表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、宰相閣下の抱き枕!?  作者: 朝姫 夢
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/117

76.手紙

「た、大変だ……!」


 人間の姿に戻ってから、初めてエドワルド様にお会いしてから数日後の夕食時。珍しく、オットリーニ伯爵様が慌てた様子で食堂へと駆け込んできた。

 その手には、上位貴族にしか手が出せないほど高価な、真っ白な封筒。


「まぁまぁ、そんなに慌てて」

「どうかなさったのですか?」


 おば様も私も、ただ事ではないその様子に心配になって、声をかけるけれど。伯爵様はその勢いのまま、私の目の前へと手紙を差し出して。


「フォルトゥナート公爵様から、君宛に手紙が届いたんだ……!」


 どこか焦ったような口調で、そうおっしゃった。

 その瞬間、私はただ頭の中に疑問だけが浮かんだのだけれど。


「まぁ……!」


 驚いたようなおば様の声が聞こえて、ようやくこれが大事(おおごと)なのだと気付く。

 そもそも私はディーノさんとの約束通り、あの日あったことを誰にも話していない。

 つまりオットリーニ伯爵夫妻にとっては、何の繋がりもない大物から急に私に向けて手紙が届けられた、ということになるので。


(それは驚くわ)


 逆の立場であれば、私も驚愕していたことだろう。

 とはいえ。


(ご内密にって言われたから、黙ってただけなんだけどなぁ)


 私としては、そうとしか言えない。

 ただ、あの場でそれを口にしたのは、あくまでディーノさんで。エドワルド様ではなかった。

 ということは、あとから詳細を聞いたエドワルド様が手紙を出す判断をしていても、おかしくはない。

 内容にもよるけれど、それは読んでみないと分からないこと。


「先に、頂いたお手紙を確認させていただいてもよろしいですか?」

「もちろんだ!」


 私の言葉に、即座に頷いてくださる伯爵様。おば様も、大きく頷いている。

 お二人が許可してくださったので、私は手の中にある真っ白な封筒の中から、これまた真っ白な紙が使われている便箋を取り出して。ゆっくりと、そこに書かれている文字を追ってみる。

 すると。


(これは、つまり……)


 内容としては、ある種予想通りで。

 先日の件に対する謝罪と、急な手紙で驚かせてしまったであろうことに対する謝罪が、しっかりと書かれていて。けれど文字に残るからか、詳細もしっかりと省かれていた。

 そのせいで余計に混乱させてしまうだろうからと、私の口からであれば、信頼できる人物には伝えてもらって構わないとも書かれていて。


(まぁ、ねぇ)


 どういうことなのかと、心配そうに見つめる伯爵様と。どこか期待を込めた目で見つめてくる、おば様。

 はたして、どういう結果になるのかは分からないけれど。


(直接謝罪がしたい、なんて書かれちゃったら、ね)


 受け入れないという選択肢は、私だけではなく伯爵様にだって、存在していないことだろう。

 ということは、だ。


「実は、先日の社交界デビューに関する説明を受けた日のことなのですが――」


 私の口から、しっかりとお二人に話すしかないということ。

 エドワルド様からも許可は下りているのだし、この場であれば他に聞いている人もいない。

 当日に迷子になってしまわないように、しっかりと場所の確認をしてから帰ろうとしたというところから、説明を開始した私は。


「――ということが、あったのです」

「つまり、純粋にその日の謝罪をしたいという旨の内容だったということかな?」

「あらあら。もしかしたら、それ以上の理由があるかもしれませんよ?」


 安心したような表情で確認してくる伯爵様と、先ほど以上に瞳を輝かせているおば様という、ある意味正反対な反応をいただいてしまって。


「え、っと……。そもそも、フォルトゥナート公爵様がどのようなお方なのか、私はあまり存じ上げないので……」


 としか答えられなかったのは、致し方ないことだったと思いたい。

 現実は、極度の睡眠不足を抱えている真面目すぎる人物で。あれからしっかりと休めただろうかと個人的に心配してしまうくらいには、知りすぎているくらい知っているのだけれど。


(そんなこと、言えるわけないし……!)


 それに。

 目の前で、謝罪のみ派の伯爵様と、もしかしたら派のおば様が、対照的な表情で言葉を交わす姿を眺めながら。


(まさか、私がエリザベスだってことがバレたとかじゃあ……ないよね?)


 内心冷や冷やしつつ、背中に冷や汗が流れそうな気分になっていたことには、誰も気付いていなかったと思いたい私だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