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地球はゆっくりとだが再生し始まっている。

元3国の自然公園化や砂漠の緑化、土壌改良による焼き畑農業の不必要化や、ヨーロッパや中東のはげ山の再生などで、地球全部の緑地割合は従前の8%から17%まで増えている。

海中の海藻の復活も順調に進み、地球の酸素濃度が上がりつつあり、干ばつや猛暑などの異常気象の発生も収まってきている。


表に出る事はないので一部の人にしか知られていないが、僕の所有している特務機関のシンボルマークは、夏の青空の水色にコクワガタの白い切り抜きだ。

スラリン、君と出会ったおかげで、僕の人生は実に有益なものになった。

僕は君がくれた能力に・・・君がくれた愛情に、少しはお返しが出来たんだろうか。


国民はみんな虫が有益で、とてもありがたいものだって感じている。



僕が死んだ後に能力が消えて、世界がどうなるだろう。

その悩みが人生の後半の課題だった。

水質や土壌の浄化などは、虫への指令を永年版としてすでに与えている。

だがそれも、気候の変動などで無効化される場所も増えるだろう。

僕が死ぬと同時に、指令が消える可能性もある。


人が細かく状況に合わせて指示をしなければ、バランスは戻せない。

その事を知るための研究に、膨大な時間を費やした僕が、一番良くそれを知っている。

他の人間やシステムから、最適な指令を最適な虫に出すために、日本独自のAIを使った大掛かりな機械も作ったが、まだ成功には至らず、単純な僕へのアドバイザー以上にはなっていない。

僕が昆虫に指令を出したりする際の、虫と繋がる力は、何種類かの通信方法に乗せられる事までは分かっているが、その力自体は、まだどんな機器でも測定できない。

僕の能力を介さなければ何もできない・・・


この先、日本の優位は徐々に消えるだろうが、盛者必衰は世の常だ。

これも、しょうがないのか・・・



物思いから戻って、車の外の景色に意識を向ける。

ビオトープからの帰り道に、買い食いに通った店が見える。

小2の孫と一緒に、久々に地元に寄った。

講演のついでという態で、たまに顔を出している。

地元の名士のはずの僕が、経歴を変えて出身地を公表しないことを、納得がいかずに怒っている高齢の方々も多い。

この地元を恥だと思っているなどでは無いのだが、説明も出来ないのは苦しい。


事情を察している人も何人かいる。

そういう人たちにたまに会いにきて、昔話に華を咲かせるのが好きだ。

今日は高須病院の院長室で、何人かの昔馴染みと集まる予定で来た。




着いて早々に外に飛び出した孫が、やけに興奮して帰ってきた。

ちょっと癖っ毛の前髪が、汗でおでこに貼り付いている。

「お爺ちゃーん!!こいつ僕の胸に飛んできてとまったんだよ!!」

見ると孫の肩に見慣れたフォルムのコクワガタ。


日本では珍しい僅かな赤み、角の内歯が大きい。


総毛立つ、全身の肌が粟立つ。

驚いてすかさず入るが、血統などは分からないのを失念していた。

でも可能性はある。子孫は残せたって言っていた。

膝立ちで孫の肩を掴む手の平に、汗が吹き出す。


まさか、まさか・・・目をジッと見ると、コクワガタが片手を上げた。




「この・・・このコクワガタを大切に大切に育ててごらん。きっといい事があるよ・・・」

「うん!!!」

窓を見上げれば、滲んだ景色の中、夏の空が広がっていた。



(了)






御高覧頂き、ありがとう御座いました。

次の機会があれば、また読んで頂ければ幸いです。

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