ゴールデンウィークに備えて
今日は学校から帰ると、離れで夕食をとった。
「さて、今年のゴールデンウィークの予定だけど、どこに旅行に行きたい?」
ほぅ、旅行ですか。
「パパはエジプトに行ってみたいと思ってる」
「ママはどこでもいいわ。でも、仕事が入りそうだから、あまり遠くは難しいわね」
最近、タレントの仕事が増えてきているらしい。
私や姉さんは、もう面倒を見てもらわなくても、簡単な料理くらいは作れるようになったので、ママにも少し時間の余裕ができてきたのだろう。
プロダクションの社長さんが、衣料関係の広告画像に私と姉さんの写真を使いたいそうだ。
スタジオに行くのかと思っていたが、送られてきた服を着たママがスマホで写真を撮って送るだけでいいらしい。
画像の加工技術が驚くほど進化しているので、どうとでもなるのだとか。
モデルがいなくても画像は作れるが、実在する人物の写真をベースにすることが重要らしい。
「串木がいい・・・」
やはり、実際に串木の自宅に行ってみたい。
タイムシフトで調べてみたが、30年前を境に周囲の家々とともに、きれいに消えてしまっていた。
あそこに行っても何も残っていないかもしれないが、それでも行ってみたい。
「和歌山の串木?」
全員私の方を見る。
「そう、串木で別荘を借りて、のんびり過ごしたいの」
あそこは気候も穏やかで、海を眺めながらゆったりと暮らすには、とてもいい場所だった。
「舞って、串木が好きだよね。
一昨年も“串木に行きたい”って言ってたよね。」
ストリートビューの課金履歴を確認すると、過去に利用した形跡があり、記憶を失う前の舞さんも串木の自宅前を調べていたようだ。
おそらくだが、記憶を失う前から、前世の記憶が残っていたということなのだろう。
「それに、この前もストリートビューで串本を散策してたし、その後も何度か見てるよね。
舞って、あそこに何か興味があるものでもあるのかな?」
「海水魚、取りたいから」
「自分で?
採れるの?」
「わからないけど、やってみたい。
それだけ」
前世の記憶の話なんてしても、理解は得られないだろうし、最悪の場合、頭の再検査に連れていかれるかもしれない。
だから、適当な理由を並べておくことにする。
「私も串木でいいかな。
舞がお願いするの、これで2回目だし。
今回は舞の希望を優先していいと思う。」
「舞と澪が行きたいなら、構わないか。
みんな、それでいいかな?」
ほっ。どうやら、希望どおり串木に決まりそうだ。
「そういえば、麻美さんの家が城浜に別荘を持っているらしいから、使わせてもらえるか聞いてみるね。」
ん?
兄さん、余計なことを言ったな。
城浜はアドベンチャーワールドがあるリゾート地だけど、串木とはかなり距離がある。移動だけでも大変だ。
「ふむ。
アキラは花形さんの娘さんと仲が良いと聞いている。
その話を持ち出すと、花形家と一緒に旅行することになるかもしれないが、それでもいいのか?」
ほうぅ・・・。
ちらっと兄さんを見ると、少し顔が赤い・・・。
つまり、まんざらでもないいうことか!
「のんびりできそうにないから、嫌。」
ありえんよ、そんなキャッキャ、ウフフしているリア充と宿泊とはありえん!
「私はいいかな。
将来、お姉さんになるかもしれないんでしょ?
仲良くしておきたいな。」
姉さんにニヤッと笑いかけると、兄さんはさらに顔を真っ赤にした。
えーー、どういうこと!
進展早すぎだろ!
「花形さんの妹と仲が悪いって言ってなかった?」
たしか、咲夜との仲を取り持とうとして怒られたって言ってたから、耳元にそっとささやいて確認してみる。
「ふふっ、あのあと謝りに来たから、もう許したよ」
「そうなんだ?」
「小華って、『ごきげんよう』って挨拶するでしょ。
本物のお嬢様って感じで、ちょっと苦手なんだけど、仲良くはしたいなって思ってるの。
だから、もう許した。」
まぁ、一応、私たちもお金持ちで“本物のお嬢様”だと思うけど?
いや、私は前世のおっさんの記憶があるから、まがい物かもしれない。
でも、姉さんは間違いなく本物だと思う。
「え!
もう返信が来た。」
兄さんがスマホを操作しながら、『ふにゃ』っとだらしない笑顔になる。
「チッ」
リア充め・・・
「城浜の別荘使えるか聞いてみたら、花形のご両親は二つ返事で了解だって。
父さんの言う通り、もし行くなら一緒に城浜の別荘ですごそうだって。」
兄さん、仕事が速いにもほどがあるだろ・・・。
嫌だといったのに、もう完全に一緒に行く流れのような気がする。
「舞、想像以上に早く話が決まってしまったが、断ることは難しい。」
パパの言うと、兄さんは両手を合わせてゴメンと謝っているが、さすがにムカッとするので、ぷいっと横を向く。
はぁ、どうやって、城浜から串木に移動しようか。




