003
その後、子供からもしかしてっていう情報として、捜索団に話が繋がり、すぐに高須君は保護された。
僕は安心しながらも、完全にブチ切れていた。
自分の両親に、もう眠いから寝るねって伝えて自室に籠る。
すぐに別の虫に入って、長瀬君、いや長瀬の家に向かう。
長瀬の家は同じ地域で有名だから覚えている。
家の前に来ると大人が数人で、玄関の前で揉めている。
「うちのガキが悪いっていうのか!このガキが!」
って言いながら長瀬の父親が、長瀬の頭を何回も引っ叩いている。
「おい!やめろ!自分の子供を何だと思っているんだ!」
まわりが制止しても長瀬に蹴りを入れている。
「俺はやってねえ!やってねえよ!」
「てめえ、嘘だったら殺すぞ!おい、うちのガキはやってねえって言ってるぞ!てめえらうちのガキのせいじゃなかったら分かってんだろうな!!」
「何人もの生徒が目撃している。お前のところの子供がリーダーになってイジメっ子集団を作っているのを、みんな把握しているんだ!」
「はぁ!?その証言したガキはどこのどいつだよ!家教えろ!」
もの凄いワチャワチャだ。
長瀬を見るとかなり強くボコられたみたいに見えたけど、俯いて笑っている。演技だったのか。
母親らしき人物が、玄関の中から見ている。
集まった人たちを完全に馬鹿にした態度で、腕を組んで仰け反るようにして見下している。
金髪でボサボサに広がったパーマで、片方の肩が出たルーズな服、いかにもな女性だ。
「うちのガキが悪くなかったら、てめえら全員訴えるからな!!」なんて罵声を浴びせている。
無茶苦茶な怒りが湧いてくる。
この両親がいる限りダメだ。
近くにいるムカデを探すと、集められる事に気づいた。
強い感情で欲すると、新しい能力が手に入る。
近所中のムカデを招集する。
それも大きいのじゃなくて、かなり極小のものまで全部一度に意識に入って指令を出す。
更にこの時に、自分が探したり呼び寄せたりする範囲が格段に広がっている事に気づく。
100m?200m?いや、怒りに任せて強い感情で呼ぶと遥か遠くまで届く。
凄い広さになっている。
ムカデに、まずは車のタイヤを自分で出来る限り引きちぎって、腹が減ったら自分の居場所に帰るように指示。
トコジラミとサシガメをゴム攻撃部隊に追加。
噛む力が強いこいつら数千匹なら、一時間もかからないでタイヤがなくなるはずだ。
トコジラミは部隊を分けて車の中に侵入させて、布製品や革製品など食いちぎれるものを手あたり次第に襲わせる。
次にシロアリを探す。
近くの廃屋になっている場所に、かなりの群れが居た。
10万匹を超えている。働きアリ全てに指令を出す。
長瀬の家を食い尽くせ。
まずは土台と地面に近い壁に穴を開ける事を優先。
次に柱と梁の結合部を食いちぎれ。
とりあえず、この状態で近くのハエに入って家の中に入る。
視界共有だけ生かして、時間が経つのを待つ。
30分程で抗議していた人たちが帰ったらしく、長瀬親子が戻って来た。
親父が長瀬の頭を引っ叩いて、
「おめえも俺のガキなら、バレるようなやり方してんじゃねえ!なんでもっと上手くできねぇんだ!次に面倒かけたら、本気でブチのめすぞ!」
って怒っている。
「ほんとにさ、騒ぎにするの止めてくれる?面倒増やすんじゃねーよ、クソガキ」
「おい、クソガキって言うんじゃねえ!俺のガキだぞ!」
