燃え上がる
明日香さんのお説教を要約すると、金銭感覚が麻痺したセレブすぎる子供たちによる「金持ちマウント合戦」を目の当たりにした経験があり、自分の子供には、まともな金銭感覚と思いやりを持って育ってほしいという強い思いを抱いていた。
澪の買う文鳥は全部込みで3万円くらいなのに、平気で100万円の物を買おうとしたから、明日香さんは「これはさすがに怒らなきゃ」と思ったらしい。
ご尤もです。
申し訳ない。反省した。
だがしかし、一度火がついた俺のアクアリウム魂は、そう簡単には消えない。
アクアリウムに関しては、怒られたくらいで諦めるような、やわなメンタルは持ち合わせていないのだ。
つまり、予算は3万円ということになる。
この金額にお小遣いを足せば、水槽セットを手に入れる方法はある。
いや、むしろもっと安く手に入れられる可能性だってある。
そして俺は、1ミリたりとも妥協するつもりはない!
スタッフさんに見積もりをお願いした水槽よりも、さらに上のものを手に入れてみせる!
うぉおおおおおお!燃えてきたぁぁぁ!!
「舞は反省しているようだし、これから注意してくれるなら、今回だけは許「ママ!」
どうしたの?」
「ここで買うのは止める。
もういい。」
「えっと、あのね、舞・・・。
ああ、ちょっと言い過ぎたみたいね。
欲しい水槽を買っていいのよ?」
むぅ・・・
そもそも俺は倹約が大好きなド庶民だ。
前世でも、金をかけずに機材を整えてきた。
むしろ金をかけずに設備を整える事こそ、俺のアクアリウムのやり方だ。
高額新品水槽をドーーンなんて、よく考えたら俺のポリシーに合わない。
「心配ご無用」
燃え上がった炎を酸欠にして消火するような事は出来ないので、丁重にお断りする。
「舞が買わないなら私も辞める」
俺が怒られているのを横で見ていた澪が、とんでもないことを言い出した。
「えっとね、澪。
ママは舞が欲しい物は買って上げるつもりよ。
「私も辞める!」あぅ」
明日香さんは、さすがに焦っているようだ。
俺の前世の親なら、「辞める」と言えば喜んで中止したのだが。
「姉さんは気にせず買うべき。」
「嫌よ!
舞が買わないのに私だけ買うなんて出来るわけないじゃない。」
おお、なんか嬉しいな。
でも、ものすごく怒ってる。
さて、どうしたものか。
景山家は金持ちだ。
アキラ君が譲渡会に行ったのは、事情により飼えなくなり、殺処分されるかもしれない犬を可能な範囲で助けたいという純粋な善意からだった。
だが、ド庶民の俺からしたら、こういうのは「ただで犬がもらえる」という金銭的な理由も、かなり大きい。
俺は林檎スマホからカクレクマノミさんを呼び出して検索してもらう。
『こんにちは、舞。』
「水槽を閉じるひとが「あげます・売ります」サイトで出してる機材と生体の一覧をだして」
『たくさんあります。
もう少し条件を絞って下さい。』
チラッとと明日香さんと澪を見るとこちらをじっと見てる。
「120cm規格水槽「以上」のサイズでオーバーフローと水槽台のセットが最低条件。
価格が安い順でお願い」
『わかりました!』
ポロポロとリストがでてきた。
これを明日香さんと澪に見せる。
「兄さんのように、アクアリウムを引退した人から買うことにする。
生き物や物は大切にしないとだめだと思ったから」
ここで金の話をだしてはいけない。
生き物や物を大切にするという理由が最適。
「す、素晴らしいわ!
ママ、全力で協力するわ!」
ぐふふふふ、「協力」の言質いただきました。
「ママ!」
俺はがっしりと明日香さんの手を握り、昨日、咲夜たちが帰った後に密かに会得した最高の作り笑顔を向けるとイチコロだった。
もう明日香さんは俺のアンダーコントロール状態だ。
水槽は重いから運ぶの大変なんだよね。
明日香さんから徹君とアキラ君に運搬を手伝うように頼んでもらおうじゃないか。
「わ、私も引退する人探す!」
うーん。
文鳥の雛を譲ってくれる人かぁ
繁殖してすぐだから少なそうな気がする。
それに澪を付き合わせるのは申し訳ない。
「姉さん。
やっぱり文鳥の雛を育てようと思う。」
「え、舞も手乗り文鳥飼うの?」
「うん、だから今日買って帰ろう。」
「う、舞、あんた・・・
分かったわ。
ママ、いいよね!」
「ええ、もちろんよ!」
俺が気を利かせたと言うのは即バレしてしまったみたいだな。
母性本能を刺激されるのは困るのだが、まあ、仕方ないか。
ペットショップで文鳥の雛を2羽購入してもらい、その日のうちに持ち帰ることになった。
帰りは、病院に迎えにきてくれたごっついワゴン車に乗って帰宅した。
澪と舞さんの部屋は隣同士だったが、一緒に寝ることになったため、舞さんの部屋にはベッドが二つ並べられ、寝室となった。
一方、澪の部屋には机が二つ置かれ、勉強部屋として使われることになった。
今回購入したケージの組み立ては、ヒーターの設置などで少し手間取ったが、なんとか完成させて、勉強部屋に置くことにした。
「ピッピ、あーん」
澪はさっそく、雛たちのために餌を用意し、与えはじめた。。
名前も決めてあったらしい。
「ねぇ舞の子に名前つけてあげないの?」
俺の子、いや舞さんの子供みたいにいうのやめて欲しい。
「サクでいい。」
桜文鳥だからサク。
シンプルで良いな。
「オッケー
はーい、サクちゃんもあーんして」
澪が餌をあげるのを見ていると、なぜかウズウズしてくるのを必死に抑えながら、タブレットを起動してフリマサイトのチェックを始めた。
でも、サクのことが気になるので、つい様子を眺めていると、澪が、俺を見てニヤッと笑った。
「舞もあげたい?」
くっ
まぁ、俺も世話をしないといけないしぃ。
これはやらざるを得ない。
「やる。」
「うん!
一緒にあげよ!」
注射器型の器具に餌を押し込んで大きく口を開けるピッピとサクに餌を上げる。
ほわぁ
可愛いのぅ。
キュンキュンするぅ。
 




