堂々巡り
「ピッピとサクちゃんの事お願いね。
それじゃあ、いってきます!」
澪はアキラ君と花形さんと一緒に、ごっつい車に乗って学校へ出かけていった。
そう、アキラ君は花形さんと一緒に通学するようだ。
そういえば、咲夜が言っていた「子供の頃から仲良くして、うまくいきそうならそのまま結婚コース」という話を思い出した。
アキラ君と花形さんがどうなるのか、ちょっと気になる。
はぁあああああ。
しかし、本当に参ったなぁ。
手のひらの上でぴったり寄り添って眠るピッピとサクを眺めながら、昨夜の出来事を思い返す。
昨日の夕食時に、フリマサイトで購入するよう徹君にお願いして了承をもらったが、雅孝お爺さんが反対したのだ。
まず問題となったのは水槽のサイズ。
子供が管理するにはデカすぎるとの事。
徹君や明日香さんは120cmの水槽のサイズを聞いてもピンとこなかったみたいだ。
水槽の実物を見て、「思っていたよりずっと大きい」と感じる人が多いので、仕方がない。
家の中に設置された120cmの水槽を見たことがあるという雅孝お爺さんにとっては、素人の子供が世話をするには危険な代物としか思えなかったのだ。
次が「舞がバケツを持って階段を登り降りしてまた転落したらどうする気だ。」
この雅孝お爺さんのこの一言が決定打になり、様子見だったキララお婆さんも反対に転じる、徹君や明日香さんは浅はかだったとお爺さんに謝罪、アキラ君や澪まで反対になった。
「大型水槽の水換えにバケツリレーなんてやらない。ホースを引っ張って給排水するのが常識だ」と必死に抵抗したが、 雅孝お爺さんはアクアリウムに詳しいようで、「海水水槽は水換えは少なくて済むから、バケツでやる方が手間がかからないし、人工海水を作るときにバケツがいるだろう」と返されてしまった。
まぁ、その通りなのだが、このまま引き下がるわけにはいかないので、「水換えなしでも維持できる」と反論する。
設備が整っていて、管理のスキルがあり、手間を惜しまなければ、水換えなしでも運用は可能だ。
実際、水換えせずに1年間維持できたことを“スキルの高さ”として誇っている人たちもいるくらいだ。
まあ、俺の場合、串木のときはポンプで海水を汲み上げてのかけ流し方式だったから、水質管理に長けていたわけじゃないんだけどな。
「舞にそこまでの技術があるわけがない。
知識はあるようだが、経験も実績もないのに大口を叩くな。」
その一言には少し図星を突かれたところもあり、俺は完全にキレてしまったので、雅孝お爺さんにかなりきつい言葉をぶつけ、そのまま席を立ってしまった。
はぁあああああ
どうしてこんなに苦労するんだろ。
冷静に考えれば、子供が自分の身長に近い高さの水槽をメンテナンスするなんて、危険だと思うのは当然。
しかも、1週間前に階段から転落して記憶を失ったという事実がある以上、反対されるのも無理はない。
雅孝お爺さんには謝るべきだろうな。
正直、疲れた。
そう、俺の燃え上がったアクアリウム魂は、半日で爆弾の爆風に吹き飛ばされて消火されたようなものだ。
ペンペン草一本、残っちゃいねぇ。
澪から聞いた話だと、あの後、保護者全員で対応策を考えることになったらしい。
それと、「舞は本気で怒ると、かなり長い間怒り続けるから、それだけはやめてほしい」と言われた。
確かに、咲夜に対して半年間、既読スルー&完全無視を貫いた実績があるだけに、心配されるのも無理はない。
俺も、保護者たちが納得できる方法を考えてみるか。
色々考えていると、、明日香さんが部屋に入ってきた。
「舞、もうすぐ病院へ行くけど、準備はできている?」
そういえば、今日は病院の日だった。
俺は急いで支度をして、1階のリビングへ向かった。
明日香さんの準備はすでに終わっていたため、 一緒に外へ出ると、昨日乗った大きなワゴン車が停まっていたので、すぐに乗り込んだ。
病院へ向かう道中、会話はなく、重苦しい雰囲気が漂っていた。
病院では頭の検査を行った結果、お医者さんは笑顔で告げた。
「明日から学校に行っても大丈夫。
でも、激しい運動は控えてくださいね。」
というわけでおれは明日から学校に通う事になった。
正直、もう一度小学校に通うなんて気が滅入るというか、ネガティブな思いしか浮かばない。
でも、今の自分の姿を鏡で何度も見ていると、これも仕方のないことだと思えてしまう。




