③岩竜グレイブディガー
グレイブディガーは、黒い戦士を待っていたように砂漠の中で佇んでいた。
黒い戦士の姿に気付くとその一角で突き刺さんと突進を開始する。
女戦士はこの戦いからは距離を取る。
黒い戦士は雑嚢から円筒缶を取り出し、地面に放り投げる。
突進はギリギリまで引き付ける。
突進の軌道上を見切るためだ。
角が黒い戦士を串刺しにする直前に慌てて身を翻して、左に避けた。
「ヴォオオオオオォォォォォォォォッ!?」
グレイブディガーは地面に無造作に設置された円筒缶を踏み抜く。その巨体に強烈な電撃魔法が炸裂した。
この円筒缶は攻撃魔法を施した地雷〝ヴォルトマイン〟。
踏んだ瞬間にA級雷魔法テスラが発動し、敵を攻撃する。
円筒缶に電撃魔法が採用されたのはドラゴンが一瞬でもショック状態で痺れさせる隙を作るためだ。
ここで魔法使いや弓使いの仲間がいれば一気に間接攻撃の雨霰なのだが、相手はドラゴン。
黒い戦士はグレネードを敵の頭部目掛けて撃ち込んだ。
―――――ドオオォォォンッ!!
「ゴゴオオォォォォォッ!!」
巨体が仰け反る。
サンドサーペントとの戦いで本来は刃を通さないその鎧もダメージが蓄積されていたのか、頭部から血飛沫を上げて苦悩の叫びをあげた。
ドラゴンスレイヤーがグレイブディガーの頭部に叩き込まれ、砂漠を赤く染めた。
グレイブディガーは角を左右に振り、黒い戦士を振り払うが、これはドラゴンスレイヤーでしっかりとガードして耐えきる。
かつてこれほどまでに戦いで自分を苦しめた戦士などいなかった。
全てを破壊してきたドラゴンにとって、目の前の敵はまさに〝ドラゴンを倒す戦士ドラゴンスレイヤー〟
「ヴオオオオォォォォォォォォォォォォアアアアアアッ!!」
再びドラゴンブレス。生態系の頂点に君臨するドラゴンの雄叫びに怯まない生命体はいない。
黒い戦士でさえ、堪らず頭を抱え込む。
目を離せないが、大気を揺るがすそのブレスに抗えない。
グレイブディガーは地面の砂を掘りはじめ潜り始めた。
逃げたのではない、地中から黒い戦士を襲う作戦だ。
地震のような地響き――――――
地面から長大な角が飛び出してきた。
先端に敵を感知する何かが備わっているのかと思うほど正確に足元から突き出てきたそれを躱すが、頭部には巻き込まれ、黒い戦士の身体は宙を舞っていた。
「どはっっ!!」
声にならない悲鳴。
長い浮遊の末に地面に叩きつけられる。
女戦士は目に涙を浮かべながら、見守る。
今の自分にはそれしかできないのだから。
――――ギイイィィィィンッ!!!!!!!!
グレイブディガーはその角を正眼に構えた剣のように倒れた黒い戦士に振り下ろした。
角をドラゴンスレイヤーで受け止める。
だが、力の差は歴然。
さらにもう一度勢いをつけて叩き込んでくる。
ドラゴンスレイヤーごと黒い戦士を叩き潰すかの如く。
「ぶはあぁぁっ」
圧殺されるほどの攻撃で吐血を吐き散らす黒い戦士を睨むグレイブディガー。
我のツノに耐える剣だと……?
サンドサーペントどもやダークエルフィンどもの乱入があったにせよ。
ここまで我を追い込んだ戦士はいない。
―――んっ!?
「ウオオオオォッ!!」
ガイメッツァーが雄叫びをあげながら、グレイブディガーの顔面にゴールデンアックスを叩き込んだ。
だが、戦斧は角でしっかりとガードされてしまい、さらに角でエルフィンの戦士は突き飛ばされてしまう。
その隙を黒い戦士は見逃さなかった。
――――ドゴゴォォォォォォォンッ!!
