インスタント美少女
面倒臭い。それが俺、秋吉涼二の口癖である。この春に晴れて高校生になったが、ぶっちゃけ青春とか興味ない。勉強? 教師に言われない程度にやっとけばいいだろ、幸い頭は悪くない。部活? 知らん、帰宅部一択。友情? 要領よく付き合っておけばいいだろ。
「秋吉、帰りにどこか寄っていかないか?」
「悪い、また今度な」
今日も放課後になったら家に一直線、ぶっちゃけ動画見たりネットサーフィンしている方が楽しい。わざわざ金使って、面倒な付き合いと疲労蓄積をする意味なんてない。
「涼二君、今日も何もしないで帰るの?」
「何だよ姫花、悪いか?」
「悪いわけじゃないけど……せっかく高校生になったのに、もったいなくない?」
「俺にとってはどっかに寄っていく方が時間がもったいないんだ、じゃあな」
「あ……もう」
夢宮姫花、俺の幼馴染だ。幼稚園から小学校、中学校とずっと一緒なのだが、何かと俺に世話を焼きたがる。はっきり言って面倒臭い……と思ってはいるが、別に嫌なわけではない。何だかんだで、物臭な俺がやっていけているのは姫花のおかげだ。それに何も感じない程、俺も恩知らずなわけではない。
それに……姫花はお世辞抜きで可愛い、昔から相当にモテる。見た目が可愛いだけでなく、性格も温厚で愛嬌もあるのだから当然だろう。学園の制服であるセーラー服と、ハーフアップの茶髪に付けているトレードマークの大きなリボンが、可愛さをさらに倍加させている。
「傍から見れば恵まれているんだろうけど……やっぱ面倒臭い」
物臭な俺だが、思春期の男子よろしく性欲は人並みにある、可愛い女の子は好きだ。でも……それでも面倒臭いのはお断りだ。相手のペースに合わせて色々考えて、時間をかけてあれこれしたり、あっちこっち行ったり……そういうのが嫌なのだ。例え姫花、でもだ。
「……帰ろ」
***
家に帰ると、荷物が届いていた。今、俺は一人暮らしだ。普段は両親がいるのだが、今は仕事の関係で海外出張に行っている。一カ月くらい家を空けるらしいので、その間は自由気ままにすごせるというわけだ。
「おかしいな、最近通販で何か買った覚えはないんだけど。とりあえず、中身を見てみるか」
箱を開けると、カップ麺がたくさん入っていた。見たことがない商品だけど、物臭な俺にとってカップ麺は必需品だ。誰かが間違って送ってきたんだろうけど、ありがたくいただいてしまおう。
「えっと、商品名は……『インスタント美少女』? 何だこりゃ」
そりゃ最近はアニメだの漫画だのゲームだのとのコラボ商品は珍しくないけど、さすがにこれは斬新すぎるだろ。可愛いキャラがプリントされてるけど、何の作品だろう?
「とりあえず食べてみるとするか。まずは王道の醤油味からっと」
俺はお湯を注ぎ、3分待った。食べてみたが、味は可もなく不可もないといった感じだ。まあ、タダで貰ったのだから贅沢は言わないが……と、思った矢先だった!!
「……ええ!!!!」
「こんにちは、ご主人様!!」
食べ終えたカップ麺の容器が光だし、次の瞬間……パッケージに描いてある美少女キャラが、現実に現れたのだ!!
「どうしたんですかご主人様、お化けでも見たみたいな顔して」
「……VRとか、じゃないよな? それか実は疲れが溜まっていて、幻覚を見てるとか」
「現実ですよ!! 大体、幻覚は喋らないし、ほら……触ることもできるでしょ?」
「……確かに人間の体温だな」
前に姫花と手を繋いだ時と同じような感触だ。あの時はドキドキした……じゃなくて、これはもう、本物の人間だと認めるしかないのか?
