学校にいく
今日から学校に「出勤」じゃなくて「出席」する事になった。
頭の傷はすっかり治っていて、普段通りの生活をして構わないとのことだったので、昨日は病院の帰りに明日香さんに連れられて美容室へ。
カット、シャンプー&トリートメント、ヘッドスパ、フェイスケアと、フルコースで施術されることになった。
明日香さんは、髪の毛が痛み始めてかなり気になっていたようだが、頭のケガだったため、ずっと我慢していたらしい。
寝る前には、澪に言われてブラッシングをし、シュシュでゆるくまとめてナイトキャップもしていたのだが、それでも入院中の髪のダメージは大きかったのかもしれない。
髪を紐で束ねて前に流し、それから制服に着替える。
リビングで送迎の車を待っている。
「舞と一緒に学校行くのって
すっごく久しぶりだね。」
「そうなるのか。」
俺的には始めてなので、久しぶりと言われてもピンとこない。
「えへへへ」
それでも、腕に抱きついてきて嬉しそうに笑う彼女を見ていると、胸の奥がじんわりと暖かくなる。
『カランカラン』
どうやら車が到着したようだ。
外に出ると、昨日見たあのごっつい車が停まっていて、花形さんが待っていた。
俺と澪が3列目に乗り込むと、続いてアキラ君と花形さんが2列目に座る。
1列目の運転席にはスーツ姿の男性が、助手席には女性が座っていた。
自動ドアが静かに閉まり、車は音もなく動き出した。
いやぁ、なんだろう。
すごく静かで広い3列目なのに、異常なくらいフワッフワで、しかもオットマン付き。
景山のごっついワゴン車もかなり豪華だったけど、この車はさらにその上をいくな。
そして前の席ではアキラ君がリア充を謳歌中。
キャッキャウフフしてる。
若いのう・・・。
さてと。
チラッと隣を見ると、澪さんが黙々とスマホをいじっている。
なんとなく感じる。
怒っているわけじゃないけど、少し機嫌が悪そうだ。
目の前のリア充に不快感を覚えてる?
いや、さすがにそれはないか。
とりあえず、そっとしておいたほうが良さそうだったので、俺もスマホで海水魚とサンゴのオークションをチェックする。
水槽の設置まではまだ時間がある。
今は、優良な出品者を探すフェーズなのだ。
いろいろ出品者の分析をしているうちに、車は豪華な門をくぐって駐車場に停まった。
ドアが自動で開いたので降りて周囲を見渡すと、送迎用と思われる車をはじめ、さまざまな車が並んでいた。
アキラ君が近づいてきて、「この場所、覚えてる?」と確認してきたが、残念ながら、まったく見覚えがない。
俺はフルフルと首を横に振った。
「そうか、じゃあ職員室まで行こうか。」
「ごきげんよう、アキラ様。」
花形さんと別れて、アキラ君の先導で移動を始めると、花形さんによく似た縦ロールの女の子と、ボブカットの女の子が現れた。
「やぁ、おはよう。」
笑顔で挨拶するアキラ君に、彼女たちは頬を赤らめている。
うわぁ・・・イケメン、羨ましすぎる。
「あ、舞さんには紹介したほうが良いのかしら?」
花形さんが心配そうに確認してくる。
申し訳ないが、知らない人だったので、俺はコクリと頷いた。
「この子は私の妹で、子華というの。
舞さんとは同じ学年だから、仲良くしてあげてね。」
「ごきげんよう、小華さん。
よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げると、なぜか一歩あとずさった。
何故?
「嘘でしょ・・・
あの景山の妹が?」
隣のボブカットの子が、ぼそっと呟いた。
舞さんの評判はあまり良く無いのかな。
ちょっと不安だ。
「お名前、教えて下さい。」
「え、私?」
コクリと頷く。
「う、榊原といいます。」
「ごきげんよう、榊原さん。」
この子たちと何かあったのかもしれない。
けれど、平和が一番だ。だから俺は、きちんと挨拶して笑顔を作る。
そう、俺は争いごとを避けたいのだ。
「小華。
挨拶は?」
麻美さんが「メッ」といった感じで注意すると、小華さんも同じように挨拶してくれた。
ところで、澪は?
チラッと見ると、スマホで何やら撮影していた。
スーパーペットファミリーで捕獲でもしてるのかな。
「舞は私が職員室まで連れて行くから。
それじゃあ、またね!」
澪に腕を引っ張られたので、俺は素直にそのままついていった。
「仲が悪いの?」
やっぱり澪の機嫌が悪そうだったので、直球で聞いてみた。
「うーん。
咲夜たちと仲が悪いから、関わりたくないの。」
「そうなの。」
「ずっと前に、仲良くなれるよう頑張ったんだけど、余計なことするなって怒られちゃった。」
「小華さんに?」
・・・
・・・
・・・
沈黙は、肯定ということか。
君子危うきに近寄らずという、ありがたいお言葉に従ったわけだ。
職員室には、後から追いかけてきたアキラ君と澪、そして俺の3人で入った。
しかし職員さんから「ここから先は任せて」と言われ、アキラ君と澪は教室へと向かっていった。
さて、30年が経過した学校の仕組みは、かなり様変わりしていた。
小学校3年までは、前世の時と変わらないクラス単位の授業だったが、4年生からは大学のような単位制に移行するらしい。
クラスという概念はなくなり、授業はすべて個人単位で、動画とAIによって行われるようになった。
理解の早い子はどんどん先に進み、中学生の時点で知識ベースでは高校卒業レベルを突破し、大学で研究を始める天才たちが数多く生まれているという。
まとまって行う授業は、音楽、美術、体育などの実技科目。
そして、道徳など主に人格形成を目的とした分野になるとのことだ。
小4、つまり10歳になると、ある意味競争が始まるわけかぁ。
受験はなくなっているらしいけど、毎日AIにテストされて、理解度を測定されるって、めっちゃ憂鬱だわ。
最後に、小学4年生からはクラブ活動が必須になるらしい。
そのため、記憶喪失前に希望していたクラブで本当に良いかどうか、確認があった。
どれ、舞さんの入ると決めていたクラブは何かな
『いきもの倶楽部』
こ、これは!?
「いきもの倶楽部の須藤さんが代表者となるグループに景山さんは所属しています。」
きたコレ
ウォッシャー!




