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夏休みが開けて初日。
学校に行くと僕がスラリンを連れていない事に気づいた友達が、驚いて声を掛けてくれる。
スラリンは学校でも一切問題を起こさなかったから、先生も公認で一緒に居させてくれた。
昆虫と人間がこんなに意思疎通が出来ているのは凄い事だって、先生も皆に話していた。
スラリンが亡くなった事を告げる時に少し泣いちゃった。
みんなは優しく声を掛けてくれた。
昆虫に入る能力を使って、授業中に空を飛んだり、ハエに入って職員室の中を見て回ったりする。
職員室では授業の無い先生が居眠りしていた。
いつもは厳しいタイプの先生が和やかに笑って話している。人間観察面白いぞ。
体育館の裏をトンボに入って通った時に、一人の生徒が蹲っているのが見えた。
一つ上の6年生の高須君だ。
僕の学年ではイジメは無いけど、高須君はイジメられっ子だ。
休み明けの今日も、6年生の不良グループにイジメられたんだろう。
通学中に蹴られたり、公園で殴られている現場、それに親の財布から金を取ってくるように指示されたり、万引きをさせられているところを、下級生の僕らも目撃している。
イジメグループは6年の長瀬君を中心に、男子3人女子2人で構成されている。
長瀬君の親は典型的なドキュンっていわれるタイプで、真っ黒な大きい車で、信じられない様な大きい音で音楽をかけて町を走っている。
前にママと一緒の時に通ったコンビニの前に居て、ママから絶対に関わるなって注意をされたことがある。
高須君はオタクっぽいけど下級生に優しいし、子供会のキャンプの時とか色々教えてくれて、凄く良い人だ。
理由が分からないけど、高須君がイジメを受けているのが本当に理不尽で腹が立つ。
トンボを動かして高須君の前でホバリングしたら、気が付いた高須君が指を出してくる。
捕まって殺されたりしたら大変だけど・・・高須君なら大丈夫かな。
それにトンボの反射速度なら、人間に捕まる事は絶対に無いって分かっている。
昆虫の本能なら捕まる事もあるけれど、僕の意識で動くなら、誰にも捕まる事は無いはずだ。
指にそっと停まって捉まると、高須君が笑顔になる。
少しの間トンボを見ていた高須君は、指をそっと上に押し上げてくれた。
その反動で飛び立って、近くに居たハエに入る。トンボは高く飛んで行った。
高須君の顔が少し明るくなって、体育館裏から出ていく。
少しは元気になったかな。
その日の夜に、親に連絡網が廻って来た。
生徒が行方不明だから、仲の良かった生徒や、少しでも繋がりのあった生徒、同じ地区の生徒に一斉に廻って来たっていう。
驚いた!高須君だ!
夏休み明けの初日に変わらずイジメに合って、家出したっていう話だ。
誰も居場所を把握できていない。
これは緊急事態だ!
自分の部屋に急いで戻って、夜行性の複眼持ちの昆虫、カブトやクワガタ、カナブンなどの虫で近くにいる虫を探す。少し離れた場所にカブトが飛んでいた。
その視界に入る、でもこれじゃ思う場所に行けない。
いや、行けるけど、どこに向かえば良いかが分からない。
夜間は見え方が違うのも厄介だ。
もっと夜間の練習をしておけば良かった。
輪郭が強調されるような見え方で、人間の目との違いが出る。
大きい壁や視界一杯の布などの平面を前にすると良く分からないし、細い障害物が見え辛い。
ただ、相当に薄暗くても見える。
まいった・・・この子は明かりのある町に向かっているみたいだ。
どんな見え方でも行き先が分からないんじゃ、偶然に賭けるしかない。
どうすれば・・・
焦っていると、目の前を一匹のカナブンが飛んでいるのが見える。
どっちも見たい!って思ったら、視界が2つに分かれた。
え!?こんな事出来たの??
まさか!!
目に付く虫の視界に入ろうとすると、どんどん視界が分割されて、まるで一番初めに見たモニターが並んだ見え方だ。
それぞれのモニターに別の映像が浮かんでいる。これは凄い!
これを使えば高須君を探せるかも。
近くを飛んでいる虫の場合は片方を切って、別々の方向で新しい虫が見つかると加えていく。
下界では大人たちが大声で高須君を呼んでいるのが分かる。
けっこうな人数が探している。
これだけの大人が探して見つからないなら、街の方にはいないのかも知れない。
僕が探すなら山の方だ。
四方八方に飛んでいる虫を適当にピックアップして、視界だけ繋いで放置する。
どこかに留まって動かなくなったら飛ばせるか、見つけた別の虫の視界を入れる。
これで町中に視界を持つことができる。
その上で意識を集中させて選抜した数匹を山に向かわせる。
街から小学生が向かえる山は、大きく分けて2方向だ。
高須君の家は僕と同じ子供会だから、近い方の山に先に意識下の勢力を向かわせる。
明かりのある街に向かう虫たちに山に向かうように動かそうとすると、一匹ずつしか動かせない。
指令を出して従わせる形にしたいって思ったら、虫が一斉に山に動く。
一瞬だけ全部の虫の意識に入って、指令だけ出して抜ける感じだ。
また新しい能力が開眼した。
目に付く虫にどんどん乗り換える。
指令で動く虫のお腹の空き方が把握出来なくなっている。
もしかしたらこの指令のせいで殺してしまうかも知れない。
指令で動く虫をどんどん乗り換えて、常時20匹くらいで山に向かう。
山に入ってからは虫が大量にいる。
指令を出すと飛べる虫は飛んでくれるから、どんどん切り替えて山道を登る。
途中に今は誰も来なくて、朽ちた神社があったのを思い出して何匹かを向かわせる。
居た!!
神社の裏側に高須君がいる。
しゃがみ込んでいる。
高須君が真っ黒な目で暗闇の中で、もう死にたい。自殺したいと呟いている。
一旦カナブンの1匹だけを傍の壁に留まらせて、視界共有だけをワイプにして他の虫を解放。
これで高須君を見失う事は絶対に無くなった。
「パパ―、高須君のいる場所、もしかしたらあそこかもー」
大声で伝えに行った。




