プロローグ
――――ガンガンガン。ガンッ!
目の前で丸太のような腕、切り株のように太く矮躯な身体の鍛冶屋のオヤジが金槌を振るう。
剥げかかった頭に燃えるような赤い髪が僅かに残り、伸びる耳、炎属性のエルフィン。
「終わったぞぃ」
「ありがとな。おっさん」
鍛冶屋から戦斧を受け取る女戦士も銀髪を伸ばし、オヤジと同じく筋骨隆々で尖がる耳はエルフィン族。
彼女は古に魔神ネメシスを崇拝した名残りで褐色肌である。
かつてはダークエルフィンと蔑まれた存在だが、十余年前の大戦で帝国軍に連合軍が勝利してから彼女たちを「ダークエルフィン」と呼ぶ者はいない。
ダークエルフィン族は連合軍に勝利をもたらせ、その功績から種族の上下という認識は大陸から風化しつつある。
「最近は斧なんて、重いし、戦争じゃあるまいし、対モンスター戦で使うヤツが少ねぇからな」
戦斧は重いが、絶大な破壊力を持つ。
特に槍に対して竦み上、有利に働く。
戦乱で多く用いられるのは長槍だ。
歩兵も騎士も空を駆ける竜騎士も一般的には槍を装備し、その槍を投擲したり、壊れて失ってから帯剣した剣を使う。
その槍の攻撃に対し、斧は10%の能力減の効果がある。
そして、槍と違い斧は投擲してもブーメランのように戻ってくるため、関節攻撃にも対処できる万能な武器としては重宝されるハズである。
大戦も終結し、西のローザリアと東のグランベルの冷戦時代たる現在において、わざわざ重い戦斧を装備する戦士といえばアスガルド中央都市エスタミルから東南に進んだグランベル領の砂漠と森の国〝フレイム〟のエルフィン族ぐらいだろう。
1000年程前、王朝の不安定なアスガルド大陸で時の勇者に砂漠の地を開拓するように命ぜられたダークエルフィンの女王ハイウェルラインは壊滅状態であったダークエルフィン族と鬼人族をまとめ、砂漠の地に水の精霊ウィンディーネを放ち、森を築き挙げた。
勇者がエスタミルをバルハラント帝国と名を改め、砂漠の地はその隷下に治まっていたが、十余年前の大戦時にダークエルフィン族は帝国ではなく、自由と理想を掲げた連合軍に加勢する。
連合軍が勝利する頃には大陸からダークエルフィンと言う呼称は自然と消えていた。
鍛えられた戦斧を受け取るエルフィンの女戦士はオーガの血も流れる。
冒険者となって、幾戦の修羅場を潜り抜けた女戦士の名は〝スメディー〟。
「この戦斧は、親父がノワールハイム王から賜った1000年以上前の斧なんだ。古のエルフィン族の戦士が使ってたんだって、その戦士の名前を取ってこの戦斧は〝マイダスメッサ―〟って呼ばれてる」
マイダスメッサーを受け取り、その刃の輝きを確かめる。
「これならドラゴンとも戦えそうだ」
「無茶言うんじゃねぇ。ドラゴンってのは倒せねぇからドラゴンって呼ばれてんだぜ」
鍛冶屋にブロンドヘアーに三つ編みをしたギルドの受付嬢メルルが駆け込んでくる。
その彼女も尖がり耳、エルフィン族の女の子だ。
「ス、スメディー!」
かつては争ったエルフィン族とダークエルフィン族。
連合が勝利し、平和になり、種族の上下がなくなった今でこそのやりとりに大戦中に従軍した鍛冶屋は古傷を撫でながらほほ笑む。
「貴方の故郷でしょ? これ……」
受付嬢が女戦士に渡す、依頼書にはドラゴン討伐と書かれている。
そして、その依頼者は彼女の故郷である森と砂漠の国〝フレイム〟と記載されていた。
「な?フレイムにドラゴン……なんで?」
依頼書を見て驚愕する女戦士。
さらには誰かが既に請け負ったのか、承認印も押されている。
そしてメルルに遅れて、黒い影が現れる。
その黒い鎧にはヒビが入り、マントは破れている。
そして、その黒い影が持つのは鉄塊のような大きな大剣。
「その依頼は俺が受けた……」
「ドラスレ!」
黒い影は黒い鎧に身を包む戦士だった。
スメディーは少女のように男の胸元に飛び込み、顔をあげる。
だが、素早くレフリーのようにメルルが両者を割った。
その頬は赤く膨らんでいる。
「なんで? これはフレイムの問題なのに!」
「お前が悲しむからに決まってるだろ」
彼に名はない。
ただ、その大剣がドラゴンスレイヤーと呼ばれている。




