第二章~彼女について~
やってしまった。
そうだ。彼女は私と同じクラスだ。だが、それが最悪ってわけではない。
彼女・夏原李夜は、理事長の孫である。そして、誰もが彼女に関わりたくないという。
私も・・・・・・一応関わりたくない人の一人である。
理事長の孫ときいたら、それは誰でも近寄りたくないと思ってしまうだろう。何をいわれるかわからない、どんなことをされるのかもわからない。”理事長の孫”とは、神のようなものといってもいい存在だ。
「どうかなされて?」
顔色を悪くしている私とは裏腹で、元気な笑顔を向ける彼女に、私は心の中でため息をしていまった。
「いえ、大丈夫です」
私は無理な笑顔をすると、彼女はまた笑顔でこういう。
「何かあったらいってくださいね? 私、友達ができて嬉しいです」
「友達? 誰が?」
「あれ? 違いましたか? 私はてっきり友達になったのだと思ってのですが・・・・・・」
彼女は少しがっかりした様子で、小声で話した。
「いえ、私も友達になれて嬉しいです」
慌てて彼女を元気にしようと思い、笑顔で答える。
「本当ですか! 私、嬉しいです」
彼女は再び笑顔を取り戻し、私は一息吐いた。
危ない危ない。何かいったらきっと理事長に愚痴をいったりするわ。
心の中でもやもやと考えごとをしていると、担任の先生がやってきた。
「はい。みなさーん。HRはじめますよー」
かなりのロリ系キター! とか、心の中で思いつつ、私は制服をただし、いすに座りなおした。
「一年A組の担任になった、夕張香織です。年齢は聞いちゃダメよ?」
「はい」
クラスみんなの返事が、余韻を残して教室に響く。
「それでは、皆さんに自己紹介をしてもらいましょうか」
先生がそういうと、みんな「えー」といって、不満げな顔した。
「文句はいっちゃダメなのです! 名前と、どこの中学校からか、好きなことや、何部に入りたいかと、最後に一言をいってくださいねー」
先生は笑顔でいう。
自己紹介か。なんていえばいいんだろ。
考えているうちに、もう順番がきてしまった。
私は立ちあがると、大きめな声でいった。
「えっと・・・・・・。桜塚中学から来た、天王寺弥生です。好きなことは、特になく、いろんなことをするのがすきです。部活は、なるべくならたくさん入りたいです。よろしくお願いします」
そういい終わり、席につくと、周りの席からヒソヒソ話がきこえた。
内容はいたって普通。ただ、中学のときもこんな感じだった。
「天王寺って、あの天王寺!?」
「うそー! 私、知ってるよ? 年収一千億円とか!」
「知ってる? このあたりのビルとか会社って、全部天王寺さんの経営なんだって!」
「天王寺って、中学のとき、全部の部活に入って、全国優勝したんでしょ?」
「私、あいつに近づいたり告白すると、絶対に将来いい仕事につけなくなるって噂きいたよ」
「聞いたことあるよそれ! あと、テストとか全部百点ばっかりで、もし一点でも落ちたら、学校のせいにするんだって!」
などなど、たくさんの噂が飛び交った。
こんなの慣れてる。なのに――。
「いいかげんにしなさい!」
私の隣の席からガタっと音がした。隣を見ると、夏原さんが立っていた。
「そんなの噂でしょ? もし本当だとしても、彼女に失礼だわ! 私なんて理事長の孫よ? もしなにかしたら言いつけられるなんていうけど、私は普通の生活を送りたいわ。それに、祖母とは仲が悪いの。なにかいいたいのだったら、直接祖母にいうべきだわ!」
彼女は話を終えると、席についた。
周りの女子たちはしょんぼりした顔で、机のほうに顔を向けた。
それを聞いた私は、いつの間にか立ち上がって、口が勝手に話していた。
「私は、普通の高校生活を送りたい。みんなと平等な生活を送りたい。私は私。両親の仕事なんて知らないわ。だから、こんな私でも仲良くしてほしい」
みんなはしーんとしていた。
我に返ってみると、急に恥ずかしくなって、すぐに座ってしまった。
あとから夏原さんも座った。
心の中ではドキドキしていた。
時が止まればいいのに、そう思っていても、なぜか時計の針は動いたままだった。
そして、いつの間にか自己紹介が進んでいき、彼女の番になった。
「夏原李夜。梅里中学校からきました。好きなことは、おしゃべりをすることかしら? 部活では、そうねぇ? 入ってほしいってあれば、そこに入るかな。最後に、祖母とは本当に仲が悪いの。だから、私は祖母について何もいうことができないです。よろしくお願いします」
そういい終え、座った。
そして、HRは幕を閉じた。
今日はこれでおしまいだから、下校するだけだった。なのに、
「ねぇねぇ、天王寺さん」
「はい?」
「これから用事ありますか?」
「いえ、特にはありませんけど・・・・・・?」
「なら、私に付き合ってくれませんか?」
「え?」
「あ、いやでしたか?」
「いえ、全然。大丈夫です」
「よかった。私、ちょっとお手洗いのほうにいってきますので、帰りの用意をして待っていてください」
「はい」
彼女は鞄を机の上において、教室を出て行った。
「なんか、新鮮な人だな」
私はポツリとつぶやくと、帰りの準備をした。
しばらくすると、彼女は戻ってきた。
玄関までいくと、玄関の靴箱をあけた。
ドサドサドサ
何かがなだれるような音がした。
大量の手紙だ。
「な、なにこれ」
私の靴箱からあふれでたたくさんの手紙。
私はそれを一枚手にとって、中身をあけてみた。
「天王寺様へ
変な噂に惑わされ、天王寺様と距離を置こうと思っていました。けれども、天王寺様の言うとおり、天王寺様は天王寺様ですものね。そんな天王寺様に一目ぼれしてしまいました」
内容を読んで把握した。
そして、ほかの手紙をちらっと見る。
私の人生は、バラ色に染まることはないのだろうと、確信したのであった。
やっとでてきました。「天王寺弥生」なんか、お嬢様みたいな感じがしませんか?
私だけでしょうか? 次回もお楽しみに☆
そして、ここまで読んでくださったみなさま、誠にありがとうございます。これからも、私のおままごとに参加してくださると嬉しいです♪