「だけどさ、カップ麺から人間が飛び出てくるとかどんな科学だ?」
「科学じゃありません、魔法です!!」
「……まあ、そう考えるしかないよなあ」
魔法って聞いたら、普通はあり得ね~!! とか、アホか!! って思うだろうけど……ここまであり得ない光景を見せられると、逆に『科学じゃ無理じゃん、魔法しかありえないじゃん』と思えるから不思議だ。
「で、君の名前は?」
「醤司油子です!!」
「……醤油味だけに、か」
正直、無理矢理感が凄いが、見た目はかなり可愛い。年齢は俺と同じくらいか、着ている服はセーラー服で、綺麗なストレートの黒髪をしている優等生タイプ、まさに王道だ。
「……もしかして、醤油味は王道だから、そういう見た目なの?」
「はい!! 設定も王道の幼馴染で、世話焼きですよ」
「……まるで姫花だな」
「誰ですか、その人」
「俺の幼馴染」
そう言い、俺はスマホの画面を油子に見せた。高校入学時に撮った、姫花の写真だ。
「こ……これは何とレベルが高い!! 理想の幼馴染じゃないですか!!」
「まあ、否定はしないが」
「むむむ……これは私のプライドをかけた戦いになりますよ!!」
「いや、何の戦いだよ」
俺が呆れた表情でそう言うと、油子は用意していたお弁当を取り出し、箸でおかずを掴んで俺の口に近づけてきた。俗にいう「あーん」だ。
「はい、ご主人様」
「お、おう」
俺は思わず食べてしまった。仕方がないのだ、こんな理想のシチュエーションに逆らえる男はいない。しかも普通に美味い、いつのまにかエプロンをセーラー服の上から着ているのもポイントが高い。
「さあ、次は膝枕ですよ!!」
「あ、ああ……」
俺は流されるがままに、油子の膝に頭を乗せた。柔らかくて、良い匂いがする……気持ちが凄く和らいで、このままぐっすり眠れそうだ。
「と、ここまでです!!」
「へ? いや、まだまだ味わいたいんだが」
「残念ですけど、時間切れです」
「時間切れ?」
「はい!! この『インスタント美少女』から出てくる子達は、3分間しか存在できないんです」
……何だか地球を救うウルトラな存在を思い出したが、カップ麺ともかけてあるんだろうな。
「じゃあつまり、他のカップ麺もお湯を注いで食べ終わったら、3分間パッケージに描いてある美少女が出てくるってわけか?」
「はい!! みんな違って個性的で、魅力的ですよ。あ、でも一日一人しか出てこれませんから、気を付けてください。両手に花は出来ません!!」
「お、男の夢が……」
「でもですね、味変ならぬ属性変は出来るんですよ!!」
「……何だ、属性変って」
謎のワードが理解できない俺は、油子に説明を求めた。
「例えばですね、お湯を入れて3分待たずに早めに食べれば見た目が子供っぽく、3分以上長めに待って食べれば見た目が大人っぽくなります」
「あー、今回はぴったり3分待って食べたから、俺と同い年くらいの見た目なのか」
「はい!! で、何か調味料や具を加えると、雰囲気や性格に変化をつけることが出来ます」
「例えば?」
「そうですね、バターを入れるとまろやかになったり、唐辛子を入れるとキツめになったり」
「やべーな、可能性無限大じゃん!!」
俺は試しにまろやか風味な姫花と、キツめな姫花を想像してみた……何だか想像以上に楽しそうだ。
「あの……何を想像していたんですか?」
「ん、まろやかな姫花とキツめの姫花を」
「本当に姫花さんのこと、好きですねえ」
「いや、周りにいる女子が姫花しかいないし」
「はぁ……もう良いです。とにかく、説明としては以上です。では、ご主人様がまた醤油味を選んだ時に会いましょう!!」
そう言って、油子は姿を消した。何というか、あまりに現実味の無い3分間だったが……何だか明日からがちょっと楽しくなってきたような気がするぞ。