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第三話:不渡(ふわたり)の街

 重蔵が居を構える「裏長屋」には、吹き溜まりのような人間たちが集まっている。

 元・腕利きのスリで、今は重蔵の「足」として情報を運ぶ少年テツ。そして、かつては王宮の書記官だったが、賭け事に溺れて身を持ち崩した老人ヨク。


「重さん、また厄介な奴らが嗅ぎまわってるぜ」

 テツが、齧りかけの林檎を片手に屋根から飛び降りてきた。


 長屋の路地裏。重蔵は、ガロンから分けてもらった干し肉を炙りながら、テツの報告に耳を傾ける。

「『魔導銀行』の使いか?」


「ああ。黒い外套を着た、血の気の失せた連中だ。昨日、ハミング商店の蔵が差し押さえられた。店主は行方不明。ルカの坊っちゃんも、借金のかたに連れていかれたらしい」


 重蔵は溜息をつき、膝をさすった。雨が近い。古傷が痛む。

「……貸しを回収するだけならいいが、あいつら、人間の『時間』まで利息に取ってやがるな」

 

そこへ、路地の入り口に影が落ちた。

 漆黒の法衣を纏い、片目にモノクルを嵌めた男が立っていた。名をオーガスト。魔導銀行の「上級監査官」である。


「守屋重蔵殿。貴殿の『経営指導』は、少々、我々の商売の邪魔をしています」

 オーガストは慇懃無礼に頭を下げたが、その瞳には感情がない。


「ハミング商店の店主は、自らの『罪悪感』をエネルギーに変えて街の魔導灯を灯していた。それを貴殿が清算してしまったせいで、この区画の灯りが三晩消えた。損害賠償は、銀貨三千枚。あるいは……貴殿の『寿命』で支払っていただく」


 テツが短刀に手をかける。だが、重蔵はそれを手で制した。

「……銀行員さん。あんた、大きな勘違いをしてるな」


 重蔵は立ち上がり、懐の「真贋の天秤」をゆっくりと取り出した。

「債務者が死んじまったら、貸した金は一銭も戻ってこない。それが商売の鉄則だ。あんたらのやり方は、木を切り倒して実を採るようなもんだ。そんな経営じゃ、来期にはこの街は破綻するぞ」


 オーガストの眉がピクリと動いた。

「……面白い。では、提案です。この街で最も大きな『不良債権』……、呪われた運河の再開発を、貴殿が黒字にしてみせますか? もし失敗すれば、貴殿の魂を我々の資本エネルギーに組み込ませていただく」


 重蔵は、ふっと不敵な笑みを浮かべた。

「いいだろう。……ただし、俺が勝ったら、その『帳簿の裏側』を全部見せてもらうぞ。この世界の神様が、何を隠してるのかをな」


大きな謎への接近

 オーガストが去った後、重蔵はヨク老人に尋ねた。

「ヨクさん、あんた王宮にいた時、聞いたことはないか? この世界の『資本金』は、どこから湧いてるんだ?」


 ヨクは震える手で酒を煽り、声を潜めた。


「……噂では、この世界の地下には、巨大な『天秤の心臓』が眠っているという。そこには、数千年前から積み立てられた『人類全体の未練』が詰まっている……とな」


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