イシュタルの戦い(中巻)
黒い戦士の剣筋は、まるで稲妻のようだった。
屈強なエルフィンの斧戦士たちは、空を覆う暗雲のように彼に群がったが、その切っ先が閃くたびに、まるで乾いた落ち葉が風に舞うように吹き飛ばされていく。
やがて、辺りには嵐が過ぎ去った後のような静寂と、無数の骸だけが残った。
「貴様! 矢を浴びせろ!」
エルフィンの戦士隊は斧と同じく得意の矢を射る。
更には風の精霊魔法の刃で波状攻撃を仕掛けた。
大剣を盾のようにし、矢を防ぐ。
そして風の魔法が黒い戦士を襲うが、その纏う黒い鎧は対魔法の効果があるのか、直撃でもない限りはバリアーで防がれてしまった。
「ウオオォォォォォッ!!」
ガイメッツァーは跳びあがり、ゴールデンアックスを黒い戦士に叩き込んだ。
その大剣で受け止められるが、まさにその手ごたえは鉄。
「神に感謝せねばなるまい! お前のような強い戦士に会えるなんて!」
ガイメッツァーは戦いの昴揚感に浸った。
目の前の戦士は強い。
だが、この如何ともしがたい戦力差。
お互いに盾はなく、大剣と戦斧のみで純粋に打ち合った。
互いに血を流し、疲弊するが、一対一ではない。
エルフィン兵からの援護を受けながら、なんとか黒い戦士を押していく。
しかし、黒い戦士はガイメッツァーと戦いながら、エルフィンの戦士たちも討ち取る。
大剣がガイメッツァーをゴールデンアックスごと斬り飛ばす。
「し、しまった!?」
まさに大剣が目の前に迫ったとき――――――
「――――――!?」
黒い戦士は上空から滑空してきた竜騎士の槍に突き飛ばされた。
「大丈夫か!? ガイメッツァー!」
「ナーシェルか!」
青い鎧を纏った竜騎士が舞い降りる。
「ここは一旦、退却だ。総大将も陣に既に引き上げている」
「なにっ!? 総大将が退却しているのか? 俺もヴァーレンハイトもまだ戦っているんだぞ!」
「……恐らくは騎士隊は全滅しているだろう」
「な、何を言っている?」
それはガイメッツァーにとって半身を失うような言葉だった。
絶望と焦燥感。
一気に力が抜ける。
そして、ガイメッツァーは戦斧を取る。
ナーシェルの飛竜の首に下がった雑嚢を引きちぎると回復魔法薬を取り出して浴びるように飲んだ。
「あの黒い戦士を殺す。恐ろしい戦闘能力だ。この神器ゴールデンアックスを受け止めやがった」
だが、倒れる黒い戦士の前にワープの術で黒い女魔導師が現れる。
「この力は神が授けた……」
「待て! 帝国の魔導師よ。私は連合軍竜騎士隊長ナーシェル大佐だ。我々は撤退する。それともひとりでこの人数と戦うつもりか?」
女魔導師の殺気は恐ろしいものだった。
黒い戦士を守るためなら、自爆するも厭わぬようなオーラを発する。
「……わが天槍グングニルの前には、お前の力など通用しない!」
ナーシェルはグングニルを構えた。
女魔導師はナーシェルを睨みながら、黒い戦士の状態を確かめる。
「我が名はベス。ナーシェル! この借りは必ず返すぞ」
女魔導師はそう言うと、黒い戦士とともにワープの術で消えた。
戦後に魔王と呼ばれるベス。
戦後に勇者と呼ばれたナーシェル。
このふたりの対峙を目の当たりにしたのは、ガイメッツァーだけであった。




