アンパンマンが自分の顔をハンサムに作るよう、ジャムおじさんに頼まないのはなぜか?
パン屋に行くと、たくさんの商品の中で、キャラクターの顔になっているパンがある。もちろん、手作りのため、一つとして同じ物はない。
笑顔のパンが並ぶ中、微妙な角度の違いで特別に笑顔のものや、半笑いになってしまっているものもある。
そこでふと思った。
アンパンマンが自分の顔をハンサムに作るよう、ジャムおじさんに頼まないのはなぜか?
まず、最初に思い付いたのは、単純に『伝え忘れ』である。
いつもここをこうしてほしいと思っても、戦っている最中に思い出すもんだから、次回のために伝えるのを忘れてしまうのだ。
「アンパンマ~ン、新しい顔よ~!」
と言われた時、
(あ、また言うのを忘れてた……。またあの顔か……)
と、なっているパターン。
戦い終わったら、ホッとしているため、また伝えることをすっかり忘れてしまう。あり得ない話ではない。
次に思い付いたのは、『言い出し辛い』だ。
長年お世話になっているジャムおじさんに、ハンサムに作ってほしいなど、どう気分を害さずに伝えられようか。
言った途端に、あなたの作品はダサいと言ったも同然であり、更にはその顔をしている自分も落ち込むという二段階の重い空気。
とても耐えられない、それならばと、いたずらに時が過ぎているパターン。あり得ない話ではない。
次に思い付いたのは、
「もうちょっと、ここをこうして下さると有難いです」
「分かったよ、アンパンマン」
と、言っていたにも関わらず、ついつい長年のくせで、また同じ顔をジャムおじさんが作っているパターン。これは100%ジャムおじさんに非がある。
「そうじゃったそうじゃった。すまんかったな、アンパンマン」
と、アンパンマンの注意を受けてミスに気付くパターンもあれば、オーブンから出した時に、
(あ、またいつもの顔で作ってしまった)
というパターンもあるに違いない。
「バタコ、急いで運ぶぞっ」
「あれ? でもこれ、いつもの顔よ」
「バタコ、アンパンマンが大変なんじゃっ。そんなことを言ってる場合ではないのじゃぞっ」
「ええ~~っ、怒られても知らないわよ」
「今回、今回でマジで最後じゃっ」
「前もそう言ってたじゃない、もう」
と言われながら、間違えて作った顔を運んでいるパターン。あり得ない話ではない。
次に思い付いたのは、
「いや、この顔が一番ハンサムだと思うんじゃ」
と、ジャムおじさんが話し合いに一切応じてくれないパターン。アンパンマンにとっては一番やっかいなヤツである。
「流行り廃りに流されてはいかんぞ」
「……そうですよね」
と、その場では無難に相槌を打ち、部屋で一人になった時に、そっとため息を吐くアンパンマン。
このパターンの場合、戦っている相手は、バイキンマンではなくジャムおじさんということになる。
そうなると、次に思い付いたのが、
「納得いかん、こんな顔は!」
と、作ったアンパンマンの顔を、ジャムおじさんが床に叩きつけるパターンだ。
壺職人が駄作を床に割る如く、納得いかない作品を世に残しておくことが許せない職人気質なジャムおじさん。多くのトラブルを解決してきたアンパンマンでも、気難しい人の前ではお手上げである。
いくら、
「これでいいですよ。僕は気に入ったのでつけて下さい」
と言ったところで、
「いや、こんな駄作をつけるなんて君に申し訳ない。とりあえず、今回もこれで」
と、いつもの顔を付けられて話が進まないパターン。あり得ない話ではない。
しかし、やはり最終的には、
(うん、今日もいい顔だ)
と、アンパンマン本人が自分の顔を気に入ってるパターンだ。
もしくは、
(ヒーローは親しみやすくあるべし。やはり、この顔でなくては。しょくぱんまんがいるのだから、イケメンのポジションは二人もいらない。僕は僕の仕事をしよう)
と、自分のイメージをきちんと真面目に守っているパターン。
いや、ちょっと待て。これも違う。
きっと、これだ。というか、どう考えてもこれだ。読者の皆さんも呆れながら、いつまでボケたいんだよとツッコミながら読んでいたことだろう。ちゃんとまともな解答に戻ってきましたよ。
アンパンマンは自分の見た目など気にしないはずだ。
アンパンマンの頭の中は、街のパトロールのことと、バイキンマンの対処法と、甘いあんこでいっぱいのはず。
ルッキズムを良しとしない世の中になったとは言え、相変わらず、少女漫画ではイケメンと両想いになり、青年マンガでは美女にモテる主人公が描かれている。
しかし、どうか、アンパンマンには見た目など無頓着でいてほしい。
しかし、である。やはり、いくら見た目に無頓着とは言え、アンパンマンにも感情はある。
ジャムおじさんのその日の出来で、アンパンマンの気分は多少なりとも左右されているに違いない。
(今回のはいまいちだから、早くバイキンマン来てくれへんかなぁ……)
そんなことを思ってしまった時、アンパンマンはバイキンマンに助けられている自分に気付くことになるだろう。
バイキンマンとは、知らず知らずのうちにウィンウィンの関係になっていたのだ。
すぐに顔がダメになってしまった回は、あまり気に入った顔ではなかった可能性が高い。
一生戦うことでしか生きられない孤独なヒーロー。愛と勇気だけが友達という歌詞も、まんざら嘘ではないのかもしれない。
読んでくださって、ありがとうございました。
連載中のやつをほったらかしにして、なにを書いてるんだろう。人生で一番、アンパンマンとジャムおじさんのことを考えてました。




