①戦士ガイメッツァー//決断
……十余年前
ガイメッツァーは猛将である。
戦いのときはつねに最前線に位置し、味方を鼓舞する。
敗戦のときは最後尾で味方の退却を援護してきた。
彼は最前線に向かい、後方の本隊に「突撃するのは今」と兵に伝令させた。
ノワールハイム派連合軍6万に5千で対抗するダークエルフィン族の戦士たち。
族長のルガーと次期族長の息子は先行した戦士隊長ガイメッツァーの伝令により、疑うことなく突撃を開始した。
「突撃!」
族長ルガーの命令は明快そのもの。
ルガーを先頭に砂漠の地をダークエルフィンの戦士たちが駆ける。
砂漠に足を取られては騎兵の機動力は半減する。
初戦は勝てる。
そうルガーは確信していた。
前方にガイメッツァーの戦士大隊が見えたとき――――――
「ぐあわぁぁぁぁっ!?」
本隊の兵士たちが弓矢の雨に撃たれ、倒れる。
「な、何が起きている?」
出鼻を挫かれると、今度は上空から竜騎士隊がその槍を地に向かって投擲する。
弓で応戦する暇もなく、竜騎士隊は上空を滑空し、そのまま消えていく。
本隊がほぼ壊滅状態になると、ルガーは目を疑った。
前方から、ガイメッツァーの戦士大隊に加えて、連合の槍歩兵が突撃してきたのだ。
そして、太鼓の音が砂漠に鳴り響くと竜騎士の第二波が更に上空から地上に向かって低空飛行で突撃してくる。
ルガーは一族に伝わる黄金の戦斧で竜騎士を飛竜ごと斬り裂いた。
「ドラゴンもどきに討たれてたまるか!」
だが、前、上、更には後方からも造反したダークエルフィン隊、連合軍の兵、竜騎士隊の第3波が押し寄せる。
そして―――――
「ガイメッツァーッ! 貴様!」
目の前には娘婿の戦士隊長が、その実力は自身よりも高く、実力主義であれば、間違いなく彼が族長になるに相応しいであろう。
「義父上! これはエルフィン族の未来のための戦いだ! そしてアスガルド最後の戦いにして、大陸中の子供たちが二度と戦乱に巻き込まれない最後の聖戦なんだ!」
「バカな……古により、神君ハイウェルラインはヴァルハラント帝国に忠誠を誓った! 貴様、帝国を裏切るのか!」
「何が忠誠だ! そんな1000年以上の前に締結した約定なんて破棄してやる! たったひとりの王を守るために何千のエルフィンが死ぬなんてバカな話があるか! アンタはここで死ぬんだ!古い時代の思想とともに!」
「ノワールハイムはアスガルドの覇者になろうとしているだけだ! そんな野望に協力して何になる!」
「アンタじゃ、一生、俺たちはダークエルフィンのままだ! もぅ差別のねぇ世界を作るんだ。連合に正義がある!」
「――ッ!? 古の魔王の論理だな。秩序と理想の天秤が傾いたときこそ戦乱が幕を開ける。ワシはワシの使命を果たす……」
「果せるかな?」
ルガーの弧を描く斬撃に耐えかねたガイメッツァーの戦斧が砕け散る。
神器ゴールデンアックスは相手の武器を一定の確率で破壊する能力がある。
「ちぃ……ッ」
一般の武器じゃ、神器と戦えねぇ――――ッ
ガイメッツァーは背中に括った聖剣を引き抜いた。
それはヴァーレンハイトから預かった聖剣ソウルオブナイト。
――――ガッ!!
ソウルオブナイトはゴールデンアックスを受け止める。
「なっ!? なぜ、貴様が聖剣を!」
ソウルオブナイトがルガーの胸を貫いたとき―――――
ルガーは娘の名を口にした。
それはガイメッツァーにとっても妻の名だ。
何故、同じく家族を守るために戦ったのに、こうも主義主張が違ってしまったのか。
「……俺は命懸けでハイラインとガキを守らなきゃならねぇんだ」
ソウルオブナイトを鞘に納め、黄金の戦斧を手にする。
古の時代、勇者の聖魔の光剣ですら、受け止めたと言われる神器〝ゴールデンアックス〟を天に掲げる。
「敵将! このガイメッツァーが討ち取ったぁぁぁぁッ!!」
神君ハイウェルラインは、見限った魔王エグゼクトに勇者に降伏するよう進言し、拒んだ魔王を拘束して王国軍に降伏したと言われる。
彼は降伏を進言しなかった。
そう、族長の座を欲したからだ。
「俺たちと光人間は主従じゃない……」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ガイメッツァー。ノワールハイム閣下だ」
ヴァーレンハイトはノワールハイムとガイメッツァーの元にやってきた。
呼ぶのではなく、元帥自身が出向くと彼に言ったのだ。
「この英雄的決断……1000年の後も語り継がれるであろう。ガイメッツァー……卿の武勲、古の英雄レオンハルト、女王ハイウェルラインを遥かに凌ぐ」
「閣下。ガイメッツァー殿に准将の階級と男爵の爵位を」
ヴァーレンハイトに促され、ノワールハイムはグランベルの勲章を彼の鎧に飾る。
「ガイメッツァーよ。グランベル公国の貴族として、将軍として活躍し、ダークエルフィン族を率いよ」
――――――だが、
「閣下……アスガルドにダークエルフィンなどという種族はおりません。彼は、そして彼らはエルフィンです」
ヴァーレンハイトの言葉に数舜の間が起きた。
「……そうだな」
「ヴァーレンハイト……」
ガイメッツァーも彼を見る。
そう、ノワールハイムに忠誠を誓うワケではない。
ノワールハイムはガイメッツァーの手をとる。
「我らは主従ではない。至高神レイアの使徒として、光の同志として、友として、アスガルドに真の平和を取り戻すべく、協力してくれるか?」
「こ、この命……アスガルドの平和のためなら惜しむことはありません」
後方でそのやりとりを見ていた参謀のシュターゼンは書物に記した。
この瞬間こそ〝真の聖魔の盟約〟だったと。
英雄レオンハルトは武力を以って聖魔の盟約を締結させたが、ヴァーレンハイトは友情で結んだのだ。
その姿は時代を超えたレオンハルトとハイウェルラインであったと記されている。
そして、ノワールハイムは兵らの前で宣言した。
「アスガルドの勇敢なエルフィンの戦士、ガイメッツァーだ!」
喝采と祝福の中で砂漠の戦いは終わった。
砂漠は同族の血で染まっていたことに、このときのエルフィンたちは気付くことはない。
遺体はサンドサーペントが勝手に処理してくれるのだから。




