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塩味

「さて、今日も家に直行と」


 授業が終わり、待ちに待った放課後だ。今日も今日とて【インスタント美少女】を楽しまねば。そうだ、味変ならぬ属性変のために家にない調味料も買っておくか。100円均一の店に寄り道決定だな。


「涼二、今日も速攻で家に帰るのか?」

「ああ、だから一緒にどっか寄ったりとかは出来ないぞ」

「いや、それはお前の自由だけどさ、最近帰るスピード前にも増して早くなってね?」

「……色々あるんだよ」


 クラスメイトの小折尚(こおり しょう)が痛い所をついてきた。サバサバしていて、変に面倒なことに誘ってこないので割と気が合う。それは良いのだが……


「相変わらず姫花ちゃんのお誘いも断ってるんだろ? 俺からすれば信じられないよ」

「……姫花でも面倒なモノは面倒なんだよ」

「あの姫花ちゃんと一緒に過ごせる時間が面倒ねえ、幼馴染だからって感覚麻痺してるんじゃねえのか?」

「余計なお世話だ。じゃあな」


 尚の相手をするのも面倒になってきたので強引に話を終わらせたが……上手く言い返せないだろうと思って誤魔化したのもある。尚は何だかんだで物事を冷静に見れる奴だ、クラスのアイドル的存在の姫花を面倒だなどと言う俺が異端なのも分かっている。


 ……正直なところ、姫花と過ごす時間は嫌いじゃない。一昨日の油子や昨日の噌花が言っていたように、姫花のことを気に入っているのも間違いではないと思う。でも……やっぱり面倒なことは変わりない。面倒なことを頑張ったところで報われなどしない、やっぱり手軽に楽しむのが一番なのだ。


***


 家に帰り、毎度のごとくお湯を沸かし、【インスタント美少女】の用意をした。今日はどの味にしようか……


「次は……塩かなあ」


 塩味の【インスタント美少女】にお湯を注ぎ、蓋をした。今回は遅めに4分間待って食べてみるか。


「属性変は……メンマを入れてみよう、塩は味がシンプルなだけにアクセント欲しいし」


 4分経ってから蓋を開け、メンマを入れて食べてみた。シンプルながらも、やはり美味い。食べ終えると今回もカップ麺の容器が光だし……パッケージに描いてある美少女キャラが現れた。


「こんにちは、涼二君」

「は、はい」


 今回は可愛い、というより美人な感じだ。大学生くらいだろうか、パッケージの子より大人びており、思わず敬語になってしまった。着ている服は非常にセンスのある洋服で、周囲の友人からファッションリーダーとか言われていそうだ。


塩谷分美(しおたに ふみ)です、よろしく」

「塩味だから、さっぱりした性格ってこと?」

「ええ。更にメンマを加えてくれたので、一本芯が通った頼れる先輩よ」

「ちなみに、複数のトッピングや調味料を混ぜたりも出来るの?」

「可能だけどその塩梅によっても変わるし、やりすぎるとよく分からない感じになる可能性もあるから気を付けて。料理も美味しいからって、何でもかんでも混ぜれば美味しくなるとは限らないでしょ?」


 確かに。それにしてもさっぱりしっかりした先輩風味な性格ね……試しにそんな姫花を想像してみた。うーん……姫花は可愛いというイメージが先行しているから、新鮮だな。


「……何を考えているの?」

「ん、さっぱりしっかりした先輩風味の姫花を」

「また姫花さんですか……付き合ってるの?」

「いや、違うけど」

「呆れた……まあ良いわ、ちょっと待ってて」


 何だかちょっと不機嫌な分美は裁縫セットを取り出し、光のごとく速さで編み物を始めた。多分この子も3分しかいれないからなんだろうが、あまりに超速過ぎる。さすがにこれは魔法なんだろうなあ。


「はい、完成。着せてあげるわ」

「あ、ああ」

「暖かい?」

「……そうだな」


 編み終えたセーターを、分美が直接着せてくれた。手編みのセーターというのはこうも味わい深いモノなのか、心まで暖かくなった気がする。それに着せてくれる時に分美の手が俺の顔や首に当たったのもポイントが高い、妙にくすぐったいというか。


「あ、コーヒー淹れてあげるわ。より暖まるわよ」

「……よろしく」


 これまた光のごとく速さでコーヒーを淹れてくれたので(魔法だろうけど)、お手製サンドイッチと一緒に頂いた。やはりインスタントコーヒーとはわけが違う、美人な先輩とコーヒーショップデートをしたらこんな感じなのだろうか。


「あら、残念だけど時間ね」

「何だか最近は3分がやけに早い気がするなあ」

「ふふ、嬉しい言葉ね」


 さっぱりしっかりした先輩、これも思った以上に良かったなあ。やはり女性は可愛いだけじゃない、こういう包み込んでくれるような雰囲気も素晴らしいものだ。


「それじゃ、涼二君がまた塩味を選んだ時に会いましょう」

「ああ」

「……あまり姫花さんに甘えすぎないことね」


 そう言い残し、分美は消えた。今回も良かったが……


「姫花に甘えすぎないように、か……そんなものかね」


 初めて会った人が何を言ってるんだ、と言いたいところだが分美は非常に頼れる感じがした。それだけに、ただの戯言と片付けるのもどうかと思う。


「……風呂でも入るか」

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