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『で、檜は腹を括ったって訳か。』
『るせー。』
ここは大学構内。
檜の横に座るのは、親友・俊介。
『…手を出すのが早いな~。俺だってまだ。』
『おい、さっさとしねえと、あづさに逃げられるぞ。そうなったら、俺の今までの苦労もこれからの苦労も全部水の泡だ。』
『そうだったな。』
あの時の事は今でも鮮明に思い出せる。
台風が近づく、ある日の事。
美津濃家の者にあづさとの縁を切れと俊介が言われた時、その隣に居た檜が言ったのだ。
『“俺が自分の家とあづさの家の両方の会社を継ぐ”って云う前代未聞でカッコいいことを言ってくれたよな・・・。しかも、それが周囲に受け入れられた。・・・それは、人徳と頭脳があるからだもんな。』
しみじみと話す俊介に、檜は苦笑いする。
『今でも、どうしてあんなことを言えたのか分からねえよ。今じゃ、絶対に言えない。』
『この前は俺たちの事を思って言った、みたいなことを言ってたくせに。』
『・・・それも一因だ、ってことだよ。その奥にあるはずの真意は本人でさえ解ってねえ。』
あの日とは違い、よく晴れた空。
『どうして俊介がここに居るんだ』
『あー、檜に報告しに来た。』
『さっさと言え、俺も暇じゃねえんだ。』
ベンチから立ち上がり、檜は俊介を見下ろす。
風が、檜の羽織る白衣を翻す。
『俺、今晩行ってくる。行って、あづさの親御さんに会ってくる。』
『会ってくれると良いな。』
『なんだよ。普通、頑張って来い、とか言うところだろ。』
『あーあー、精々頑張って来い。』
応援してる、そう言い残して檜は去って行った。
残されたのは俊介と大きな桜の木に留まる小鳥だけ。
『これから、檜は大変だな。俺以上に。』
瑠維から檜への電話。
聞いた本人はさぞかし驚いたことだろう。
『・・・まだ、瑠維ちゃんって13だよな。何してんだよ、檜。』
『俊介?』
知り合いも少ないはずの校内で声をかけてくるものなど無いに等しい。
『あづさ??』
それはあづさだった。
『こんなところで何してるの』
『檜に話してた、今晩の事。』
『そう、・・・頑張りましょ。俊介となら、大丈夫な気がするから。』
大丈夫な気がする、それが魔法の様に聴こえた。