俺の水槽
今日は朝からペットショップに連れて行って貰っている
澪は文鳥の雛を買って手乗りにするらしい。
当然の様に俺も餌付けメンバーに入っていたので、明日香さんと澪の3人でショップのスタッフさんから説明を受けている。
俺の前世の記憶に手乗り文鳥を飼っている奴がいて、その人の家に遊びに行くと、俺を恐れる事なく肩に止まったりしていた記憶がある。
確かにかわいいんだよな。
ただ、糞には気をつけろとは言われていたな。
「舞ぃ
どうしよぅ
かわいい♪」
澪が餌をあげるたびに、ものすごく嬉しそうにこちらを振り返るので、つられて俺もニコニコと微笑んでしまう。
続いて俺も文鳥を手にのせながら、大きく開けた口に注射器型の器具で餌を与えると首を震わせながら飲み込む。
この仕草がなぜか胸に刺さるほどキュンとしてしまう。
ま、まぁ、かわいいんだから、仕方がない。
明日香さんも餌をあげたかったようなので、注射器型の器具を渡すと、嬉しそうに文鳥に餌をあげはじめた。
「本当にかわいいわぁ。
必死に餌をねだるこの子たちを見ると、キュンと母性本能が刺激されちゃって、
つい餌をたくさんあげたくなっちゃう。」
うん、その通り。
ん?
え?
ぼ、ぼぼ、ぼ、母性本能だと。
「ねぇねぇ、舞の分も入れて、2羽買おうか?」
いやいやいやいや、俺は母性本能なんて刺激されたくない。
このかわいい文鳥は、もしかして俺のことを“母”だと認識しているのだろうか。
だとしたら、これは断じて飼うわけにはいかない。
「どうしたの」
「い、いや、やめておく。」
かなり後ろ髪を引っ張られながらも、丁重にお断りする事にする。
「そうなの?
とても嬉しそうに餌をあげてたのに」
否定はしないが、ちょっと胸がキュンとするのはまずい。
「お魚、飼いたい、から」
「んー
そっかぁ」
ふぅ、どうやら納得してくれたようだ。
犬のブースでは、アキラ君が犬小屋や首輪、リードなどを購入していた。
彼は以前から犬を飼いたかったようだが、舞さんが猫アレルギーだったため、ずっと我慢していたらしい。
猫アレルギーの人は、犬にも反応することが多い。
舞さんは検査した結果、比較的軽度なクラス2のアレルギーで、くしゃみや鼻水などの症状が出ることもあるそうだ。
毛が抜けにくい犬種なら、大丈夫な場合もあるが、念のため飼育をあきらめていたらしい。
ところが、先日、雅孝お爺さんが「母屋で飼ってもいい」と言ってくれたことで、犬の飼育が解禁された。
それに伴い、澪と舞さん(俺)のペットも飼えるようになったわけだ。
肝心の犬は、動物保護団体が開催する譲渡会に参加して、条件の合う子を引き取るつもりで、ちょうど譲渡会が開催されているようなので、このあと向かう予定らしい。
つまり今は、犬を迎えるための環境を整えている段階のようだ。
一通り文鳥の世話の仕方についての説明が終わったので、今度は俺の番だ。
ちょうど徹君がこちらにやってきた。
「パパ、お魚なんだけど、予算はどれくらいまでいいの?
ちょっと高くなりそうなんだけど・・・」
予算の確認をすっかり忘れていたので、徹君に聞いてみた。
「ははは、舞はそんなこと気にしなくていいよ。好きなお魚さんを選んで買えばいいんだ。」
「え、いいの?
ほんとに?」
「ああ、安心して選びなさい。」
「はーい♪」
ぐふふふ、予算は気にしなくていいのか。
テンション上がってきた!
「明日香、これから譲渡会に行ってくる。
澪と舞のこと、頼むぞ。」
「ええ。
いってらっしゃい。」
徹君たちは、大きな荷物をスタッフさんに台車で運んでもらい、譲渡会へと向かった。
「お客様、熱帯魚をご購入されるのでしたら、私がお伺いします。」
「この子が飼うそうなので、話を聞いてあげてもらえますか?」
女性スタッフさんが現れたので、俺は明日香さんと一緒に聞いてもらう。
「どんなお魚さんを飼いたいのかな?」
女性スタッフさんが俺を見て、にっこりと微笑んだ。
まあ、最初は小さめの水槽にしようと思っていたけれど、やはり舞さんもアクアリウムを始めるつもりだったみたいだし、徹君は予算も気にしなくていいと言ってくれたので、標準サイズのプランでいくことにする。
「えっと、水槽を買うのは初めて」
「うんうん。
それでしたらメダカの飼育セットはどうかな?」
「もうある程度決めてる」
「そうなんだぁ。
それじゃあ、お姉さんに教えてくれるかな?」
「えっと・・・
ガラス製の120cm規格水槽で、オーバーフローのセット。
サンプ(濾過槽)は最低でも幅90cm。ウールボックスは必須。
生物濾材はリングタイプでいいけど、バクテリアが定着しているものを用意。
ポンプは、毎時2000リットルクラスのマグネットポンプ。
水流ポンプは3つ。殺菌灯も必要。
プロテインスキマーは300リットル以上対応のもので、もちろんサンプに入るタイプ。
照明はSPS飼育対応の120cmバータイプでおすすめのものを。
補助照明も入れるから、吊り下げスタンド付きのアングル水槽台がいい。
水槽用クーラーは500リットルクラスで。」
「え?
あ、あの?」
「この水槽は海水魚とサンゴ用に、2セット。
自宅への設置作業もお願いしたい。
設置場所は2階、グランドピアノを置く予定の部屋なので、床は補強されているはず。
生体についてはまだ決めてない。
まずは、水槽の見積もりをお願いする」
生体に関してはオークションで購入しようと思うので、まずは水槽の立ち上げを行おうと思う。
「い、いや、その」
「ま、舞?
何を言ってるのかママわからないのだけど」
「問題ない。
ちゃんと紙に書いてきた。」
「あの、専門のスタッフ呼んできます。」
渡した紙を見たスタッフさんは、少し離れた場所で水槽のメンテナンスをしていた男性スタッフのもとへ、駆け寄っていった。
「あ、お客様。
水槽の件ですが、正式なお見積もりの前に、ざっくりとした概算になりますが、金額はこちらになります。
本当に見積もりさせていただいて良いのですか?」
男性スタッフさんが俺に質問をしながらタブレットで見積もりを作成して、それを明日香さんに見せると、彼女の様子が変わった。。
「あの、ありがとうございます。
ちょっと検討します。
舞、ちょっとこっちにいらっしゃい・・・」
明日香さんがスタッフさんのお礼を言った後、お店の入り口まで引っ張られながら移動した。
「どうしたのママ?」
「お魚の飼育は中止にします。
いいですね!!」
「え、ええ・・・?」
タブレットに表示されたざっくりとした見積もり金額は100万円。
まあ、これくらいだろうとは思っていた。
それに、徹君は「予算は気にしなくていい」と言ってくれたし、40万円もするリュックを買ってくれたくらいだから、これくらい余裕だと思っていたんだけど・・・?
「パパは「黙りなさい!」」
「は、はい・・・」
明日香さん、こわいです・・・




