表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/117

77.おば様が本気

 とはいえ、そう簡単に辿り着けるような真実ではない上に、そもそも知られたとして私自身には一切の非がないのだから。

 どんなことがあっても堂々としていようと決めて、伯爵様に日程の調整をお願いすることにした。


(私には決定権もないからね)


 そもそもデビュタントとしての準備のため、オットリーニ伯爵邸に滞在させていただいてお世話になっている身。

 エドワルド様をお招きするにしても、フォルトゥナート公爵邸に向かうとしても。そのための準備が必要になるのは、伯爵家だから。

 なのでどちらが良いのかも含めて、オットリーニ伯爵様に委ねた結果。エドワルド様との手紙のやり取りを経て、伯爵邸にお招きするという形になったらしい。


(それを聞いて一番喜んでいたのも張り切っていたのも、おば様だったなぁ)


 その間、少しだけ心配そうな表情で伯爵様がおば様に目を向けていて。

 もしかしたらあの視線は、過去に何かあったのではないかと少しだけ心配になった私は、それとなく尋ねてみたのだけれど。


(結局、今はもう大丈夫だろうから心配しなくていい、としか言ってもらえなかったんだよなぁ)


 気になるところではあるけれど、無理に聞き出すようなことでもないので。とりあえず、私がその真相を知ることはなかった。

 ただ唯一、私が今回のことで学んだのは。

 おば様が本気で張り切るとスゴイ、ということだけ。

 何せお屋敷にお迎えするお相手が、家格が上の公爵様であり、この国の宰相閣下なのだから。


(そりゃあね、今からじゃドレスを仕立て直すのは間に合わないから、せめて宝石だけでもって思う気持ちは分かるけど)


 社交界デビュー前なので、あまり派手すぎず高価すぎない、小ぶりな宝石たちをあしらった小さな装飾品。

 それを選ぶだけなのに、宝石商を呼んであれでもないこれでもないと、長時間お付き合いすることになった私は。


(ほんの少しだけ、伯爵様が心配そうな表情をしていた理由が分かった気がする)


 などと思いながら、おば様の隣に座っていたのだった。

 おそらく最後のほうは、無表情にならないようにと必死に貼り付けた笑顔だったので、宝石商の男性には気付かれていたかもしれないけれど。

 あちらはプロフェッショナルなので、最後までそれを口や態度に出すようなことはなかった。


 そうして迎えた、エドワルド様を伯爵邸へとお招きする当日。

 数日前から磨き上げられてきていた私は、朝からドレスだの化粧だのと、それはもうしっかりと令嬢仕様にしていただいて。

 あとは到着を待つのみとばかりに、談話室でおとなしく座っていたのだった。


(ただただ、暇だけどね)


 とはいえ、お客様をお待たせしないようにという伯爵様の配慮の下、私はこの場所にいることが決定したので。

 エドワルド様が到着次第、すぐに談話室にお通しすることで無駄をなくすという、とても効率的なこの流れは。おそらく、好印象を抱いてもらえるはず。

 それを伯爵様が意識していたのかどうかは、また別として。


(今後のオットリーニ伯爵家のことを考えると、選択肢としては正解だったと思う)


 少なくとも私の知っているエドワルド様は、大変効率を重視されるお方だったから。

 特に、仕事に関することではなおさら。


「フォルトゥナート公爵様、ご到着です」


 扉の外から聞こえてきた声に、私はスッとソファーから立ち上がった。

 まずは伯爵様ご夫妻が、直接玄関でお出迎えして。その後、一緒に談話室へと向かう手はずにしたことで、少しだけ猶予が生まれる。

 その隙に、私がいる談話室へとエドワルド様の到着を知らせてもらって、最後に服装のチェックをしてもらうことにしていた。

 これは、私もオットリーニ伯爵邸からすればお客様だから、ということで。結果、玄関でのお出迎えからは外れたということ。


(こういうところも、やっぱり上位貴族はしっかりしてるよね)


 どういう間柄なのかを、対外的にしっかりと示しておくだとか。

 貧乏な下位貴族にとっては、その必要性も有用性もあまり分からないところではあるけれど。必要だからこその措置なのだろうから。


(それにしても、この状況はちょっと……いや。かなりドキドキするかも)


 非日常的な環境に、二重に置かれているような気がして。一人、緊張感が高まる中。

 談話室の扉が開かれる瞬間を、今か今かと待ちわびる私も。この時確かに存在していたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