「ゴモオオォォォォォォォォォッ⁉」
黒い戦士はその刹那に至近距離でグレネードが火を噴いた。
肉薄する距離でグレネードを顔面に受けたグレイブディガーは大きく仰け反り、黒い戦士は解放される。
「はぁはぁはぁはぁ……」
黒い戦士はドラゴンスレイヤーを棒代わりに立ち上がり、肩で大きく呼吸する。
口からはどんどんと血が溢れ出る。
「何で助けた?」
黒い戦士は歴戦のエルフィンに問うた。
「……お前を殺すのは俺だ。ドラゴンの餌にしてたまるか」
エルフィンの戦士は応える。
知らない第三者が見れば、それは共闘する戦友。
黒い戦士はガントレットに力を込め、薬莢をパージすると雑嚢からグレネード弾を取り出そうとするが、弾丸はなかった。
「弾切れか?」
エルフィンの戦士の言葉に黒い戦士は軽く頷くだけ。
ダメージによる体力の消耗を感じさせなかったグレイブディガーもその姿からは手負いのドラゴンであることがわかる。
ドラゴンである以上、この勝負から逃げることは許されない――――
「ゴオオォォォォォォオォォォッォオッ!!!!」
グレイブディガーが天を仰いで咆哮をあげる。
最後の力を振り絞る自らに向けられた意思に思えた。
グレイブディガーが翼を大きく広げる。
巨体を沈め、その両脚に全ての力を込めて特攻するかのように走り出した。
黒い戦士はドラゴンスレイヤーを真っ直ぐに構え、同じようにグレイブディガーに向かって走り出す。
その隣にはエルフィンの戦士も続く。
走りながら距離を見切り、角を躱す。
それでも頭突きを食らえば、巨大なゴーレムと正面衝突するのと同じである。
全身の筋力の全てを乗せてドラゴンスレイヤーを突き出した。
そこは開戦当初から集中攻撃した頭部。
サンドサーペントの牙も功を奏してダメージを負った場所だ。
ドラゴンスレイヤーの先端が激突する。
黒い戦士のドラゴンスレイヤーによる渾身の一撃とグレイブディガーの特攻の全ての力が一転に凝縮、集中した。
すさまじい衝撃で黒い戦士の意識は飛ぶ。
ドラゴンの力で戦士はあっけなく突き飛ばされた。
「ぐええぇえぇ」
受け身も取れずに地面に叩きつけられて、大の字に倒れ、口から血が溢れ出る。
このまま気絶したい。
だが、ドラゴン相手にそれは死を意味する行為。
ドラゴンスレイヤーはない。
「ウゴオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッツッ!!!!」
まさに大気が震える。
絶叫。
グレイブディガーの額に刺さる大剣ドラゴンスレイヤー。
そのドラゴンスレイヤーを更に額に杭打ちするように高々と飛んだガイメッツァーはゴールデンアックスでドラゴンスレイヤーを突き込むように叩き込んだ。
ドラゴンの額に深々と刺さるドラゴンスレイヤーとゴールデンアックス。
グレイブディガーは断末魔の叫びと共に大きく伸びあがる。
眼に灯る炎が消えると地響きと共に砂漠の上に没した。
グレイブディガーは徐々に魔素となって大気に溶けていく。
やはり、ただのグレイドラゴンではない。
魔素となったということは悪魔化していた。
これは意図的に何者かがグレイドラゴンを魔改造していたことになる。
だが、ここは戦場。
その様子を伺っていたサンドサーペントの群れが一気に黒い戦士とエルフィンの戦士に襲い掛かる。
スメディーは飛び出し、黒い戦士をサンドサーペントから守るように戦い始めた。
ガイメッツァーは帯剣していた聖剣で向かってくる大蛇を難なく斬り飛ばし、黒い戦士の元に歩み寄る。




