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97.私が、エリザベス

 悲しいかな、どんな気分になっていようとも、美味しいものはやっぱり美味しくて。

 気持ちが沈んでしまっていたはずの私は、その後のお料理の美味しさに、結局すっかり持ち直していた。

 そのまま最後の紅茶まで楽しんでいると。


「もう一つ、あなたに謝罪しなければならないことがあります」


 唐突にエドワルド様から切り出された言葉に、ただただ驚いてしまった。

 食事の前のあの時間の中でも、十分に謝罪の言葉はもらっているのに。これ以上に、まだ何かあるのかと。

 思わず、口元へ運ぼうとしていた紅茶のカップを、そっとソーサーの上に戻して。


「謝罪に関しては、もう十分していただきました。こんなに美味しいお料理までいただいて――」

「いえ。そういうわけにはいかないのです」


 真っ直ぐエドワルド様を見つめながら、ゆっくりと言葉を紡いでいた私だけれど。それを遮って、エドワルド様は首を横に振る。


「どうしても、謝罪と確認を……。あなたの口から真実を聞きたくて、今日は来ていただいたのですから」


 強い意志を宿した瞳で、目的を口にするエドワルド様。

 謝罪だけが目的ではなかったのだと、ホッとしたような裏切られたような、微妙な気分にはなるけれど。それ以上に。


「真実、ですか?」


 その言葉に、引っ掛かりを覚えた。

 まるで、オットリーニ伯爵邸では話せない内容だとでも言わんばかりの、その言葉選びに。

 そして何より、謝罪や確認が必要な、私の口から聞きたいというその事実に。


(もしかして……)


 隠しているわけではないけれど、誰も信じてくれないだろうからと話してこなかった、今回の謝罪に至ることになった経緯の根幹の部分なのではないかと。そう、考えて。


(どう、しよう)


 話すべきなのか、それとも話さないべきなのか。

 自分の中では、まだ迷いが残っているけれど。


「前回、あなたの話を全く信じようとしなかった私を信じて欲しいと口にするのは、大変烏滸がましいことですが」


 私が決断するよりも先に、エドワルド様が先へ先へと話を進め始めてしまう。


「私が保護した白い大型犬について、知っていることがあれば教えていただきたいのです」

「っ……」


 メガネの奥の瞳は、ただひたすらに真剣で。

 エリザベスという存在は、確かにここフォルトゥナート公爵邸で愛されていた。誰からも大切にされて、何不自由なく過ごさせてもらって。

 それを一番よく知っているのは、他でもない私自身だ。


「教えてください。以前のあの言葉は、真実だったのか。それとも、知っていることを私に伝えようとしてくださった言葉だったのか」


 だからエドワルド様だけではなく、この瞬間食堂内にいる全員の空気が変わったことにも、ちゃんと気付いていたし。表情は変わらなくても、誰もが私の言葉を待っているのだということも、ちゃんと分かっていた。


「私には、あなたが発したあの言葉の意味を正確に汲み取ることは、できませんでした。だからなおさら、あなたを傷付けてしまったのではないかと」


 テーブルに置かれた手が、強く握りしめられて白くなっていってしまう様を見ながら。エドワルド様がどれだけあの日のことを後悔していたのかを、今さらながらようやく知る。

 それはきっと、私がパートナー探しをしている間もずっと、考えてくれていたことだったのだろう。


(……それを、嬉しいと思っちゃうのは、ダメだよね)


 けれど気が付いてしまった以上、自分自身の心を欺き続けるのは不可能なのだから。

 だったらいっそ、エドワルド様へのこの想いは大切に抱きしめながら。それでも前を向いて歩いていくことを選択するほうが、ずっとずっといいのかもしれない。

 そのための、第一歩として。


「私が、エリザベス本人です」


 全ての真実を明らかにしてしまおうと、ようやく決心がついたのだった。



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