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79.混乱の極み

「え、っと……。公爵様、今、何と……?」


 それでも、聞き間違いかもしれないという可能性に賭けて、問いかけてみた私に返ってきたのは。


「デビュタントのパートナーです。私など、いかがでしょうか?」


 無情なほど、ハッキリとしたエドワルド様のお言葉。

 この瞬間、幻聴であってほしいと願っていた私の密かな思いは、見事に打ち砕かれたのだった。


(というか、何で!?)


 そう、そこだ。

 確かにデビュタントのパートナーが決まっていないのだと、うっかり漏らしてしまったけれど。だからといって、エドワルド様が直々に立候補してくる理由はないはずだ。

 そう考えている私の思考を完全に読み解いたかのように、エドワルド様は言葉を続ける。


「陛下には、まだ婚約の予定すらないことをお伝えしてありますし。現在パートナー決定の書類の提出がされていないのは、お一人だけですから」

「あ……。そう、なのですね……」


 そして地味に、ここでもショックを受ける。

 どうやら本当に、私だけが決定していなかったらしい。

 まさかここでそれを知ることになるとは思ってもみなかったので、衝撃が大きすぎて。


(しばらくの間、立ち直れないかも……)


 などと、一人落ち込みかけていると。


「今回ご迷惑をおかけしたことも含めて、私であれば後に説明がしやすいので。いらぬ誤解を招く必要もないですし、どうでしょう?」


 なぜか、予想以上に自分を売り込もうとしてくるエドワルド様に。落ち込むよりも先に、困惑しかなくて。


「え、っと……」


 どう答えるべきなのか正解が分からず、戸惑っている私に。エドワルド様はソファーから立ち上がって、こちらに手を差し出してくる。


「まずは、パートナーになれるかどうか確かめていただけますか?」

「確かめる、とは?」


 いったい、どうやって?

 口には出さなかったその言葉を、エドワルド様は正確に読み取って。


「音はありませんが、一曲お相手願えませんか?」


 そうダンスに誘ってくる。

 けれど、ここはあくまでオットリーニ伯爵邸。さすがに談話室で踊るわけにもいかず、かと言ってダンスホールをお借りするには、伯爵様の許可が必要になる。

 エドワルド様とのダンス以上に、その事実にどうするべきかと迷っている私に。


「あぁ、ご心配には及びません。ダンスホールの使用の許可は、オットリーニ伯爵から先ほどいただいておりますので」

「……!!」


 とてつもない宣言をしてくる、エドワルド様。

 思わず素で驚いてしまった私は、その顔を真っ直ぐに見上げてしまって。


(いつから、パートナーになるって切り出す予定でいたの!?)


 玄関ホールから、この談話室に到着するまでの道のりの間に。いったい、どんな会話が交わされていたというのか。

 というかそもそも初めからその気でなければ、許可など取ろうとも思わないのではないか。

 などと考えてしまい、混乱の極みにいる私の手をサッと取って。


「さぁ、行きましょう」


 有無を言わさぬ優雅さで、気が付けば談話室を連れ出されていた。

 この間、オットリーニ伯爵家の使用人の女性は、ただ驚きに満ちた顔でこちらを見ていて。けれど主が許可を出している手前、何も口を挟むことすらできず。

 結果、私たちの後ろを、ただ静かについてくるだけになってしまっていて。


(というか、エドワルド様ってこういう時意外と強引なんだけど……!)


 想像すらしていなかった展開に、もはやついて行けなくなってしまった私は。掴まれた手と腰に添えられた手に促されるまま、練習のために何度も通っているオットリーニ伯爵邸のダンスホールへと、足を向けていた。

 完全に、エドワルド様のエスコートとペースに乗せられたままで。



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