「大体あんたのかーちゃんが逃げ出したのも、ガキがバカだったからだろ、あたしはこいつの面倒なんか見ないからね。学校から呼び出し有ったら、あんた行ってよね」
本当に酷い家族だ。
長瀬は悔しそうに蹲っている。
まあ、情状酌量の余地は無いけどね。
親父と継母は酒を飲んでいる途中だったのか、一緒に酒飲みを再開する。
タバコの煙と一緒に変な匂いの煙が充満していて、家中が臭い。
長瀬は自分の部屋に戻ったみたいだ。
長瀬の部屋に入ると、小さい声で呟くのが聞こえてくる。
「あのやろー、許さねえ・・・高須のやろー・・・」
高須君を家出どころか自殺未遂まで追い詰めた上に、逆恨みしている。
長瀬がベッドで眠りに入り、両親が泥酔するまで待った。
表のムカデ部隊を見ると、タイヤは完全に消失している。
車の中はシートの表面が無くなって、スポンジが全部出ている。
ハンドルも骨だけだ。これで逃げ出す事は出来なくなった。
シロアリ部隊の一部を家の中の電線に集中させて切断。
噛むときに身体を宙に浮かせる事を徹底。
そうしないと感電するし、下手すると発火しちゃう。
まずはカメムシを招集。
もの凄い数で総数を把握できない。
数千匹のカメムシで家の裏手の小さい庭が埋め尽くされる。
シロアリ部隊がすでに土台の一部と壁に穴を開けているから、虫は入りたい放題だ。
家の表の道路側には行かないように誘導して、近所の人間に、万が一にも見られる事は無いように裏側から向かわせる。
カメムシ部隊には、まずは匂い液をあらゆる場所で出す事を指示。
次に窓や玄関など出入口の全ての付近に集まる事を指示。
次はゴキブリだ。
もう気持ち悪いなんて思わない。
大量の近所中のゴキブリを招集、ゴキブリも総数が分からない。
カマドウマ・ヤスデなどを招集。仕事の終わったムカデも再招集。
次にメスの蚊を集めた。
蚊は凄い。
何万匹居るのか全く分からない。数が圧倒的すぎる。
家の周りの空が黒いうねるオーラに包まれている。
家に突入させ攻撃開始だ。
蚊に刺したいだけ指すように指示。
他の虫に口と肛門から体内に侵入するように指示。
長瀬が全身真っ黒になって暴れている。
ゴキブリに襲われて聞いたことも無い声を上げている。
蚊が何匹も死んでいるから神様に能力を奪われるかも。
両親も蚊に覆われて暴れている。
最初、刺されても襲われても反応が薄かったから、長瀬に比べると全身がすでに腫れている。
蚊を叩き落しても、目の周りが腫れて何も見えていないみたいだ。
ゴキブリやカメムシが身体にまとわりついて、口の中にも入って吐きまくっている。
全員が半狂乱で半裸になっている、身体中を掻くと蚊が潰れて血まみれになる。
出血多量まではならないかな。
顔はもちろん全ての皮膚がボコボコに膨れ上がっている。
頭皮や耳の中まで刺されているみたいだ。
外国のホラー映画に出てくるモンスターにしか見えない。
大人2人は異常な暴れ方で、一番まともな長瀬が外に引っ張り出そうとするのを、腕を振りまわして弾き飛ばしたりしている。
長瀬が先導して、何とか3人とも必死に大声をあげて外に出て来た。
蚊がまとわりついて黒いオーラを纏っているみたいだ。
ヤスデやゴキブリが身体中を這っている。
車に乗り込む時に、シートとかに気付くかと思ったけど、そもそも目がほとんど見えてない。
エンジンをかけて一気に爆速でスタートする。
ガラガラガラガラガラ!!!!
