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「開店して13周年ですね。今日からは14年目に突入か…。」
「そうだね。・・・わざわざ来てくれるなんて嬉しいよ。」
瑠維が差し出してきた花束を受け取る。
「其処の席が空いてるから。」
「ありがとうございます、俊介さん。」
そう言って、先ほど赤毛の少年との会話のネタになっていた椅子に案内する。
そう、この席は瑠維たちのためのもの。
「元気そうで良かったよ。なんてったって、14年前の今日に初めて会って、それから何かがあるたびに此処に来てくれててさ。姿を見せなくなったのが13年前。」
この話をするのは憚れたが、この店と彼女を語る以上、こうなってしまう。
それが解らず此処に来る程、目の前の女も馬鹿では無い。
「もう・・・?」
「大丈夫ですよ。でなきゃ、ここには来れない。彼との思い出がたくさんのこの店には、ね。」
なにかふっきれている様な、そんな印象を俊介は瑠維に受ける。
「僕、今は大学院生なんです。」
「そうなんだ…。どこの?」
「同じですよ。」
それだけで解った。
相当勉強したのだろう。俺たちと同じあの大学だ。
「入って、知りましたよ。彼って大学内でも凄かったんですね。」
「そりゃあ、賢くてスポーツも出来て、行事にはちゃんと参加していたからね。」
「色々な伝説があちこちに転がっていて…。何も知らなかったんだな、って思い知らされて…。」
そう言って瑠維が顔を下ろしたものだから、泣いているように見える。
しかし、続けられた声にそのようすは一切ない。
「僕は彼の研究を受け継ぎました。」
代わりに、危険な色があった。
それならば、彼女が泣いていた方が良かったのにと思ったのは罪か。