5-2-1
手紙を受け取って、中を読んでから一週間が経過した。
これを放置するつもりは一切なかったのだが、なぜか、行動する気にはなれなかったのだ。
1人で寛ぐには広すぎるリビングの真ん中で、もう一度手紙を見つめる。
一体、彼は何を伝えたいのだろうか。
それを見れば、論文を読めば、彼が考えていたことが少しでも理解できるのだろうか、近づくことが出来るのだろうか。
気付けば、動いていた。
施錠されていない部屋は、思っていたよりも簡単に開いた。
吸い込まれる様にして中へと入る。
数年間、誰も入らず閉ざされ、待っても帰って来ることのない主の為だけに存在していた空間。
その床には埃が厚かましく鎮座し、カーテンは無言にも色褪せようとしていた。
後で掃除することに決め、瑠維は目的を果たすべく動く。
嫌でも目につく、部屋の奥で存在感を放っている本棚。
その背の高い本棚の右端。
分厚い本が並ぶ中、そこには、黄色くなった紙の束が。
壊れ物を扱うかのようにそっと手に取り、中を見る。
彼の論文は途中で止まっていた。
このご時世に、何らかの意図で手で書かれた論文。
中身は全て英語で書かれており、知らない単語が多い為だけに今の瑠維では全文を解読することができない。
そんな彼女でも、唯一解った、惹かれた単語が一つ。
“gene”
その日本語訳は、“遺伝子”。
彼は以前、瑠維に一度だけ言葉短く言った。研究しているのは‘不死について’と。
この単語がどのように彼のあの発言とリンクしているのか。
そもそも、彼の言う‘不死’が世間一般の知られている意味と一致しているのか。
今の瑠維に知る術は無い。
『言ってくれなきゃ、教えてくれなきゃ・・・わかんないよ』
泣いても、背をさすってくれる彼はもう居ない。
居なくなって、もう、5年も経つのに。
彼の居ない世界に、まだ慣れない
居なくなって、もう、5年も経つのに、知らない彼が増えていく