深夜の住宅街に信じられない大爆音の、ホイールがアスファルトを擦る音が響く。
車は動き出しが遅かったが、そこから急に加速して、電信柱に突っ込んだ。
気絶した3人を、虫が徹底的に蹂躙している。
男女問わずに顔中と乳首と肛門と局所をズタズタに噛み千切る事を指示。
口の中はもちろん身体中の穴は、ゴキブリやムカデだらけだ。
耳と目への攻撃を禁止する。死なれてはたまらない。
同じく体内への本格的な侵入も禁止する。
食道や胃に入ったり、直腸に入る事も禁止だ。
ヤスデに噛まれ、カメムシに刺されて身体中から出血している。
車が突っ込んだ音が合図の様に、家が傾く。
メキキキっていう音と共に土台を失って、柱と梁の結合部を優先的に齧られた家が変形する。
家が平行四辺形のように斜めになって止まる。
今日はここまで。
全部の虫に一斉に逃げるように指令を出して、逃亡後は通常の生活に戻るように指示。
僕は近くのハエに入って、続きを見つめた。
警察と救急車が来た時には、潰された蚊とカメムシとゴキブリの残骸以外は、異常な状態の家と車だけが残っている状態になった。
3人は救急車で運ばれて行った。
全身が血まみれでパンパンに膨れ上がった3人を見て、救急隊員が原因がまったく分からなくて混乱していた。
これは後で分かる事だが、この両親はドラッグでつながっていて、家中にこびり付いた匂いはそれだったという。
警察が乗り込んで薬物の使用がバレて、子供の長瀬からも煙を吸ってしまっていたからか、微弱な薬物反応があったという。
虫に襲われた話は、定番の幻覚を見たという話で落ち着かせるしか無かった。
家の倒壊、車のタイヤや中身がボロボロだった件、3人が一度に大量の蚊の毒を摂取し、カメムシの匂い液などを経口摂取したせいで、一時危なかった件は疑問視されたが、虫のやった事を裁く方法もない。
幻覚だとでもしないと、調書どころか報告書の一枚も作れない。
両親が逮捕されたので、長瀬は県をまたいで遠くの児童矯正施設に入った。
県内の施設では、長瀬の症状を受け入れることが出来る場所が無かったらしい。
追跡させた虫で様子を見る。
薬物反応があった上に本人が暴れて、ありとあらゆる人にカタコトで復讐の言葉を吐いている。
どんな虫を見ても、それこそハエを見るだけで身体中が震えて嘔吐・失禁する。
ゴキブリに見える黒いゴミを見ただけで気絶する。
肛門括約筋はズタズタで治らないので人工肛門手術が行われ、千切れた性器は切除されて排尿機能のみ残った。
通常の生活に戻れる目算は立たない。
完全に壊れたらしいので追撃は勘弁する。
このままどこかの隔離施設で過ごす事になるだろう。
実の親の両親、つまり祖父母はどちらも引き取りを拒否したらしい。
両親は服役中なので続報は無い。
後々、言葉も話せなくなっていたっていう噂が聞こえてきた。
まだ意識も戻らない入院中の病院で、警察が薬物使用で捕まえる事が分かってから、それで良いかと思って監視を解いてしまったので、その後が分からない。
性器の損壊などは長瀬より激しいはずだ。
この家族の親族の事は、実際に虫を使って色々と調べた。
祖父母2組が、後に正式に引き取るのを拒否する場面や、その後の2人の会話。
また親の兄妹などの対応なども見た。
最初に警察が電話をした時に、祖父母2組がどちらも引き取りを拒否したのが、僕にはそれなりに衝撃だった。
こんな家族がいるのかと驚いて、この家族が今後の重要なテストケースになるって思ったのだ。
この件で学んだのは、ドキュンを育てるような親は、本人はもちろん、その回りもどうしようもない人間で固められているって事だ。
親族にもまともな大人はいなかった。
自分の都合と見栄と愚痴、家族の危機よりパチンコや酒を飲むほうが優先だ。
家族の心配などは一切無く、迷惑をかけられた事に怒るだけ。
原因を自分の妻や夫のせいにして、その後は別の家族のせいにして、自分は悪くないと強硬に主張だけする事で責任を果たしたような態度を取る。
この時に観察した祖父母2組・ドキュン父の兄妹・継母及びその親兄妹・実の母親本人と兄妹、全てにただの1人もまともな人間はいなかった。
誰一人、虫に襲われた3人を助ける人間はいなかった。
駄目な家族はずっと再生産され続ける。
悪い環境から良いものが生まれる可能性も高いと思う。
劣悪な環境をバネにして成功した人の話は、僕も好きでよく読む。
だが、悪いものが生まれた場合は、悪い環境なのはほぼ確定だと思っていい。
サイコパスみたいな先天的な人物が、良い環境に生まれる事もあるのかも知れない。
でもそれこそそんなパターンは、環境を見れば、本人の異常性由来か、環境の所為かがはっきり分かるはずだ。
サイコパスのような特殊な事情じゃなく、どうしようもない親が、どうしようもない子供を育てて、延々と繋がる一族が普通にある。
こんな連中を存在させる必要性は、ほんの微塵も感じられなかった。
積極的に攻撃する気は無いが、何か他人に迷惑をかける行動を取った際に、手加減をする必要性も、ほんの微塵も感じられなかった。




