減った。

 しかし、これもお決まり。奴には最大の武器があった。そう、それは主人公補正と言われる呪い。

「ぐあっ。」とか言いながら膝をつく剣士に、先ほどの少女が駆け寄った。その手には、何やら怪しげな小瓶が。

 小瓶の中の液体を煽った剣士の体が、一瞬光ったかと思うと・・・・・・

『剣士レオン Lv.3 HP.22 MP.15』

・・・色々と突っ込みたいが、当の剣士は不敵に笑うと、俺の子分A、Bを次々に屠っていく。

 剣士の持つ剣―なんか光ってる―の切っ先が、立ち尽くす俺を捉えたかと思うと、一瞬で間合いを詰められ・・・・俺の意識は儚く散っていった。


 



 『ソードマギカ・ストーリー』――そのまんま剣と魔法の物語であるこのPCゲームは、安直な題名からもわかるように、王道なストーリー展開と可愛いヒロイン達が主に中高校生に大人気なRPGである。

 オンラインゲームなのだが、最初の基本操作を覚えるためにチュートリアルイベントだけが個別に発生する。それをクリアして初めてプレイヤー達はオンラインへつなげることができるのだ。

 俺はこのゲームのAIである。AIというのは、ゲーム上のノンプレイヤーキャラクター、通称NPCを操作する人工知能である。俺に与えられている役目というのが先ほどの「わるものA」の役。なぜか、「わるものA」だけ用に、俺は作られている。このゲームが誕生して以来、幼い少女を襲い、犯そうとする下衆野郎を何千何万回と演じてきた。

 しかし、所詮はチュートリアル用の雑魚キャラ。用が済んだら放置されるだけの存在の俺。

 そんな俺は今日も広大な情報の海を眺めて、誰のものかもわからないPCにダウンロードしては、インターネット上に戻ってくる、を繰り返していた。



よろしくお願いします!

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