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80.原因は

 そんな状態だったので、気が付いた時にはすでにダンスホールの中で、ディーノさんの手と声によるカウントで踊っていた。

 なぜか、エドワルド様と。


(いや、本当に何で!?)


 困惑が抜けきれないまま、それでも足を止めるわけにもいかず。

 身長差としては、ギリギリ踊るのに支障はなさそうだったので、そこの問題はなかったけれど。

 それはつまり逆説的に、パートナーとしても問題ないということで。


(というか、そもそも家族以外の男性と踊るのも初めてなんだけど……!)


 人間の姿で、ちゃんと意識のある状態のエドワルド様とこんなに密着するのも、もちろん初めてだけれど。

 それ以上に、ある意味でファーストダンスとも言えるこの状況は。


(思ってたよりも、何かドキドキするし……!)


 緊張が、困惑を上回った瞬間と言うべきなのか。それとも、ちゃんと女性として扱われながらの異性との接触だからなのか。

 この短時間に色々とありすぎて、自分の鼓動が早くなっている理由すら明確ではない。

 ただ一つだけ、確実なのは。原因は全てエドワルド様にあるということだけ。


「お上手ですね」

「い、いえ……! 公爵様のリードにお任せしているだけですからっ……」


 動くことは好きなので、ダンスも嫌いではなかった。だから座学よりも、楽しく学んだ覚えはあるけれど。

 エドワルド様のリードに任せているという言葉も、嘘ではなく。そもそもこんな困惑した状況で、普段通りに踊れるはずがない。

 それなのに当然のように足が動くのは、他でもないエドワルド様が、ちゃんとリードしてくれているからで。


「私のダンスは、型にはまりすぎていて面白くないそうですよ?」

「……それは、どなたがおっしゃったことですか?」

「公爵家に出入りしていた教師に」


 少しだけ苦笑して告げられるのは、それが一度ではなかったからなのかもしれない。

 けれど下手に自己流で踊られるよりは、基本に忠実であってくれたほうが、合わせやすくて助かるのも事実。

 それに。


「でしたら、公爵様はどなたとでも問題なく踊ることができる、素晴らしい方ですね」


 ダンスの相性を考えなくていいということは、逆を言えば誰とでもしっかりと踊れるということ。

 型通りであることが悪いことだとは、私には思えないし。何より型がしっかりできているのであれば、きっと踊っている姿は美しいはず。

 日常生活の中でも滲み出ている優雅さが、損なわれるとは思えないので。おそらく、それすら上乗せされているのかもしれない。


「男性とのダンス経験が極端に少ない私でも、こうしてお話しながら踊れるのですから」


 家族以外の男性とは踊ったことがない、とまでは口にしないけれど。実際、ダンス以外が同時にできるというのは、それだけ余裕がある証拠なのだから。

 自己流のリードに振り回されていたら、きっとダンスについていくだけで必死になっていた気がする。


「……ありがとう、ございます」


 でも、エドワルド様は私の言葉が意外だったようで。足を止めたりステップを間違えたりはしていないけれど、顔は明らかに驚いたような表情をしていた。

 逆に何が意外だったのか、私のほうが不思議に思ってしまうくらいではあったけれど。


(とりあえず、ちょっとだけ冷静になれた気がする)


 いまだに、どうしてエドワルド様と踊っているのか謎ではある。

 とはいえそれを考えても、答えなんて出ないのだし。そういう状況になってしまっている以上、そこは一度忘れて。


(今考えるべきは、パートナーになってもらうかどうか、だよね)


 エドワルド様の先ほどの談話室での発言を、受け入れるかどうか。

 ここまで連れて来られた時の強引さとは打って変わって、とても優しいリードに身を任せてステップを踏みながら。

 私は真剣に、そのことを考え始めたのだった。



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