課金して世界旅行に行く
迎えの車は、いつものごついワゴン車だった。
助手席に座っていた家政婦の工藤さんに、コンビニに寄ってもらうようお願いする。
スマホにもメッセージが届いていたが、今日は家にも母屋にも誰もいないらしい。
誰もいない日って澪が言うには月に何度かあるそうだ。
さて、コンビニに行く目的は、ストリートビューを使うための課金に必要なポイント券を買うこと。
スマホのお財布アプリでネット課金をするには親の認証がいるけど、ポイント券ならそれがいらない。
徹くんに承認をお願いした時に「何するの?」って聞かれたら、「世界旅行」とでも言えばいいんだろうけど、嘘をついてるみたいで、ちょっと気が引ける。
俺個人の理由で舞さんのお小遣いを使うのには抵抗があったが、少額だし申し訳ないが使わせてもらう事にする。
正直、5万円もお小遣いがあると、「ちょっとくらいならいいだろ」っていう、いけない気持ちが湧いてくるのは否定できない。
俺が子供の頃なんて、月に千円だったから金銭感覚もまるで違うし、澪なんかはあっさり満額補充してもらってた。
そういうのもあって、舞さんのお小遣いを私的に使うことへの抵抗が、だいぶ薄れてしまったわけだ。
コンビニの駐車場に車が入ると、周囲の視線がこちらに集まった。
高級車だから、目立つのだろう。
澪と一緒に車を降りると、立ち止まってこちらを見る人がちらほらいる。
双子だから、珍しいのかもしれない。
こちらを見ている人の中に須藤さんがいたので、声をかけようと思ったがプイッと目を逸らして立ち去っていった。
ちょっとショックだった。
コンビニに入り、家で食べるお菓子と炭酸ドリンク、それにカップ麺を選びながら、さりげなくポイントカードもかごに入れる。
さらにコンビニ弁当を物色する。
正直、おにぎり2個で十分なんだけど。
「お嬢様、夕食は用意してあります」
お嬢様?
工藤さん、いつもは「舞さん」って呼ぶのになにかあるのかな?
必要なものは一通りかごに入れたので、精算機へ向かうと、商品の一覧と合計金額が表示された。
スマートフォンをかざしてタッチ決済を済ませ、購入品をビニール袋に入れ、待っていた澪のもとへ戻って車に乗り込んだ。
澪は袋の中をチラッと見た後、ニヤっと笑って
「太っちゃうぞー」だそうだ。
「大丈夫、少しづつ食べる。」
正直少し痩せている気がするのでちょっと食べ過ぎる位ならむしろ良いと思う
「工藤さんにお嬢様っていわれた。
なんかこそばゆい」
「んー
そういえばそうかな。
あまり気にしてなかった」
「外で名前を口にするのは、個人情報の漏洩につながるので控えています」
どうやら、そんなことまで家政婦の心得マニュアルに書かれているらしい。
気にしすぎではないかと思うのだが。
家に到着すると工藤さんは帰宅。
中に入ると帰ると誰もいなかった。
IHコンロの上に鍋が置かれていた。そっと蓋を開けると、香りとともにカレーが顔を覗かせた。
「早いけど食べる?」
時計を見るとまだ夕方の4時。
小腹がすく時間だし、我慢して腹の虫が「飯よこせ」と雄叫びを挙げられても困るので食べる事にした。
俺がコンロでカレーを混ぜながら温め始めると、澪は冷蔵庫から米をだして電子レンジでチン。
お皿にご飯をよそって、俺がカレーをかける。
その間に澪は冷蔵庫から紙パックの野菜ジュースを取り出し、テーブルに置いた。
あっという間に食事の準備が終わり、食べ始める。
「ご飯食べたら、片付けしてピッピとサクにご飯あげないといけないね。」
「うん。」
なんとなく察してしまったので、ジャンケンでパーを出す。
澪はチョキだった。
むぅ。
澪はニヤッと笑って、
「それじゃ、私はご飯あげるから、片付けはお願いね」だそうだ。
食事は終わると、俺は食器を洗い、テーブルを拭いて、ゴミをまとめて指定された場所に運ぶ。
工藤さんが俺や澪をお嬢様と呼んでたけど、こんな事ぜったいやらないよな?
一通り片付けると、勉強部屋に移動。
「はーい、これが最後ですよ〜♪
キャー可愛い♪」
扉を開けると、澪がピッピの頬ずりした後、羽にチュッとキスしていた。
「あ、終わったの
サクの分もしっかり上げたからね♪」
「澪のファーストキスの相手はピッピか。」
「え?
ふふ、ピッピとサクは大事な家族だから大丈夫だよ」
どうやら家族にキスをするのは問題ないらしい。
「一応、口は消毒したほうがいいと思う。
ウィルスとか怖いし、念の為。」
「うーん、わかった。そうする。」
澪は扉からでていった。
ゲージに入れらたピッピはウトウトと眠っているサクのそばに移動して同じ様に目を瞑った。
相変わらず仲が良いな。
タブレットを起動してストリートビューに課金しようとしたところで、澪が戻ってきて画面を覗き込む。
「ねぇ、ポイントカード買ってたけど、何かゲームやるの?」
目ざといな。
「ストリートビューに課金して、世界旅行に行く。」
間違ってはいない。
澪がじっと見守る中、俺は課金を完了。
さて、流石にピンポイントで串木の自宅に移動するのも不自然だよな。
まずは京都を旅行することにする、まずは定番の伏見稲荷大社で千本鳥居の中を散策。
「すごいね。
鳥居がいっぱいある。」
「うん」
ここは昔と変わらないな。
続いて、金閣寺、清水寺、嵐山と、京都の定番観光地を一通り巡っていく。
一時間くらいストリートビューで旅してたら、澪が「ふーん」って言いながらスマホをいじり始めた。
どうやら、飽きてきたようだ。
「ねぇ、一緒にお風呂入らない?」
お色気イベント発生ですか。
本来なら悶えるところだけど、この部屋で一緒に着替えたときに気づいたんだ。
澪の姿、普段鏡で見てる舞さんとまったく同じだということに。
そう、髪の長さ意外全く変わらないのだ。
「大丈夫。
もう少し旅行する。」
ときめかないので、今回はパスすることにする。
すると、澪はチェっと残念そうに部屋からでていった。




