018
夏休みの終わりに、生物部の部長を、昌に変更する提案をされる。
正直このまま行くと問題だと思っていたから、非常に助かる。
僕の名前は、出来るだけ出したくない。
2人ともにその危険性を心配していたそうだ。
夏休み明けに、学校に部長の変更届を出して、名義だけ変える。
逸見先生が不思議がっていたけど、2人が上手い事言って納得させたみたい。
2人は相変わらず僕を「部長」って呼んでいるから、出版物ででも見ないと誰も気づかないんだけどね。
秋になってから、林が弱湿地帯みたいになったのを契機に、町がビオトープの宣伝を大々的に始める。
自分でも、チートを使うとここまで行くかって思うほどの完成度だし、そりゃー教育の成功例に使われるわ。
高校なら生物学オリンピックがあるんだけど、中学校では無いから地元で褒めたたえるくらいしかない。
でも話題になったみたいで、他県の高校の教諭や、県内の中学の一団などが見学に来る事態になった。
大きい公園や植物園の職員まで来たから驚いた。
どこでもガチ勢はそれなりにいるみたいで、高度な質問がバンバン来る。
高校の教諭の質疑に応答していたら、その高校にスカウトまでされた。
遠いから行けないけど。
秋も深まりかけた頃に、僕はそろそろ本気で結論を出せねばならない事に悩んでいた。
2人を待たせ過ぎている。
正直このままの状態が続いて欲しい。
どちらも魅力的過ぎる。
僕のことを好きだということを、何度も言ってくれる女子。
そんな子たちと一緒に過ごして、好きにならない男なんているんだろうか。
それもタイプ別の美少女。元から好みのど真ん中。
でもこのままじゃ良くない。
部活でビオトープに集まって休憩している時に、昌が話しかけてきた。
「ぶちょー、先日行われた第83回生女会の結果をお伝えしていいかな?」
「えっと・・・ナマジョ会っていうのと、その回数の説明が欲しいかな・・・」
「生物部女子会議、略してナマジョ会です」
美琴が教えてくれる。
あれ?俺が知らないだけで2人は既知だったみたいだな。
ナマジョ?セイジョじゃないの?
「2人の雑談ってこと?」
「雑談じゃなくて会議ね」
「あ、はい」
「えーっとですね、部長が最近すごく悩んでるのは分かっています。多分、私たちへの返事なんでしょう。そこで、私たちは話し合って、決めて貰うのを延期したいという申込みをすることにしました」
「ええっ!?」
「だってぶちょー、気もそぞろだし、あたし達見てため息つくしさ。それにね、ぶちょーの活動に参加してみてさー、2人でサポートする今の体制が崩れるの困るっていうのも、けっこうガチであるのよ」
確かにそれもある。
美琴はエクセルの表の緻密なマクロで組みなおしてくれた。
元データを入力すれば、比較やグラフ化などを自動で出来る形にまで作り上げてある。
今はイジメ関連とミツバチ関連に合わせて、新しく始まった外来種対策用にマクロを組んでいる。
このスキルはありがたすぎる。
一方、昌はけっこうな頻度で訪れる、学校関係者や視察に追われる僕に変わって実務担当だ。
ビオトープや植林などを黙々とこなしてくれている。
2人のサポートが無くなるのは、どちらでも痛すぎる状態になっていた。
「そうなんです、部長のしている事は規模が大きすぎて、3人でやって何とか回ってるっていうのが現状じゃないですか。相手が相手だから手は絶対抜けないし。部長が私たちのどちらかを決めて、もう一人の協力が得辛くなると、色々な事を止めたりスピード落したりと・・・私達もそれは望んでないんです」
「あ・・・ありがとう。本当に正直に言うとそれは思っていた。そんな理由で、2人を待たせるのが申し訳ないから言えなかったけど・・・」
「それはお見通しだな」
「部長の能力も含めて、一般的な恋愛とか付き合いの形に嵌め込む事が間違いだということで、昌先輩と私の意見は一致しました。一般的な1対1の付き合いでは、デメリットの方が多いだろうと。なのでどっちかと付き合うではなく、本気でどっちとも付き合うか、今のままの状態で3人でやっていくかを選んで貰おうって会議で決まったんです」
「一応、どっちも振るって選択肢もあるよ、にゃはは」
「最後の選択肢は無いよ、2人が両方いなくなるなんて、冗談でも言いたくもないよ」
「「えへへへへ」」
「そのー・・・聞きたいことがあるんだけど、両方と付き合うってなったら、現状と何が変わるんだろう・・・」
「うーん、意識も変わるし、やって良い事・悪い事が変わる?」
「やって良い事・悪い事に関しては大体は揃えて欲しいですね。他は・・・あんまり変わらないんじゃないですか?堂々と感情表現して良くなる?とか?」
「う・・・」
「あはは、まずはお試しで両方と付き合ってみようか。ぶちょーの気持ちに合わなければ、また形を変えようよ」
「はぁー・・・2人とも僕を甘やかし過ぎじゃないのか?」
「いや、けっこう本気でそう思わないんですよ。部長みたいな特殊な能力を持ってる・・・いや、特殊な事をするって決めた人には、この位の特殊な形で対応するって、しょうがないんじゃ無いですか?」
「そっか・・・2人とも、僕と付き合ってください。お願いします」
深々と頭を下げる。
「「はい」」
「やったぁぁぁぁああ!!」
飛びあがって喜んじゃう。
こんな美少女の彼女が2人も同時に出来ちゃった。
「「あははは」」
「そんなに喜んでくれて嬉しい」
「私も!」
「これから宜しくね」
「「はい!」」
色々と大変だったけど、一躍有名になったおかげで、翌年の新学期では入部希望者が5人も集まった。
昌が部長、美琴が副部長なのに、僕の呼び名は「部長」
まあ、少ししたら定着したけどね。
ちなみに、僕たちが高校に行っている頃には、町はカジカガエルの鳴く郷として観光キャンペーンを始めた。
高齢者の方々が、凄く感動していたのが嬉しかった。
昔はどこでも聞こえていた鳴き声が、また聞けると思わなかったって喜んでいる。
ビオトープは在校生の部員が守っている。
僕の永年版の指令も効いているんだけどね。
小学校の校庭は、大規模な公園兼植物園になった。
中心に大きな池も出来て、遊歩道なんかも出来ている。
校舎は耐震補強をした後で、物産品販売所として、小さい道の駅みたいな場所になっている。
ソフトクリームや軽食が出来る店まで入った。
生物部の正式な部室として1階の教室を借り受けている。
「分室」という名前で始まったのに、後にはメインの部室になってしまった。
池の設計から立ち上げまで、僕達3人は高校生ながらに指名参加。
地元から少し離れた、県庁所在地の高校に3人で通っていたけど、学校から帰った後や週末に参加していた。
こっちの池はビオトープ化はしていないけど、回りの植物園の花々と共に、生態系の幅が数十倍に膨れ上がった。
僕達の作ったビオトープは回りにどんどん林を加えて、後輩たちが色々と改造を加えて、蝶やトンボなどの絶滅危惧種の拠点になったり、後になるほど有名になっていった。
カジカガエルは県を越えて生息域が広がり、カジカガエルの鳴く郷の有利さは消えちゃったけどね。
中学校の生物部は学校の名物部として、部員も毎年入ってくる。
後々にはこの部を出た有名人として、NPOの代表や学者も何人か輩出した。




