貴族連合軍・騎士ヴァーレンハイト
十余年前……
ネメシス神を崇拝する暗黒教団長を最高評議会のひとりとしたガイゼリックは叔父である国王を暗殺。
従弟であるレオンから王位継承権を奪い、追放する。
ヴァルハラント帝国の国政は財ある貴族に重税を課し、罪人には即刻の極刑を実行する。
当初、貴族から徴収した税を元手に下級国民のみに導入したベーシックインカムは、貧困に喘ぐ民から熱烈な支持を得ていた。
しかし、中級の民から上級の貴族と呼ばれる爵位のある者達からの不平不満は募る。
ここにガイゼリックと暗黒教団の枢軸に反対する上級貴族たちはヴァルハラントから南に位置する神殿都市〝サイラ―ジュ〟に集合した。
名目は至高神の神託を受けた少女が現れたことによる拝礼の参加だが、ガイゼリックの専横に抗う決起会で貴族連合軍の結成の署名を行うことであった。
ここでサイラ―ジュの神殿騎士団、神官戦士隊も連合に加わる。
ことに高司祭チンコシコルノスキーは連合から賄賂を受け取り、責任者である大司祭を暗殺して、連合に協力することを表明したのである。
貴族連合の盟主はローザリア公ブランシュバイク。
副盟主は年下でブランシュバイクに一歩譲ったグランベル公ノワールハイム。
共に連合軍元帥の階級章を付け、実戦部隊もブランシュバイク公が総指揮をとるつもりだったが、用兵の専門家でヴァルハラント王家の血を引く者をその座にすえるべきとノワールハイムは譲らなかった。
ノワールハイムはガイゼリックの政略で国外追放された前皇帝の長男レオンを総指揮官に推薦した。
ブランシュバイクにこれ以上の権力と武勲をたてさせないことが目的だったが、正論でもあり、その意見をブランシュバイクもしりぞけることができなかった。
ヴァルハラント帝国アスガルド大陸の中央。
西のローザリアと東のグランベルに挟まれる形となり、連合軍は奴隷の解放も掲げたため、亜人族も帝国ではなく、連合軍に加勢する動きを見せた。
だが、ヴァルハラント帝国から東南に位置する森と砂漠の国フレイムに暮らすダークエルフィン族5千は帝国に加勢すると表明。
グランベル地方であったため、ノワールハイムは6万の軍勢でフレイムを包囲。
だが、騎士団長で公爵の妹婿のヴァーレンハイトはダークエルフィンこそ仲間にしなければ、自由と理想を掲げる連合の目的に反すると使者として説得に向かうも族長のルガーから「戦場で相まみえる」と突き返されてしまう。
陣に戻るヴァーレンハイトに公爵は「ほぅ戦うと申すか……」と冷徹に一言言い放った。
参謀長のシュターゼンも「ここは駐屯するに水もあり、いい地形である。皆の者、軍議の準備だ!」と声を張る。
義勇軍として参加している竜騎士隊長ナーシェルは「5千と6万では御味方の勝利に間違いありませんな」とその場から去ってしまった。
「待ってくれ! 本当にこんなことでいいのか? これが正義なのか? 10倍の兵力で叩き潰すのが正義なのか?」
ヴァーレンハイトの説得は虚しく、軍議は作戦ではなく略奪の話から始まってしまう。
―――そして、夜。
「テメェは連合の将軍ヴァ―レンハイト!」
昼間に使者として現れたグランベルの騎士は夜に直接、ダークエルフィン族の戦士長ガイメッツァーの自宅に突撃したのだ。
「この戦い。連合の圧倒的勝利で幕を閉じる。御内儀も一緒に聴いてくれないか?」
「たったひとりでいい度胸だな。妻の名、俺の戦斧を持ってこい。出陣前の生贄だ!コイツを叩き斬る」
「殺すなら殺せ! だが、私はエルフィン族の存続とアスガルドの真の平和の話をしに来ている」
「何……俺たちをエルフィンだと……?」
アスガルド史上、ダークエルフィンをエルフィンと最初に呼んだのはヴァーレンハイトである。
「あ、あなた……ヴァーレンハイト様の話を聞いてみては?」
動揺する妻、族長の娘でもある。
そう、どうみても戦えばフレイムのダークエルフィン族は滅びるのである。
「仲間になるなら、ガイメッツァー……卿を連合軍准将として迎え、男爵の爵位も用意するとノワールハイム閣下は話している」
「バカな……こんな数千のダークエルフィンの兵を率いる俺が連合の将軍になれるわけ……」
「信じられぬのなら殺すがいい」
ヴァーレンハイトは帯剣した剣を鞘のまま、ガイメッツァーに渡す。
「ノワールハイム閣下から賜った聖剣ソウルオブナイト……卿に託す。戦争が終わるまで……否、アスガルドの子供たちが飢えぬ平和な世界になるまでな!」




