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とある小さな居酒屋。
幅広い年齢層に支持されている。なかでも、生徒や学生の客が多い。ここの店主が馴染みやすい、ということも理由の一つだろう。
今日も、部屋に多くの若い客で溢れている。
「・・・あの席」
「どうしたんだい?」
赤い髪の少年が指さした席には2つの席が。
「何で2つだけ空けてんの?」
「……あの席は、とあるカップルの席なんだ。」
「そのカップルは今日来んの?」
「さあ、どうだろうね。2人一緒にってのは、ここ13年見てないよ。」
「13年!?」
「そう、13年。其処に写真があるだろ?」
額に入れられた一枚の写真。大勢の人が写っている。
「若っ」
写真の左端には若かりし頃の店主の姿が。
「それは、この店の開店初日に撮ったものなんだ。」
「もしかして、ここに写ってるのって初めてのお客さんだったり?」
「そういうこった。で、その中央に居る2人が……。」
中央の2人だけ、別の空気を纏っている。
「この幸せそうな大学生カップル?」
「2人とも大学生じゃないよ。彼氏は確か、25歳」
「社会人?」
「ちがう、大学院生だよ。医学部だったかな…その後は院に行って博士号をとるんだって言っていたよ」
「よく覚えてますね。」
「そりゃ、初めてこの店の暖簾をくぐってくれたんだから。それに、よく来てくれていたしね。」
「そうっすか…。どっかで見たことがある気がするんだけどなぁ……。彼女の方は?」
「彼女はまだ12歳」
「へ?」
少年は間抜けな顔になる。
「その年でこの色気!?俺よりも年下の少女って感じじゃなくて、完全に大人な女性じゃないっすか!」
「俺も驚いたよ。彼女が彼の横に並んでいても全く見劣りしない。見ていて美しいカップルだったよ。まさにお似合いだった。」
「年の差は感じなかったんすかね?」
「どうだろうね。……ただ、出会いは不純だった、って彼女は良く言っていたよ」
「それ、どういう意味…」
「立ち入った質問はしない事にしているんだ。」
「そうっすよね~。ハハハ」
「で、そっちの写真。」
2人だけで写っている。見つめ合って、笑っている。
彼女の頬には一筋の涙が。
「一枚目の一年も経たない内に此処に来てくれた時、俺が勝手に撮ったんだ。確か、その日は彼女の13歳の誕生日だったんだよ。」
「それでどうして泣くんすか?」
「さぁ~。それは知らないよ。本人に聞かないことにはね……。」
店主は懐かしそうに目を細める。
「これを撮ったのが最後だったよ。2人で一緒に此処に来たのは…。」