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なんとなく気まずい空気が流れていた。
扉が乱暴に開け放たれる音がした。それに3人は過剰なまでに反応する。
『ちょっと、俊介っ!水臭いじゃないっ!!』
立っていたのは、立派なカメラを片手に持った茶髪の女性。
少し息が上がっており、急いで来たのが分かる。
『あら、檜じゃない。久しぶり・・・お隣は?』
『この前話してただろ、瑠維だよ。』
その女性は少し低くて豊かな声で話す。
『本っ当に可愛らしいわね。はじめまして、私は檜や俊介と同じ大学に通ってた美津濃あづさ。』
『はじめまして、美津濃さん。』
瑠維はぺこりとお辞儀すると、あづさは笑った。
『檜・・・どこで攫ってきたの?』
『おい、俊介と同じ事言うなよ。』
『え!これと同じ思考回路だなんてっ!・・・最悪』
『そこまで言わなくても良いじゃないか』
仲良し三人組の会話に、またしても瑠維はついていくことが出来ない。
それが分かったのか、檜は瑠維をそっと自身へと引き寄せた。他の2人には気付かれない様に、かつ極て自然に。
『檜、お前からも何か言ってくれよ。』
『似た者同士、仲が良くて結構なこった。』
『檜がそう言うなら仕方がないわ、認めてやっても良いわよ。・・・あ、瑠維ちゃん。私からお願いがあるんだけど。』
『何でしょう?』
『話を逸らすのか?』
あづさに話しかけられた瑠維は、首を軽く傾げて返事する。
しかし、俊介の言葉に腹がたったのか俊介を睨みつけて言った。
『あら、念願叶ったのは全部私のお陰だってのに、その恩を忘れるような行為をしてくれてるような義のない男にズベコベ言われる筋合いないわ。ね、檜君』
『そうだな』
『あ、檜!裏切ったな!!!』
カウンター越しに檜を掴みかかろうとする俊介は一店舗の店主には見えない。
『あんな煩いのは放っておいて・・・。瑠維ちゃん、私の事を‘あづみお姉さん’って』
『あづみお姉さん?』
『きゃ~、私って一人っ子だから、そんな可愛く言ってくれる妹みたいな子って居ないのよ!』
そう言って瑠維に抱きつく。
『良い子だから、俊介の言う事は信用しちゃだめよ。もし、何かあったら私に相談してきなさい。』
『はい、有り難うございます。』
『じゃ、記念に一枚もらいます。』
カシャッ
『モデルさんが美人だから…綺麗な写真が撮れるわ。』
『おい、あづみ。開店記念に一枚撮ってくれよ。』
『他のお客さんが来て満席になったら撮ってあげる。』
あづみがそう言った途端、お客さんが一気になだれ込んできた。
『あの~、開いてますか?』
『もちろん!今日からだからね。さ、お好きな所へどうぞ。』
まるでタイミングをはかったのようだったのだが、偶然だったらしい。
俊介は接客をしに引っ込んでしまった。
『あづみ、それ、フィルム入ってんだろうな。』
『何疑ってるの?そんなこと一度も・・・』
そう言いながら確認する。そして、ほっとしたような表情になった。
『・・・そういえば一回だけあったわね。よく覚えてたわね。』
『だって、あれは高校の修学旅行だったろ。あれだけ騒いでたら嫌でも覚えてる。・・・で、あったのかよ。』
『ちゃんと入ってたわよ。これから店はお客さんでいっぱいになるだろうし。約束は守らなきゃ。・・・その写真ってどうするのかしらね。』
あづみの疑問に答えを提示したのは瑠維。
『店内に飾る、とか?』
『それ良いわね!で、毎年増やしていくの。』
『それまで続くか?』
檜が冷たい事を言う。
しかし、これが現実なのだから仕方がない。
店を続けて行くと云うのは、並大抵のことではないのだから。
『続けさせますとも。だって、私が投資したんだから、ね。・・・・・・今日開店だったなんて知らなかったけど。』
『あとで懲らしめるしかねえな』
『お願いね、檜。』