家政婦はいた!
『チン』
俺はオーブントースターで2人分の食パンを焼き、苺のジャムを塗ってテーブルに置く。
澪は冷蔵庫から透明なプラスチック容器を取り出して、中のカット野菜をお皿に盛り付けた後、たっぷりドレッシングをかけている。
特に意識はしていないが阿吽の呼吸で作業を分担しながらテキパキと朝食の準備が進んでいる。
景山の家は金持ちなので家政婦さんが作って上げ膳据え膳だと思っていたのが、意外と一般家庭と変わらない。
椅子に座って、紙パックの野菜ジュースにストローをさすと、澪も前の席に座り同じ様にストローをさす。
「今日はパパもママも仕事だって。」
ほう、今日は3人だけかな。
でも、アキラ君の姿が見えない。
どこにいるのかな?
「兄さんは?」
「うーん、剣道の朝練じゃないかな」
学校のクラブ活動かな?
どうやら二人っきりのようだ。
澪はスマホをさわりながらパンを齧り始めたので、俺も食事に集中する。
「あ、今日は夕方からパパがスマホを買いに連れて行ってくれるらしいよ。」
「分かった。」
おお、やっとスマホが手に入るようだ。
部屋にタブレットがあるけどサイズが大きいし野外では通信出来ないので持ち歩きには向かない。
手軽に持ち歩く事が出来るスマホは一刻も早く欲しいので助かる。
「それと、ユキが舞にメッセージを見るように言えだって。
ふふっ、ちょっと怒ってるみたいね」
「食べたらタブレットで見る」
澪はスマホに集中し始めたので、俺は昨日、明日香さんが夕食を持ってきた時の話を思い出す。
明日香さんは俺が食べる様子を見ながら家の事を色々話をしてくれた。
景山家は景山海運という海運業を営んでいて、雅孝お爺さんは社長で徹君は取締役らしい。
雅孝お爺さんは厳しくて怖そうだけど、本当は涙もろくて義理人情が厚いお爺さんだから怖がらないでほしいとの事だ。
うん、そんな気はしてた。
キララお婆さんは温和だけど礼儀作法に厳しい。
澪は要領よくやっているけど、舞さんはぶっきらぼうな喋りかたの上に、礼儀作法は全くだめでよく小言を言われているそうだ。
舞さんの喋り方は動画でもみたが、無理に真似をしようとしなくても、俺に向いてる話し方なので気をつけなくていいから助かっている。
女の子っぽい喋り方に矯正されるのは勘弁して欲しい。
誰かキララお婆さんに舞は今のままでいいんだよと言って欲しい。
明日香さんはタレントで一応事務所には所属していて、たまにドラマや映画の脇役に出ることがあるそうだ。
確かに美人だしスタイルも良い。
子供たちの容姿が整っているのは明日香さんの遺伝子の力だろう。
気になっていた、舞さんの家族の呼び方は祖父、祖母、父、母、兄、「澪」と呼んでいたらしい。
澪のやつはやはり「姉さん」呼びするように一計を図ったみたいだ。
「ん?
どうしたの舞。
その嫌なジト目をする時って何か怒ってるときのだよね」
そう、少しムッとしているが、まぁ怒るほどの事でもないか。
「何でもない。
大丈夫。」
「そうなの?
なら、いいけど。」
またスマホをいじり始めたので、部屋に戻ってタブレットの確認をしようとしたら呼び止められた。
「げっ、咲夜が家に来るって」
「伊集院さん?」
「うん。
これ。」
澪のスマホを見せてもらうと、白い小鳥のアバターが現れて、『舞さんおはようございます。』と挨拶された。
顔はそっくりなのに分かるんだと感心した。
あと、澪は鳥派かもしれないな。
チャットの内容を見ると、「今日はみんなで舞の快気祝いにいくニャー」と伊集院さんの書き込みの後、藤林春奈という人から「いきなりだと迷惑じゃないかな、特に舞はキレそうで怖い。」と続いていた。
舞さんは持続可能な怒りの他に爆発力もあったみたいだ。
「昨日、テイラーで舞のぬいぐるみ直して貰ったニャ
ピッカピカにゃので早く渡したいのだ。」
綺麗なカクレクマノミのぬいぐるみの写真がアップされている。
澪がどうするって感じでこっちを見ているので、コクリと頷くと、「本気?」っと聞き直された。
「仲直りしたからいい」と答えると、「夕方から出かけるので、それまでなら家にいる、舞も良いって言ってるよ。」
と書き込んだあと、用意しなくっちゃと言ってスマホを持って部屋から飛び出した。
用意って何?
食器を片付けた後、部屋に戻ってタブレットでメッセージを見ようとすると、キララお婆さんがエプロン姿の知らない女の人達を家を引き連れて俺の部屋に乱入してきた。
そして有無を言わせず風呂に放り込まれて全身を洗われたあと、ヒラヒラがついた水色の上等な服に着替えさせられ、ピッカピカのお嬢様に仕上げられた。
一体何事?
澪の方は色違い同じ服を着てエプロン姿の人と笑顔で話してる。
「それで、どちらの部屋を使うの?」
キララお婆さんが澪に聞くと「もちろん、舞の部屋だよ!」
と、即答した。
するとエプロン姿の女の人達は再び俺の部屋に乱入。
お魚さん達のぬいぐるみを運び出している。
「姉さん。
どういう事?
よくわからない。」
伊集院さん達が快気祝いに来るだけなのに、この大騒ぎは一体なんなのだろうか?
「この人達は家政婦さん達だよ」
家政婦はいたのか。
「サクヤの家はね、景山とは比べ物にならない位の歴史のある名家で力があるんだって。
普段の格好で会うと失礼だからだめみたいだよ」
やむごとなき方が来るみたいな感じかな。
でも、あの痛い猫語の子だよ?
「気にしすぎだと思う。」
「サクヤだけならいいけど、家の人が絶対に付いて来るから!
それにキララお婆さんも相手しないといけないので大変なのよ」
そうだったのか、安易にオッケーだしたのはマズかったのか。
でも、ちゃんと言ってくれれば断ってもらったの
に。
「舞がなかなかサクヤの事を許さないから、流石に可哀想だったし。
ちゃんと仲良くしてあげてね!」
むぅ。




