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93.フォルトゥナート公爵邸へ

 公爵様との会食にドレスだけでは心もとないからと、おば様が張り切って宝飾品を揃えてくださったので、おそらく恥ずかしくない格好にはなっているはず。


(……いや、でも、そうじゃなくて)


 それ以前の問題で、どうして今度はフォルトゥナート公爵邸へと向かうことになっているのかという、根本的な部分は一切解決していない。

 謝罪のための昼食って、いったい何なんだと。問いかける相手もいないのに、何度口にしそうになったことか。


(それとも、高位貴族の中ではこれが普通なの?)


 だとすれば、あまりにも恐ろしすぎる。

 自らのテリトリーに誘い出すなど、どちらかといえば野生動物が狩りをする際に取る手法ではないか。


(え、何。今から私、狩られるの?)


 自らがエリザベスだなどと、虚偽の申告をした罪だ、みたいなことだろうか。

 ふざけているように思われるかもしれないが、実は大真面目に考えていたりする。

 実際、偉い人の不興を買って破滅した人物の話は、歴史上に数多くあるのだから。ないとは言い切れない。

 ただ。


(お相手がエドワルド様となると、ちょっと考えにくい気もするんだよなぁ)


 緊張と疑問だけを抱きながら、通り過ぎていく街並みを眺めていると、ここは本当に自分の知らない場所なのだと唐突に認識してしまって。なぜか、心細さまで感じてしまう。

 そのままわけも分からず、不安に押しつぶされそうになってしまって。慌てて目を閉じて、ゆっくりと深呼吸する。

 非日常すぎる体験に、体も心もついていけていないだけ。実際には問題など起きていないし、必要以上に心配することもないのだと、自分に言い聞かせながら。

 そうこうしている内に、馬車は一度ゆっくりと止まって。外から鉄柵が開くような音が聞こえてきた。


(あぁ、そっか。王都のお屋敷の門って、基本的に鉄でできてるんだもんね)


 実家が木の柵だったので、初めてオットリーニ伯爵邸に入った時にはそれだけで驚いていたことを、今唐突に思い出した。

 再びゆっくりと動き出した馬車の後ろで、今度は鉄柵が閉じる音が遠くなっていく。

 それに、少しだけ懐かしさを覚えていると。


「到着いたしました」


 あっという間に玄関に着いてしまって、今度こそ馬車がしっかりと停まった。

 御者台から声がかけられたと思ったら、そのまま外から扉が開けられて。


「お待ちしておりました」


 なぜか顔を覗かせたのは、ディーノさん。


「……え?」


 思わず小さく呟いてしまった私に、数回瞬きした後。


「どうかなさいましたか?」


 不思議そうに、そう聞かれてしまった。

 そもそも迎えに来てくれた人は、別の使用人の男性だったはずで。しかもディーノさんは、エドワルド様付きの特別な人のはず。

 それなのに、なぜこんなところにいるのか。


(正直、ものすごく気になるところではあるけど)


 それを聞いていい場面ではないことは、重々承知しているので。


「いえ。先ほどとは別の方だったので、少し驚いてしまいました。すみません」


 とりあえず、無難な受け答えをしておいた。

 別人が出てきて驚いた、というところに嘘はないので、問題はないはずだろう。

 全てを正直に言葉にするのが正しいとは限らないと、この間学んだばかりでもあるからこその返答だったが。


「いいえ。こちらこそ驚かせてしまったようで、大変失礼いたしました」


 どうやら間違いではなさそうだったので、まずはひと安心。


「お手をどうぞ」

「ありがとうございます」


 差し出された手を取って、ゆっくりとステップを降りていく。

 普段とは違うドレスとはいえ、扱い方をしっかりと学んできた成果が出ているのか、裾を踏んでしまうかもしれないというような不安は一切なかった。


「ご案内いたします。どうぞこちらへ」


 そのまま当然のように、ディーノさんについていく形になって。

 久々にフォルトゥナート公爵邸内を歩いているけれど、さすがにまだ道のりを覚えている私は、途中で気付く。


(これ、そのまま食堂に直行のコースだ)


 つまり、エドワルド様はすでにそこで待っている可能性が高いということ。

 だからといって、ディーノさんが迎えに出てきてくれた理由は、謎のままだけれど。

 とりあえず行けばわかるかもしれないの精神で、私は静かにディーノさんの後ろをついていくのだった。



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