イシュタルの戦い(上巻)
ノワールハイム派貴族連合軍は数の有利と高い士気を活かし、連戦連勝を飾った。
帝都ヴァルハラント南、神殿都市サイラ―ジュで補給を済ませる。
だが、ノワールハイム派連合軍と合流するはずだったブランシュバイク派連合軍は到着せず。
北の地イシュタル平原に、その北にあるレフガンディーの砦にて軍備を進めていた帝国軍が集結する。
連合軍総司令官レオンは敵の数が1万に満たないことを知ると、合流する必要もないとして進軍を開始。
しかし、ノワールハイム派連合軍の参謀シュターゼンは自軍の会議である想定を打明ける。
「イシュタルで帝国軍と戦う我々をブランシュバイク公はサイラ―ジュの神殿騎士団と挟み撃ちにする可能性があります。ガイゼリックを倒せば、ブランシュバイクは必ず自分を王と名乗るでしょう。前に帝国、後ろにローザリア……我々は戦乱に乗じて攻撃を受けます」
その話に驚愕するのはガイメッツァーだ。
そもそもこれは平和のための聖戦ではないのか?
なぜ、同盟軍からの攻撃を心配せねばならないのか?
このとき、ヴァーレンハイトはガイメッツァー、ナーシェルとともに2万の兵を率いて、レオンの1万と合流し、イシュタルで帝国と一戦交えると提案。
合流するまで待つべきだったが、王家の血筋とは言え、同世代のレオンが上級大将で連合軍を率いていることに焦りを感じていた。と推測される。
ノワールハイムとシュターゼンは4万の兵とサイラ―ジュに残り、ブランシュバイクを牽制する。
そしてイシュタルで両軍は睨み合った。
レオンは小細工は必要なく、数で圧倒すると言う。
「両公爵が到着するまでにレフガンディーまで落とす。帝都の攻略こそ両公爵が決着をつけるだろう。我々はイシュタルを奪いに来たのではない。レフガンディーを奪いに来たのだ」
「いや、両公爵が来るまで待つべきだ。ここからは帝国も本気で来るだろう。敵の大将……ザインなる将軍、そしてダレスとアレフ、軍師のベス……今まで聞いたことがない名だ。暗黒教団の者だろう」
ナーシェルはレオンに陣を固めるべきと提案した。
レオン、ヴァーレンハイト、ナーシェルは貴族士官学校の同期。
帝都の経済制裁と圧政で領地は荒れ、父の爵位は公爵から准爵に落とされてしまう。
それでも屈強な竜騎士隊として傭兵業で国を何とか統治し、民を飢えから守っていたナーシェルの二つの名は〝亡国の公子〟。
本来ならば、ブランシュバイク、ノワールハイムと並んでいいはずの公子は1千の竜騎士隊で義勇兵として扱われてしまう。
貴族士官学校で後輩であったノワールハイムは彼を高く評価していたため、すぐにグランベル軍に参加させ、大佐の階級を与えたのだ。
だが、そんな彼にレオンは「臆病者はここにいろ」と一喝。
竜騎士隊は後詰として待機し、中央にレオン、東にガイメッツァー、西にヴァーレンハイトで進軍することになった。
連合軍中央に位置するレオン隊の先発を率いるジーク准将は「帝国軍突撃開始」の報にショックを受けた。
布陣する前に奇襲を受けることになる。
連合がイシュタルに進軍する前からわかっていたかのような素早い突撃。
既に伏兵がいたかのごとくだ。
帝国軍は分散しつつ、一点突破で中央に突撃を開始した。
レオンの作戦は三方向から包囲するように進撃、多数を相手に敵を密集体形し、殲滅する作戦だった。
イシュタルは帝国の伏兵だらけで、指揮系統は混乱を極める。
そして、最前線で戦う黒い剣士と白い騎士。
黒い剣士ザインは剣というより、刀のような武器を疾風のような速さで振るい、突撃してくる。
白い騎士ダレスは聖剣で的確に敵を斬り裂き、攻撃魔法も聖剣で両断してしまう。
「ヴァーレンハイト隊とガイメッツァー隊に緊急連絡! 敵と衝突、直ちに応援に来られたしと! あとレオン様に下がるように伝えろ!敵にバレているぞ。まさか、サイラージュにいたときからか!」
そう怒鳴る隊長の顔を鮮血が染め、周囲の騎兵を雷撃が襲う。
「この力は神が授けた……S級雷撃魔法!」
放たれた雷撃の最強魔法により、中央先頭隊が一気に崩壊していく。
「我が名は帝国6将のひとりイングヴェイ……私がいる以上、連合軍は全員殺す!」
「くたばれ、連合のザコども!このベスの暗黒魔法から逃れるすべはない! A級闇撃魔法!」
本隊が後退したことと、西と東で別れたヴァーレンハイト隊とガイメッツァー隊が中央に来ることによって帝国軍は挟撃を受けるはずだった。
中央の危機に西から進軍していたヴァーレンハイトは騎兵隊の機動力ですぐに救援に駆け付ける。
だが、中央を猛攻撃で撃破した帝国の強者4名に逆に挟まれる形となってしまう。
「貴様らッ!? 帝国の将軍たちか!」
「ほぉ、ノワールハイムの側近だ。こんなところで大将級の将軍に出会えるとは。神刀バルムンクもザコを斬り飽きたところだ!」
剣士ザインは残像の残るほどのスピードで斬りかかっていく。
「相手にとって不足はない。その首、陛下に捧げる!」
聖騎士ダレスも聖剣ティルフィングを振りかぶって突撃していく。。
「本当はノワールハイムの首が欲しいけどね。今日はNo2で我慢してあげるわ」
賢者イングヴェイは最強の雷魔法を詠唱する。
「我ら4人を同時に相手に、いつまで生きていられるかしら?」
暗黒司祭ベスは闇魔法を詠唱した。
「この命に代えても、貴様らをこれ以上は進ません!」
ヴァ―レンハイトは剣を正眼に構えた。
レオンの元に伝令が飛ぶ。
「先頭集団は継続して敵を迎撃せよ! 総力戦用意!」
聖剣ラグナロクを引き抜いたレオンは敵方向ではなく、陣に向かって後退した。
「後詰のナーシェルを出撃させろ!」
戦闘開始、数時間。
帝国軍の苛烈な攻撃によって西側のヴァーレンハイト騎兵隊、中央先頭隊はほとんど壊滅状態になってしまう。
このとき、レオン本隊はかろうじて知った事態の急展開に驚いたが、竜騎士隊の出撃を見て、ヴァーレンハイト隊の善戦を信じるとの考えで後退を続けた。
ガイメッツァーは壊滅した中央先頭隊を通り越し、そのままヴァーレンハイト隊の応援に向かう。
彼にとってレオン総司令官のことはどうでもいい。
恩人であるヴァーレンハイトが窮地に追いやられている。
しかし――――――
「ここを通すわけにはいかねぇな」
その黒い戦士は大剣を構えていた。
その剣は大きく、鉄塊のようだった。




