89.重要な結論 ~エドワルド視点~
(それと、もう一つ)
彼女が嘘を口にした、その真相を。おそらく私は、知る必要がある。
それがこちらの態度に対するものだったのか、それとも本当に何か知っているのか。
(考えてみれば、あそこはオットリーニ伯爵邸)
パドアン子爵家の人間も、いわば客側だ。もし仮に何かを知っていたとしても、全てを話してもらえていたとは限らない。
それ以前に、あの場でしていい会話だったのかも分からないのだ。
もちろん、ただの口から出まかせだった可能性も捨てきれないが。それならばあの涙は、いったい何だったのかという話になる。
結局、もう一度しっかりと会って話してみなければ、答えなど得られないのだ。
「まずは、手紙からだな」
いつの間にか夜が明けているようで、カーテンの隙間から明るい光が差し込んできている。
必要のなくなったランプの火を消して、ひと息ついたその時だった。
「失礼いたします」
扉をノックする音と、廊下側から聞こえたディーノの声に、もうそんな時間だったのかと少々驚く。
結局何一つ手につかないまま、一文字も進んでいない書類に目を落として、思わず苦笑してしまったけれど。
(今日ばかりは、仕方がないか)
それよりも重要な結論を得られたので、今回ばかりは有意義な時間だったと自分を納得させた。
「おはようございます。やはり、すでに起きていらっしゃったのですね」
「あぁ」
もはや驚くことすらなくなったディーノに、小さく頷いて返す。ここ数日は毎朝同じことの繰り返しなので、さすがに慣れてしまったのだろう。
そのまま私の前を通り過ぎて、部屋のカーテンを開けていく。
差し込んできた眩いばかりの光に、思わず目を細めてしまったが。今日ばかりは、それが希望の光のようにも見えた。
「おや? もしや多少なりとも、お休みになられたのですか?」
「いいや、全く。一睡もできていない」
「それは、失礼いたしました。随分と清々しいお顔をなさっておいでだったので、早とちりしてしまいました」
申し訳なさそうにディーノはそう口にするが、私からすれば驚きの言葉だった。
つまり、昨日までとは明らかに表情が違うと。そういうことなのだろう。
それならばと覚悟を決めて、小さく深呼吸してから。
「……ディーノ」
「はい」
「手紙を書く。アウローラ・パドアン子爵令嬢に、今度こそしっかりとした謝罪を」
ダークブラウンの瞳を真っ直ぐに見ながら、そう伝えた。
その瞬間、それはそれはいい表情で頷いたディーノは。
「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」
それだけ言って、部屋を出ていこうとして。ふと、扉の前で足を止める。
どうしたのかと不思議に思いながら、その後ろ姿を見ていると。おもむろに、こちらを振り向いて。
「エドワルド様。一つ、疑問に思っていることがあるのですが……。お伝えしても、よろしいでしょうか?」
真面目な顔をして、そう問いかけてきた。
あまりにも珍しすぎるその言葉に、こちらも驚いてしまう。普段であれば、疑問をそのまま口にしているはずの男が、確認を取るなんて、と。
「どうした? 改まって」
「あまりの愚察に、ご気分を害してしまわれるのではないかと」
「いい。話せ」
だが、許可を出さない限りは話すつもりはないらしい。それを言葉の端から感じ取って、先を促す。
むしろこのままでは、気になって仕方がないのだ。
「では、僭越ながら」
だが、次の瞬間ディーノの口から発せられた言葉は。私の想像を、はるかに超えたものだった。




