今は昔
うーん・・・。
ここはどこだろう?
深い霧を湛えた山々の稜線が、幾重にも重なり合い、波のように彼方まで続いている。
山の前にある鳥居をくぐり、日本の平安時代、いやもっと古い時代の服を着た一組の男女が地面に腰を下ろし、話を始めた。
この人達はどこかで見たような・・・。
あ、いや、この前見た夢の中に出てきた、おじさんとサグメさんだ。
「サグメ様。ここまでくればもう追手は大丈夫です」
そう言って山道を登ろうとするおじさんの裾を、サグメ様が引っ張る。
「ひどいケガ・・・。
私の為に」
「サグメ様なら、何故私があなた様をお守りするか分かると思います。
お気遣いは無用です」
「ええ、わかっているわ。
とってもよくわかります」
「ならば結構。では高天原に帰還を急ぎましょう」
おじさんが立ち上がり、サグメさんに手を伸ばすと、彼女はぷいっと横を向いた。
「まだ何か?」
「高天原には戻れないの。私は追放されているようです」
そう言って、サグメさんは悲しそうに俯いた。
指で地面に「の」の字を書いている所が気になる。
「サグメ様が見る予知は、未来を知り行動を変える事で、いかようにも変わる物だと伺っています。
ならばその未来を変えねばなりませんな」
サグメさんは悲しそうに首を横に振る。
「何か問題でも?」
「追放を命じたのは主様です。
変わる物ではないのです」
「何をおっしゃいます。
主様ならワカヒコ様の裏切りが原因だとわかってもらえます。」
「私がワカヒコ様や主様についていた嘘がばれたようですから・・・」
サグメさんは指を止めて、少し間を空けた後に、おじさんを見上げながら答えた。
「嘘ですか?」
「ええ。『宝珠があれば心を読む事ができない』という嘘です」
「え、えええ?
嘘なのですか!?」
「主様は私とお会いになる時は、必ず宝珠を持っていました。
だから、私は知っている。
主様の誰を憎み、誰を愛しているかを。
これから何をなそうと考えているかを、過去におこした過ちについても。
私は禁忌を犯しました。
高天原の方は誰も、二度と私とお会いにはならないでしょう」
確かに心を読まれる相手と話すのは嫌だよな。
おじさんは短い顎髭をもて遊びながら、山の頂の方向く。
「何故そのような嘘を?」
「だって、誰も私と話をしてくれなくなるではありませんか!
あなたくらいですよ、宝珠を持たずに平然と私と話をする方って」
おじさんは唖然としているが、頭をポリポリを掻きながらサグメさんの方を向く。
「なるほど、困りましたな。」
「ええ、困りました。」
おじさんの顔色をうかがうように見上げるサグメさん。
「あなたはいずれ、神門を預かる守護神になれるお方。
私をここに置いて、帰還なされるのがよろしいでしょう」
「私は主様の前で、誓詞と拝領したこの剣に、ワカヒコ様や敵と戦い、あなた様をお守りすると誓いました。
ワカヒコ様と戦う事はありませんでしたが、サグメ様をお守りするという誓いは必ず守ります。
それに私は……」
顔を赤らめるおじさんの手に剣が現れ、それを真っ赤な顔のサグメ様に見せた。
もじもじするサグメさんと、顔が真っ赤になっていくおじさん。
なんだろう。 ものすごくいい感じだな。
というか、さっさと結婚してお幸せにって感じだよ。
「こ、これは天ノ羽々斬のような剣ですね」
「ははは。これは影打です」
「銘はなんというのですか?」
「無銘ですな・・・。
・・・
・・・
・・・
しかし、ここから出るのも一苦労ですな」
おじさんが少し間を開けた後、鳥居の方を向くと、3つの首を持つ巨大な黄色い大蛇が見下ろしていた。
「私は勝てそうですか?」
おじさんがにっこり笑いながらサグメさんに問いかけると、彼女は軽く頷いた。
「それは心強い。では、ゆっくりご観戦ください」
無銘の剣を振るうと、刀身からあふれるように流れ出す水が地面に叩きつけられた。
そして、おじさんと大蛇の戦いが始まる。
このおじさん、すっげぇかっこいいな。
なんていうのかな。
いぶし銀って感じ?
将来旦那様にするならこんな感じの渋い人がいいな。
『ぷぷっ』
なんか、姉さんの笑い声が聞こえたような気がするな。
しかも、なんか、カチンとくる笑い方。
・・・
・・・
・・・
「澪、舞。
起きなさい。
休憩ですよ。」
ママの声が聞こえる。
・・・
・・・
・・・
目を覚ますと、ママが車のドアを開けて私を見ていた。
今のは夢か。
車内モニターを見ると、高速道路のサービスエリアの中みたいだ。
車から出ようとすると、姉さんも私の肩に頭を乗せながら眠っている。
ママはパパに呼ばれて、車の外で何か話している。
「姉さん。
起きて。」
「思い出した・・・」
思い出した?
姉さんの肩をゆすって起こそうとすると、パッと目を開いた。
「舞!
おはよう!」
おお、何かすごく元気だな。




