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イシュタルの戦い(下巻)

――――ガッ!!

本陣に戻ったガイメッツァーは、真っ先に総司令官の顔面を殴打し、金髪、黄金の鎧に身を包む青年は壁まで殴り飛ばされた。


「なんで、なんで! 総大将のくせに逃げたんだ! 貴様ッ!」

殺気すら漂う銀髪の戦士を青髪の騎士が掴む。

「ガイメッツァー! 総大将のレオンが、ここで死んだら連合は終わりだ! この男は連合が帝国に勝っても王にはなれない。傀儡の勇者なんだ。ヴァルハラントとローザリア、グランベルの三つ巴の戦いになり、アスガルドは本当に滅びるぞ!」


2公爵にとって、兵も権力も持たないレオンはただの傀儡。

光の直系で光剣を持つからこそ、担ぎ上げられた存在。

この戦いは連勝で油断したこと。

功を焦る士官たちの采配のミスに敗北の要因がある。

だが、不審なことに進軍のときから連合軍の動きが読まれていたかのように伏兵が配置されていたのが一番の要因だ。

情報が帝国側に完全に漏れていたかのようにだ。


「知ったことか! コイツを殺さなきゃならねぇ。さぁ光剣を抜け、この臆病者がッ!」

とうとうガイメッツァーが戦斧を向けるといよいよ、衛兵らがガイメッツァーとナーシェルを囲み始める。

「いい加減にしろ! ヴァーレンハイトが戦死した以上……レオンをノワールハイムは許さないだろう。お前の怒りは公爵が引き継ぐ」


「……フッ。俺はもう終わりだ。ノワールハイム公の義弟を戦死させちまったんだからな」

口の端から垂れる血を拭い、立ち上がるとレオンは衛兵を下がらせた。


そして――――

「ナーシェル……お前は後詰で待機していたな。俺は全軍で突撃する作戦を最初から提案していた。竜騎士隊が攪乱していれば、あんな帝国の剣士や魔導師に後れを取ることはなかった」

「笑止。2公爵と合流するまで、陣を固めると――――――!?」

ここでレオンは光剣を抜くと、ナーシェルとガイメッツァーに向ける。


挿絵(By みてみん)

「これは命令違反、敵前逃亡の疑いすらある。俺は卿らよりも遥か上の立場にあるのだぞ! 誰かッ!! この下賤なダークエルフィンと落ちぶれた下級貴族を下がらせろ!」

「こ、こんなヤツが……光の直系の勇者とは……」

戦斧を握り込むガイメッツァーにナーシェルは「もぅいい」と諭し、一緒に外へ出る。



外へ引くと、ナーシェルは怒りに燃える戦士に諭すように言った。

「ガイメッツァーよ。アスガルドの戦史上、永続的に存在した王朝はない。そして、皇帝を倒せるのもレオンだけだ」

「なんで、あんな野郎に軍権を握らせる?」

「皇帝ガイゼリックには光の魔法ナラティブと皇剣エクスカリバーがある。ナラティブを防ぐにはレオンの持つ、イージスの盾と光剣ラグナロクの魔防の補正がなければ、耐えることはできない。そして相手の防御力を無効化するエクスカリバーはイージスの盾ですら防ぎきれるものではない。受け止められるのはラグナロクのみ。その両方を同時に装備し、本来の力を発揮できるのも光の系譜であるレオンしかいない。あの黄金の鎧も中級の攻撃魔法であれば防ぐことができるコーティングが施してある。他に皇帝を倒せる者がいたとしたら……ドラゴンか悪魔王(マジンオウ)ぐらいなものだろう」

「な!? じゃあ、何でレオンは逃げたんだ」

「レオンはああ見えて強い。俺やお前よりも……だが、いくら光剣と光盾を持っていても、一騎当千は無理だ。HPも持たんし、武器だって耐久値を越えてしまう。そして、あの黒い戦士たちもガイゼリック最後の奥の手だろう。全員が黒髪で赤い目をしていた……恐らく暗黒教団の魔人だ」

「魔人……なんだそりゃ?」

光人間(フォースマン)に悪魔の力を融合させて作った戦闘用のクローンだ。まさに人の皮を被った悪魔……常人では考えられない力、速さ、魔力。それに見合った神聖武器(ジンギ)級の武器を装備していた。名前も魔導師たちが言うにはアレフは1、ベスは2、ダレスは4、ヴェイは6……ザインは7。だとすれば、少なくとも7体はいる。そして7番目のザインが総大将だったということは後の数字になればなるほど強くなるのかもしれない」

「……待て、あの黒魔術師はベスと名乗ったぞ。2番目であの強さか?」

「あぁ、そしてあの黒い戦士がアレフ……魔人の中では1番弱いとされるのかもしれない。たったひとりで戦士隊と戦ったあの強さでな」

「あ、あれで弱い方だと……」

「確かに、あの黒い戦士は大剣と力だけで一切の小細工はなかった。魔防を補うためにあの黒い鎧を装備しているのだろう。だが、ヤツをベスのような魔導師が補佐すれば、最強のタッグかもしれん」


話し込む二人に兵士たちが割って入る。

挿絵(By みてみん)

「……将軍。ノワールハイム閣下と参謀がお見えです」




挿絵(By みてみん)

「レオンから話は聞いた。……辛くも勝利したと。ヴァーレンハイトのことは残念だった。惜しい勇者を亡くした」

だが、ガイメッツァーは歩み出る。

「これが勝利? 俺たちは、いずれ勝ったまま全滅しますよ!」

ガイメッツァーは天に向かって叫んだ。

子供の頃に何度も読んだ英雄譚は勇者は魔王を倒し、世界を平和にする。

だが、現実の勇者は最終戦を前に倒れてしまった。


「あの黒い戦士……必ず殺してやる!」



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