②戦士ガイメッツァー//怒り
イシュタルの戦いに勝利した。
それは複雑な捉え方だったが、多くの犠牲を出したことは隠せない。
ノワールハイム派連合軍の主力がイシュタルに到着してから、2日後にサイラ―ジュの神殿騎士団を伴ってブランシュバイク派連合軍が到着する。
その神殿騎士団に慰霊祭として連れられたひとりの少女。
至高神の神託を受けたと言われる少女は幼いながら、多くの奇跡をもたらせるという。
「あんな子供まで……戦争に利用しようってのか」
ガイメッツァーがつぶやいた。
だが、奇跡は起きた。
少女の祈りから発する光が広がり、多くの戦傷兵のダメージがどんどん回復していくのだ。
それだけではない。
この温かな熱……ガイメッツァーの熱くたぎる怒りの心ですら、適温に戻されていくように。
「バ、バカな……こ、こんな奇跡が……」
そしてブランシュバイクが口を開く。
その隣には副盟主ではなく、総大将のレオンとサイラ―ジュの高司祭チンコシコルノスキーが並ぶ。
「ヴァルハラント帝国の専制主義を打倒するため、立ち上がった英雄たちよ! 自由な社会と、その保障する国家を築くため、死を恐れずに戦う英雄たちよ! 愛する家族を守るために戦う英雄たちよ! 帝国を倒せ!暗黒皇帝ガイゼリックを殺せ! 連合万歳! 自由を手に入れろッ!!」
聖女の奇跡のあとである。
多くの兵が我を忘れて、10万を超える兵の両手を天にめがけてあげる。
歓声で沸き上がるイシュタルは、ほぼ敗戦の地だというのに。
ガイメッツァーは万歳をしなかった。
「貴官、なぜ、万歳をしない?」
そういうのはローザリアの士官だ。
ガイメッツァーと同じく准将の階級章をつけている。
目線を一切外さずに睨んだままガイメッツァーは応じた。
「万歳したくない自由を行使したまでだ」
「なんだと!? ブランシュバイク公の前で無礼は許さんぞ」
「無礼? 俺たちは主従じゃない。打倒帝国を掲げた同志。それに、この戦いで多くの仲間を失ったのに、なんで万歳なんかできる! イシュタルには多くの同志の遺体が倒れたままなんだぞ!」
「き、貴様……ダークエルフィンの分際で!」
士官が腰の剣に手をかけたとき、それを青い騎士が制する。
青い騎士は何も言わなかったが、ローザリアの士官は彼を知っているのか「ふんっ」とその場を立ち去った。
銀髪の戦士は青い騎士の手を払うとブランシュバイクの演壇へ向かっていく。
「ガイメッツァー!」
ナーシェルはガイメッツァーを羽交い絞めに止めた。
「お前はどこにいた?」
ガイメッツァーはブランシュバイクの前でつぶやく。
「俺たちが戦っているときに、元帥のお前はどこにいたんだッ!!」
その怒号とともに警備兵が走り寄る。
そして――――――
「なんで、ここに下賤なダークエルフィンがいる!?」
ブランシュバイクの言葉は、連合のために命懸けで戦い、同族まで殺したガイメッツァーの心を再び燃え上がらせた。
それだけではない。
後方いるフレイムのエルフィンたちは一斉に武器を構える。
ここでノワールハイムが口を開いた。
「訂正しろ!ブランシュバイク!」
「やはり、貴様の手下か? ダークエルフィンまで、森から引っ張り出して来たのか? しかも将軍職とは、グランベルには有能な将軍がいないのだろうな。聞いた話では騎士団長もここで死んだそうじゃないか」
「ウオオォォォッォォォッ!!」
ガイメッツァーは再び叫ぶ。
何が正義なのか?
族長を殺し、その際に多くの血族も殺した。
もう後戻りはできない。
「こ、こんな奴が……こんな奴が……連合の盟主なのか!」
ガイメッツァーはゴールデンアックスを握り、ブランシュバイクに突っ込む。
――――キィィィィンッ!!
光の斧を受け止めたのも光の剣だった。
「引け、ガイメッツァー! 慰問の場だぞ」
人が変わったようなレオンの正論。
この瞬間、ガイメッツァーは悟った。
帝国を倒しても戦争は終わらないことに。
そして戦いはレフガンディーの死闘に突入し、ガイメッツァーはイシュタルの戦い以降はヴァーレンハイトの赤い鎧を着て、大戦を戦い抜いた。




